周平の『コトノハノハコ』

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『夢馬鹿』~第1話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2021年07月02日 | シューピー散文クッキング
ついにスタートする新企画『シューピー散文クッキング』、その第1弾のタイトルは今回(第1話)の内容からなんとなく『夢馬鹿』に決定。
でも今後の展開も結末も決まっていません。
なぜならこの新企画は、周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけません。
そのお題の難易度は調味料の量で表したいと思います。

さて、今回の材料は…

「投げ出す」…小さじ2杯(1つ目のお題がコレってw)
「切り込む」…小さじ5杯
「表意文字」…大さじ5杯(人生で初めて聞いた言葉!)
「毒する」…大さじ1杯
「家内」…小さじ3杯

1回目からコレはキツいわ~。でも自分で決めたんだからやるしかない! というわけで、とりあえず第1話スタート!!

『夢馬鹿』~第1話~

今、私と対面している自宅のリビングの壁には「"家内"安全」と書かれた、お守りのシールが貼られている。
何の時だったか忘れてしまったが、4歳になる娘が"家内"からもらって喜びながら貼ったものだ。
その言葉の意味も分からずに。

私にはこの4歳の娘と、6歳の息子がいる。

そして今、

「"家内"安全」のシールと私のちょうど中間には、私と同い年の"家内"が涙を流しながら座っている。
先ほどから怒ったり泣いたりを繰り返していて、とても「"家内"安全」と言える状況ではない事は確かだ。

原因は100%私にある。
32歳のサラリーマンの私が2時間前に突然、「脱サラをして、昔から夢だったラーメン屋を開きたい」と言い出したからだ。

妻の涙の一粒一粒が"表意文字"のように色んな意味を持ち、私の胸に"切り込ん"でくる。
無理も無いだろう。
6歳と4歳のまだ幼い子供が2人もいるというのに、そこそこの稼ぎを得ているサラリーマンという仕事を"投げ出し"、生き残りの厳しいラーメンの世界に飛び込んでいこうとしているのだから。

でも昔からやりたいと思った事は全てやらないと気が済まない、私の中の毒のようなものを解"毒する"アイテムはまだ見つかってはいない。
「私と子供たちはそれになれないの?」と言わんばかりの妻の表情に、私はただ黙る事しかできなかった。

子供たちはもう眠ってしまっている。
私と妻の2人だけの23時のリビング。
「"家内"安全」のシールの真上に掛けられている時計は、まるで電池が切れているかのように先ほどから全く動いていないような気さえした。

《第2話へ続く》