今日は團伊玖磨の歌劇『夕鶴』(新演出)で東京芸術劇場。
民話の内容を知っているのは当然だけど、オペラも玉三郎も映像は何も観たことがなかった。
それに鑑賞前、演出家岡田氏が次のように語っていたのを読んでいて。
つうはポスト資本主義の状態にいて、可哀想な存在ではない...
資本主義を乗り越えたところからの、与ひょうに問いかけは、現代に生きる人々への問いかけで...
これは民話ではなく、現代の物語であり、わたしの、あなたの、物語だ...
だから幕が開いて、歌手たちの洋装姿や大勢の子どもたちを目にしても、驚きはなかった。新演出なんだから当然。
でも流れてくる音楽が重厚で交響曲のようで、小林さんと与儀さんが歌いはじめると素晴らしくて、なるほどこれは屈指の名作なのだと思いはじめた。
演出家の意図は伝わっていた。
与ひょうは欲望を払底できず、もがき逡巡する。つうが、必死で止める。それがこれでもかと繰り返される場面。
それはもう現代の話だったろう。
オレオレ詐欺をやめられない。ギャンブルをやめられない。アルコールをやめられない。不倫をやめられない。盗撮をやめられない、などなど。
さまざまな誘惑、邪悪に満ち満ちている現代、今のことだ、まるで。
2幕でつうが、もう人間の姿をしていられる力がもうない。だから行く。
ここでは泣きそうになった。
そして与ひょうは驚き、嘆く。でも後悔してもどうにもならない。
この絶望感はわかる。似たようなことは誰にもあるだろう。
まさにぼくらの時代の物語としての、現代オペラだった。
初演は1952年だが、この普遍的な問題は何も変わらない。永遠に。
だからこのオペラは新演出を繰り返し、公演され続けるに違いない。
与儀さんを聞くのは3度目だが、ホントにうまいって思う。この与ひょう、当たり役だよ。
初めて聴いた小林沙羅さん。素晴らしかった。つうが大好きだと言っていたが、今回のつうはサイコーじゃないですか。
三戸大さんも寺田さんも芝居がうまくて味があった。
辻マエストとザ・オペラ・バンド、世田谷ジュニア合唱団の子どもたち。
みなさん、素晴らしかったです。ありがとう。
実は加藤浩子さんの投稿を読んですぐにチケットをとったんだけど、やはり加藤さんに間違いはなかった。