働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

ストレスチェック集団分析が義務にならなかった経緯

2016年12月24日 | メンタルヘルス
現行のストレスチェック制度については(受検者が正直に質問に回答しているとすれば)社員や職員のメンタルヘルス不調の発見に少しは貢献するかもしれません。

しかし、職場改善の前提となる集団的分析(集団分析)が努力義務(努力義務とは無理して実施しなくてもいいですという意味?)となり、集団分析に消極的な企業が多い現状ではストレスチェック制度がメンタルヘルス対策としての実効性を担保していません。

ですから、社員や職員といったストレスチェック受検者からすれば「高ストレス者」と判定された場合には企業や法人から不利益取扱いを受けるリスクだけが大きく、集団分析が行われ、長時間労働対策などの職場改善が行われるメリットがまったくありません。

だから、メンタルヘルス不調が疑われる社員や職員ほど正直に回答せず、結果、メンタルヘルス不調者の早期発見、そして早期治療にもつながらず、現行のストレスチェック制度は無意味な制度となってしまっています。

正確には、ストレスチェック制度はただ無意味な制度であるだけではなく、ストレスチェック制度導入のためのシステムなどの経費ばかりがかかって無駄な制度になっています。

集団分析が義務にならなかった経緯
集団的分析が義務にならなかった経緯は、2014年12月15日に開催された第5回ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会及び第5回ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会の議事録に書かれています。

議事録によると、まず三柴丈典委員(近畿大学法学部教授・産業保健法学研究会理事)が「(略)『取組を事業者の努力義務とし』という所です。趣旨としてはもちろん賛成ですが、最終的に文章にされるときに、できれば労働契約法5条(安全配慮義務規定)の文末と同じ表現にされてはいかがか。あるいはされるべきかどうかを御検討いただいてはいかがかと思います。というのは、なるべくすればいいという趣旨ではなく、場合によるということだと思います。努力義務の意味が、場合によっては、これは是非ともやっていただくべきという場合もあれば、そうでない場合もあるということで、ケースごとに判断が割れる問題であって、要するに『やらなくてもよい』という趣旨が強く出てしまうような表現よりは、『場合による』という趣旨をお示しいただくほうがいいかと思うのです。」と発言。

砂押以久子委員(立教大学大学院法務研究科兼任講師)もまた「私も今の御意見に賛成です。努力義務を法的に考えますと、やってください、やらなかったとしても仕方ないですねというような、いわゆるザル法で、無視しても良いという意味合いが強くなってしまいますので、労契法第5条との関係で言うと、配慮義務のような、何か、努力義務でないほかの表現が良いように思います。努力義務は、私も余りインパクトが低すぎるように思います。」と発言。

さらに三柴委員が「重ねてで恐縮ですが、この問題は下光(輝一)先生にも伺ったのですが、この問題は書かれているように、集団分析による手法が確実なものとはいえないという前提があって、こういう文言に表現されているというのは理解しております。ですから、余り強く表現することは、かえって問題が多いと思っております。ただ、場面によっては是非ともやっていただくべきという場合があるとは思うのです。努力義務という表現について少し工夫をいただくか、労契法第5条のような表現も1つ念頭に置いていただくか、何らかお考えいただければというぐらいの意味です。」と再度発言。

さらに高松和夫委員(日本労働組合総連合会雇用対策局長)も「関連して、今、三柴先生がおっしゃったところは、やはり私としても同感で、『努力義務』が結構いろいろなところで出るのですが、本当に努力義務で終わっているのです。もう一方の検討会でもお話が出たかもしれませんが、4月の参議院では、小規模事業場に対しても、支援事業の体制整備など必要な支援を行うことという附帯決議がされているものですから、多分、厚労省においても普及に向けた取組をしていただけるものだと思います。今回の暫定予算をどのぐらい取ったのか、後でお聞かせいただきたいと思います。そういう意味では、正しく義務である部分と、取りあえずは義務化できない部分があるということで、改めて表現、若しくは取組の部分を強化した書き方にしていただければと思います。」と発言。

その後、中村宇一・産業保健支援室長補佐が「この報告書をどう書くかという話と、実際の省令になると思いますが規定をどうするかという、両方の議論があると思います。今、三柴先生から頂いた、努力義務よりももう少し強い配慮義務にしてはどうかという御意見だと思うのですが、少なくとも報告書をどう書くかというのは、もう一度こちらで引き取って検討させていただきたいと思います。」と発言し、議論は終結しています。

*この検討会の中で、もっとも適格に話されていたのが砂押以久子委員(立教大学大学院法務研究科兼任講師)ではないでしょうか。砂押以久子委員については東洋大学のホームページをご覧ください。

→砂押以久子先生(東洋大学)


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