周平の『コトノハノハコ』

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小説第5弾『夢の終わりの夜行バス』~第6章~

2015年02月05日 | 小説
マズイ、真横の席の男が目覚める気配が一切ない。
彼が寝過ごして盛岡まで行ってしまう事自体はべつにどうでも良いのだが、次のサービスエリアや盛岡でも俺の恋路を邪魔されたらたまったもんじゃない。

俺は自分の席を立ち、彼の肩を優しく叩きながら、小声で「仙台に着いたよ」と話しかけた。
それでも起きる気配がない。
おかしい。たしかに睡眠薬は飲ませていなかったはずだ。

今度はちょっと強めに肩を叩いて、「仙台だよ!仙台!」と周りの人達には迷惑だったかもしれないくらいの声で語りかけた。

すると、変な唸り声をあげながら、ようやく彼は起きた。

「あ、ありがとう。助かったよ。」

「いや、どういたしまして。」

「ねぇ、君、Facebookやってる? 良かったら僕と友達になってよ!僕、友達少なくってさぁ…」

「うん、いいよ…」

こうして俺達は、後でFacebookでお互いを検索できるように本名を教え合った。

違う、お前じゃない。
俺が仲良くなりたいのはお前じゃなくて、斜め後ろの席の女の子だ。
お前の本名など、どうでも良いのだ。

「それじゃあ!また!」
そう言って彼は元気にバスを降りていった。

果たしてあの彼にまた会う日なんて来るのだろうか?

再びバスが動き出し、車内は消灯された。
ここからが本当の戦いだ。

バスは仙台駅を出て、再び高速道路へ。
それから30分もしないうちに2回目の休憩タイム&チャンスタイムとなるサービスエリアへと到着した。

斜め後ろの席の女の子はまたしてもパッと目覚め、誰よりも先にバスを降り、トイレへと向かった。
なんて寝起きの良い子なんだろう。
きっと見た目だけじゃなく性格もステキなのだろう。
ちなみに「寝起きが良い=性格が良い」というのは俺の勝手な憶測である。

つい先日まで俺がアルバイトをしていたコンビニの早朝タイムのバイト仲間の女どもは皆、毎日寝起きが悪い様子で、性格も悪かった。

俺もすぐにバスを降り、用を足し、今度は自動販売機の前ではなく、バスの乗降口の近くで携帯電話をいじっているフリをしながら彼女がバスへと戻ってくるのを待ってみた。

3分ほどして、彼女が俺の方へ向かって歩いてきた。
正確には俺の方ではなく、俺の背後に停めてあるバスへ向かってだ。

「あのぉ… すみません…」
俺は勇気を出して彼女に話しかけた。

(第7章へ続く)