黒沢永紀オフィシャルブログ(旧・廃墟徒然草)

産業遺産と建築、廃墟、時空旅行、都市のほころびや不思議な景観、ノスタルジックな街角など、歴史的“感考”地を読み解く

廃道DVDシリーズ、完結!

2014-09-18 03:12:35 | 廃道
これまで各作品が出来上がるたびに、
ロケリポ形式でその撮影状況等をお伝えしてきた廃道DVDシリーズでしたが、
前回の記事でそれもおしまいです。
撮影開始から約2年、長いようで短かった廃道探索を、
最後にさらっと振り返ってみたいと思います。

◆越床峠◆

越床峠

総ての始まりは二年前の秋のこの<越床峠>からでした。
それまで廃墟がらみで無意識に廃道を歩いてはいたものの、
廃道を道として意識して歩いたのはこれが初めてでした。

廃墟は建物や街なので、周囲の殆どが廃で包まれますが、
廃道は逆に周囲の殆どが大自然で、その中にポツンと廃があります。
また廃墟の様に派手な演出もない廃道は、
<廃の俳句>だと感じたのを思い出します。

同時にひび割れたセンターラインが残るアスファルトが、
自然へ回帰していく姿はあまりにも美しく、
廃墟にはない人工と自然のコラボレーションも新鮮でした。





◆高長切川隧道◆

高長切川隧道

それまで一般の道、そしてトンネルしか通ったことのない自分にとって、
ありえない構造をした<高長切川隧道>も衝撃でした。
入口は一般のトンネルの様子でありながら、
途中から素掘るままの状態になり、
しかも素堀区間の間を洞門が繋いでいるので、
一見一本のトンネルに見えながら、
実は高長と切川という2つのトンネルが繋がっている、
という奇妙奇天烈なトンネルでした。

勿論現在は更に内陸側に長いトンネルが造られており、
逆にトンネルの外側には、かつての道の跡もありました。
こうして山肌に造られていた道が、徐々に内陸へと浸食し、
道が短縮されて行くのだということを目で見たのも初めてでした。





◆国道299号旧道◆

国道299号旧道

ただの崖の斜面にしか見えないこの<国道299号旧道>の廃道は、
廃道DVDシリーズを制作する切っ掛けとなった物件です。
廃道のDVDを造りたいという平沼さんからのオファーがあったとき、
ちょうど平沼さんに見せてもらったのがこの299号の旧道でした。

ただの崖崩れをおこした山の斜面としか思えない場所を、
ここにはかつて道があったと話しながら進む平沼さんの姿が、
あまりにもバカ素晴らしく思えたので、
DVDの計画当初から撮影対象に入れていました。

実際に現場へ行って見ると、
崖崩れで斜面とか化した廃道はあまりにも過酷で、
いくつかある崖崩れの最期の難関を越えることが出来ませんでした。
廃道が思ったより遥かに過酷で危険な場所だと思い知ったのがこの廃道です。





◆万世大路◆

万世大路

廃道としてだけでなく、日本の道路史的にも有名な<万世大路>。
明治天皇がご巡幸までされた東北地方有数の廃道は、
その歴史を現すかの様に、威風堂々としたものでした。
特に、
分水嶺を越えるべく造られた栗子隧道の山形県側の抗門は、
明治時代の素堀の隧道を残しながら昭和の隧道が造られるという、
極めて特殊な形をしていました。
明治隧道の突き当たりまで行くと、昭和隧道の外壁が見えます。
トンネルの外壁なんてのもここでしか味わえない光景ですが、
それよりなにより、この道は土木大国ニッポンを象徴するかのような道。
こういった道が今日の日本の発展を根底で支えて来たのかと思うと、
感慨もひとしおです。





◆南部新道◆

南部新道

「薮漕ぎ」という廃道の1つの試練を知った<南部新道>
元来あった路盤の、かなり長距離の区間にわたって竹が群生し、
行く手を阻みます。
行けども行けども道は竹薮に塞がれ、
さらに60年と言われる寿命が終わった竹も多く、
そういった場所では、しらっぱけた竹が幾十にも折り重なっています。

かつて人が往来し、やがて使われなくなって自然に回帰したものの、
その自然すらひとサイクルを終えて現在を迎える廃道の姿は、
もはや人知の領域を越えた地球時間の片鱗すら感じます。





◆入川森林鉄道◆

入川森林鉄道

二作目の『廃道ビヨンド』は林鉄から始まりました。
林鉄が、鉄道ではなく道路に区分されるということは、
この<入川森林鉄道>の撮影の時に初めて知りました。

もともと廃線には興味があり、オープロジェクトでも廃線のDVDである
『鉄道廃線浪漫~時の声・風の音~』をリリースしていますが、
それはあくまでも、行程の途中に駅舎の跡があったり、
また棄てられた車輛が残っていたりといった変化があってのこと。
ここまで何の変化もなく、更にシリーズで最も長距離の歩行だったため、
絵になる片洞門やS字にくねる軌道跡以外、
興味をそそられるものが殆どありませんでした。

DVDでは平沼さんの案内とともに林鉄の魅力がたくさん語られていますが、
個人的にはあまり感じるものもなく、ただ疲労だけが残った廃道でした。





◆若郷新島港線◆

若郷新島港線

初めて飛行機で移動した撮影は、東京の新島と神津島でした。
新島の<若郷新島港線>は、
アスファルト道、洞門、廃トンネル、崖崩れ、薮漕ぎなど、
廃道体験のあらゆる要素がつまった玉手箱のような廃道でした。

歴史的に語られるべきものはそれほどない道でしたが、
途中の約50メートルくらいの区間が、
かつてそこに道があったとは全く想像出来ない程激しく崩壊し、
その崖崩れによって出来た垂直にそそり立つ断崖登りが最も印象深く残っています。
国道299号旧道の崖崩れを経験しているので、なんとか登ることができましたが、
崖は200メートル以上も下の太平洋まで一直線です。
ひとたび転がったら真っ逆さま。
もっとも危険な体験をできた廃道でもありました。
緑に浸食されて行く廃道が自然とのランデブーだとすれば、
崖崩れによって崩壊した道は、自然にレイプされた印象です。





◆元名の石切道◆

元名の石切道

二作目『廃道ビヨンド』の最後撮影は、
房総半島の採石山である鋸山に残る<元名の石切道>
この道路の特徴は作業道であること。
これまで撮影して来た道はそのどれもが一般の通行のための道でしたが、
この道は純粋に石切の作業に従事した人たちのためだけのもの。
それゆえに道の作りは<親切>でなく、歩行には困難を伴います。
更に山の上から切り出した大きな石を運ぶための道なので、
平坦な場所はほとんどなく、道歩きというよりは山歩きです。

この道で最も驚かされたのは、
切り出された巨大な石の運搬に従事していたのが女性だったこと。
専用の荷車に載せて頂上付近から下界まで運んだそうですが、
よくこんな急傾斜の道を、重さ何百キロもある石を積んで運べたなと、
当時働いていた人たちの生きる執念を強く感じました。





◆うわごう道◆

うわごう道

もともと一作目の『廃道クエスト』に収録予定だった、
廃集落を結ぶ廃道<うわごう道>
この道は殆どの区間において舗装等の人工的な手が加えられていない道で、
シリーズを通して、ここまで人工物がない道路はここだけでした。
平沼さんも人工物がない廃道は自分の範疇ではないと言ってましたが、
確かに道だけ歩いているぶんには、
はたしてこれが廃道なのかそうでないのかがわかりません。
点在する集落が廃集落だということで道も廃道としましたが、
それらの集落が現役の集落だったとしても、
おそらく道の姿は殆ど変わらないと思います。
そういった意味では、
シリーズを通して最も原初の形に近い道だったと思います。





◆ニコイの廃遊歩道◆

ニコイの廃遊歩道

これもシリーズでは初物件となる遊歩道の廃道。
廃道の先にある高原へ行くために計画されながらも、
その途上で断念せざるおえず、結局ほとんど使われることもなかった道。
国内には観光誘致を目的に造られながらも、
結局ほとんど使われずに終わった施設は数知れませんが、
そこには人間の飽くなき欲望とその失敗が残されています。





◆六厩川橋◆

六厩川橋

これまたシリーズ初の物件でした。
1つには初めて水路を使ってアプローチした撮影だったこと。
そしてもう1つは初めての廃橋だったこと。
廃橋に関しては、何度か別の物件でチャレンジしながらも、
なかなか映像的に成立するものがなく、
ずっと取り上げられなかったアイテムです。

陸地からのアプローチだと、どのルートからも10キロ以上ある、
陸の孤島のような場所にある廃橋<六厩川橋>は、
橋の存在よりも、そこへのアプローチの困難さが印象深かった廃道です。
橋自体は現在でも修復すれば使えるくらいしっかりしたものでした。
しかし、今は誰一人としてその橋を利用する人はいません。
橋のおかげで便利になったことが、
その橋を使わなくてもいい状態を造り出すという究極のパラドクス。
道とはそういう運命にあるものなのかもしれないと思いました。





◆戸倉峠の明治道◆

戸倉峠の明治道

シリーズを通して最も遠くへ遠征した<戸倉峠>は、
石井さんの推薦によって敢行した物件でしたが、
遠くまで行った甲斐がおおいにあった物件でした。

明治の馬車道は万世大路の時に多少体験してますが、
ここまでの規模で石垣と路面が奇麗に残っているのは初体験でした。
特に路面の幅が広く、
本当に明治時代にこれほどの幅が必要だったのか?と思うくらいです。





◆戸倉峠の未成隧道◆

戸倉峠の未成隧道

そしてなんと言っても、
シリーズを通して最も印象深く思い出すのが<戸倉峠の未成隧道>です。
完全なる未成であること、
それによって抗門がなく半円形の巻き立てだけの入口であること、
当然名前もないので扁額もなく、地図にも載らなかったこと、
ある程度完成して使わなかったのではなく、完全に造りかけのまま放置されたこと、
それによってトンネルの建造行程がジオラマ状になっていること、
終戦間近の建造なため、その作業に半島の人々が従事したこと、
更に、シリーズで最もコウモリがたくさん生息していたこと、
同時に支保用の木材が腐って、カビが隧道内に充満していたこと、
枚挙にいとまがないこの隧道の特色は、
そのままこの隧道が背負った黒歴史を現しているようでした。



本来、道は他の地域との交流を利便化し、
より豊かな地域からの恵みを地元へ還元するために造られたものだったと思います。
しかし、その利便性ゆえに、
結果としてはより豊かな土地へと人を流出させてしまったのが道だと思います。
今、国内にはたくさんの限界集落がありますが、
それは利便性を求める人間の欲望が支払わなくてはならない代償なのかもしれません。



さて、廃道シリーズはこれで完結とずっとお伝えしてきましたが、
この場で最後に一言、
まだ終わるわけにはいかなかった
とだけ告知させて頂きます。



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