治療薬
国内で使用されている主な薬剤
レムデシビル(米ギリアド)
レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性を示します。
日本では昨年5月、重症患者を対象に厚生労働省が特例承認。今年1月には添付文書が改訂され、中等症の患者にも投与できるようになりました。
レムデシビルは、プラセボとの比較で入院患者の回復を5日間早めた米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導の臨床試験結果をもとに、世界約50カ国で承認または使用許可を取得しています。
デキサメタゾン(日医工など)
デキサメタゾンは重症感染症や間質性肺炎などの治療薬として承認されているステロイド薬。先発医薬品「デカドロン」(日医工)のほか、複数の後発医薬品が販売されています。英国で行われた大規模臨床研究で重症患者の死亡を減少させたと報告されており、標準的な治療法の1つとなっています。
英国の臨床研究では、人工呼吸器を装着した患者と酸素投与が必要な患者で死亡率を有意に低下させた一方、酸素投与の必要ない患者では効果が見られませんでした。米NIHのガイドラインでも、人工呼吸器や酸素投与を必要とする患者に対する治療薬として推奨されています。
バリシチニブ(米イーライリリー)
JAK阻害薬バリシチニブは、サイトカインによる刺激を伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤。COVID-19は重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応に重篤な臓器障害を起こすことが知られています。バリシチニブは免疫異常による炎症と抑える作用によって、こうした重症患者を治療できると期待されています。
日本を含む国際共同治験では、レムデシビルと併用することで回復までの期間をレムデシビル単剤に比べて約1日短縮しました。米FDAは昨年11月、この試験結果をもとに、バリシチニブとレムデシビルの併用療法を2歳以上の小児と成人の中等症・重症患者に対する治療法として緊急使用許可を出しています。
日本でも今年4月、同試験の結果に基づいて厚労省が特例承認しました。酸素吸入、人工呼吸管理、体外式膜型人工肺(ECMO)の導入が必要な患者が対象で、レムデシビルと併用して最長14日間投与します。
ナファモスタット(日医工など)/カモスタット(小野薬品工業など)
タンパク分解酵素阻害薬ナファモスタットや同カモスタットは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとされ、日本では東京大付属病院などでファビピラビルとナファモスタットの併用療法を検討する臨床研究が進行中です。
カモスタットの先発医薬品「フオイパン」を製造販売する小野薬品工業は、COVID-19患者110人を対象としたP3試験を実施中。ナファモスタットをめぐっては、先発医薬品「フサン」の製造販売元である日医工に、第一三共、東京大、理化学研究所を加えた4者が、共同で吸入製剤の開発を進めており、今年3月から第一三共が国内でP1/2試験を行っています。
トシリズマブ(中外製薬)
抗IL-6受容体抗体トシリズマブは、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の作用を阻害することで炎症を抑える薬剤。バリシチニブと同様に、免疫異常による炎症を抑制し、重症患者の症状を改善する薬剤として有効性の検証が進められています。
中外製薬が国内で行った単群P3試験では、参加した重症COVI-19肺炎入院患者48人のうち35人が退院または退院待機状態となり、5人が死亡。7段階の重症度評価が1段階以上改善した患者は39人、1段階以上悪化した患者は6人でした。
一方、海外で行われたレムデシビルとの併用療法に関する臨床試験では、主要評価項目を達成することができませんでした。中外は複数の臨床試験の結果を統合的に分析し、厚生労働省と申請について協議するとしています。
ファビピラビル(富士フイルム富山化学)
ファビピラビルは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、新型インフルエンザに備えて国が備蓄しています。
富士フイルム富山化学は昨年10月、非重篤な肺炎を有する患者を対象に行ったP3の結果に基づき、新型コロナウイルス感染症への適応拡大を申請しましたが、厚生労働省の専門家部会は同12月21日、「現時点で得られたデータから有効性を明確に判断するのは困難」として承認を見送りました。同試験が単盲検で行われたことの影響や、結果の臨床的な意義が議論になっており、現在実施中の臨床試験結果が提出され次第、あらためて審議することとしました。
富士フイルム富山化学が申請の根拠としたP3試験は、患者156人を対象に行い、主要評価項目の「症状の軽快かつウイルスの陰性化までの時間」はアビガン群11.9日、プラセボ群14.7日で、アビガンは症状を統計学的に有意に早く改善。安全性上の新たな懸念も認められなかったといいます。
富士フイルム富山化学は今年4月、重症化リスク因子を持つ発症早期の患者を対象とした新たなP3試験を開始。重症化した患者の割合を主要評価項目とし、有効性を検証します。
その他
腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として承認されている駆虫薬イベルメクチン(MSDの「ストロメクトール」)もウイルスの増殖を阻害する可能性があるとされており、北里大がCOVID-19の適応追加を目指した医師主導治験を行っています。HIV感染症治療薬として承認されているネルフィナビル(日本たばこ産業の「ビラセプト」、製造販売は終了)は、長崎大を中心に医師主導治験が進行中。琉球大は今年1月から、軽症から中等症の患者に対する抗炎症薬として、痛風治療薬コルヒチンの効果を調べる医師主導治験を行っています。
一方、早い時期から治療薬候補として注目されていた吸入ステロイド薬シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)は、国立国際医療研究センターが行った特定臨床研究で、対症療法群に比べて有意に肺炎の増悪が多かったとの結果が出ました。同センターは「海外で行われている検証的な臨床試験の結果も踏まえて判断する必要があるが、今回の結果からは、無症状・軽症の患者に対するシクレソニドの投与は推奨できない」としています。