下記は朝日新聞デジタルからの借用(コピー)です
「光免疫療法」はがんだけを狙い撃ちする新たな治療法です。国内20施設で、保険による治療が受けられます。いまはまだごく一部のがんが対象ですが、どのように開発され、どんな治療なのでしょうか。
光免疫療法の開発者で米国立保健研究所(NIH)のがん研究所主任研究員、小林久隆さん(59)にお話を聞きました。
小林 久隆さん 略歴
こばやし・ひさたか 1961年兵庫県生まれ。87年京都大医学部卒。95年京都大大学院を修了し渡米、NIH研究員に。98年に帰国し京大医学部助手を経て2001年に再渡米、NIHの国立がん研究所(NCI)に勤務。05年から主任研究員。21年1月、「がんを瞬時に破壊する 光免疫療法 身体にやさしい新治療が医療を変える」(光文社新書)を出版。
世界初、新薬承認
――従来の治療が効かなくなった頭頸部(とうけいぶ)のがん患者向けの新薬に公的医療保険が適用されました。
米国で研究をしてつくったもので、アメリカでの承認が先かなと思っていました。
日本人のためにまず、使われることになったことは素直にうれしい。
患者さんの数はまだわずかですが、「治った」と喜んでもらえるのが一番の喜びです。
――30年越しの研究でした。
「がんだけを死滅できないか」と考え始めたのはまだ大学生のころです。
たんぱく質の一種で、体内に入った病原体などの異物にあたる「抗原」にくっつく性質があるのが「抗体」です。
抗体を使えば、がんの治療も簡単にできると思っていて、こんなに長くかかるとは思っていませんでした。
放射線診断・治療を専門とする臨床医になったころから、「手術」「放射線」「化学療法」の3治療が、がん治療の中心でした。
しかし放射線治療の多くの場合、照射すると正常の細胞も含めて、「焼け野原」になってしまう。
従来のがん治療は、がん細胞だけでなく、体を防御する免疫力を落としてしまうという大きな矛盾を抱えているのです。
「がんだけ」を実現するため、失敗と工夫を重ねた30年超。ある意味、放射線科医が放射線を捨てたんです。
がんがあるところで「毒」に変化させる
――開発途中に限界を感じたこともありましたか。
抗体に何かをつけて体内に入れれば、がん細胞に到達すると見当はついていました。
数々の薬や放射線同位元素などで試しました。しかし薬はどうしてもがん細胞だけでなく、正常な細胞にもダメージを与えてしまう。使う量の限界というネックがありました。
2004年ごろに発想を変えました。「がんを殺す毒を入れるのでなく、がんのところでだけ毒に変身させればいい」
がん細胞のところで「毒」に変わるトリガーが必要になります。何がいいか? トリガーが毒になっては意味がない、と発想は少しずつ変わっていきました。
体に無害な光を使うことを決め、光に反応して細胞を殺せる化学物質を探すことが次の目標になりました。ついに09年、「IR700」を見つけました。
ここから続き
――渡米し、ご苦労もありましたか。
米国の研究が順調だったわけではありません。日中は所属するラボのプロジェクトの仕事があります。
共用の機械を使って自分の研究の実験をするのは、夜中がほとんど。研究所の近くに部屋を借り、ほかの研究者の実験が終わるのをじっと待って、夜中の1時や2時から始めていました。
昼間にデスクで仮眠するなど、不規則な生活でしたね。若くて元気でした。今なら絶対、体がもちません。
そんな僕の姿を今のボス、チョイキ先生が見ていて、「夕方の僕たちの機械の時間を使っていいよ」と言ってくれた。それで、だいぶ実験がしやすくなりました。
やりきるまでやろう。やめられるか
――研究を継続する意欲をどう維持してきたのでしょうか。
研究はスポーツに似ています。世界のトップをめざすなら、常に走り続けていないと。そう思ってきました。
過密な生活でしたが、自分の頭の引き出しにはオプション、まだやり残したことがある。やりきっていないのにあきらめられない。やりきるまではやろうと。やめられるかという思いでした。
今までにないものの開発に挑み、できるという確信はなかった。でも完成すれば絶対に多くの人の役に立つという自信と、理論的には進めていけそうな道は常にあったので、日々、研究を続けてきました。
――光免疫療法によって、免疫力が高まるのですか。
動物実験では、確実に免疫が上がることがわかっています。
この手法は、体内のがん細胞を壊して減らし、そこから出てくるものをターゲットに、さらに体に免疫を作らせようという両にらみの手法です。
つまり、光を当てて破壊されたがん細胞の破片が「質の良い」多種の抗原となり、健常な免疫システムがそれらを認識して体の免疫を上げる。
がんを認識するリンパ球が増え、残ったがんを攻撃する。いったん治癒した後は長く再発を防ぐことになる。こうした免疫の「教育システム」を健常なまま残すことが光免疫の「みそ」です。
まだヒトでは証明されていませんが、それをめざした治験も始めています。
――保険適用となるのは現在、進行した頭頸部がんの患者のみで、実施する施設もまだわずかです。
「いつどこでこの治療が受けられるのか」と多く問い合わせをもらいます。現時点では該当する方以外は、標準治療を優先してくださいと答えています。
医師は自分がいま出来るベストの治療を選択します。主治医に相談して適切な治療を受けてください。
がん治療が根本から変わる可能性
――将来の理想の姿をどうみていますか。
対象となるがんの種類は増やしていきたい。将来的には、がんの部位にかかわらず、まず光免疫療法をして、それで治らなかったら外科手術や放射線、化学療法といった選択をするのが理想です。
光免疫療法は体へのダメージが小さく、何度でもできるので、これを先にしたから他の治療ができない、効果が落ちるということがないのです。実現すれば、がん治療が根本から変わります。
――実用化も少しずつ進みます。
安い開発費で、効く薬をつくる。安い値段にしていくことをめざしてきました。
それ抜きには、医学研究は医療にはならないし、やっと研究が医療になりつつあると感じています。
科学として深いところに到達することと、人の役に立つ、実用化を進めることは少し異なる方向性です。ある程度までは同じですが、どこかでどちらに行くかを決めなければならなくなる。
どちらかといえば、自分は実用化を選びます。
――今年、60歳。日本流には還暦です。この先どうされますか。
NIHって定年がないんですよ。昔のボスは88歳で、いまだにブランチチーフです。時々相談にのってもらうのですが、論破されて帰ってきます。
NIHではいつまでもプレーヤーでいられますが、研究が一定のレベルに達さなくなれば、すぐクビになります。
もともと僕は「明日は明日の風が吹く」というタイプなので、あまり先々のことまでは決めていません。
ただ、がん治療の新たなチョイス、あまりつらくない光免疫という治療をさらに成熟させて、多くの人に届くようにどんどん進めていきたいと思っています。
自分の世代の多くの人ががんになる前に、なんとかこの治療で完治できるよう、若い世代に届けられるよう、頑張って今後も研究を続けていきます。(聞き手 編集委員・辻外記子)
国内施設で保険治療始まる
光免疫療法によるがんの治療は国内でも進んでいる。
国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)では、2人が治療を受ける。
口腔(こうくう)がんが再発した50代男性は、治療の約1カ月後にがんが小さくなっていることが確認された。その後周囲にがんが増え、2回目の治療を受けて経過観察中だ。
中咽頭(いんとう)がんが再発した50代女性は、1回目の治療でがんが縮小し経過をみているという。
患者は1週間から10日間ほど入院して治療する。まず今年1月に発売された新薬「アキャルックス」の点滴を受ける。
この薬は、近赤外光をあてると反応する化学物質「IR700」を、抗体(たんぱく質)に結合させたもの。この抗体にはがん細胞の表面にある特定の分子「EGFR」に結びつく性質がある。
薬が体内に入り約24時間後に近赤外光をあてると、がん細胞に結合した薬と光が反応し、がん細胞が壊される。
具体的には、手術室で腫瘍(しゅよう)に波長690ナノメートルのレーザー光をあてる。腫瘍に針を刺して内部から光をあてる手術法と、腫瘍の表面に光をあてる方法がある。
腫瘍の再発部位や深さにより異なるが、照射時間は4~6分。腫瘍の大きさによるが、手術そのものは数十分という。
術後は、投薬の影響による光過敏症を避けるため、1週間~10日間ほど薄暗い部屋で過ごす。
1カ月間は直射日光を避けることが求められる。外出する際は、帽子にサングラスを着用し、季節によらず長袖、手袋をして過ごすという具合だ。
治療の後、光をあてた部分の痛みや顔・首回りの腫れを訴える人が多いという。
東京医科大学病院の塚原清彰教授(耳鼻咽喉(いんこう)科・頭頸部(とうけいぶ)外科)は、「全身麻酔をしていても、がん細胞が壊れる際の痛みなどで血圧が大幅に上がることがある。また全身麻酔後に強い痛みを感じる人もいる」と話す。
また、薬に含まれる分子標的薬「セツキシマブ」の作用で、背中などに皮膚障害が現れることもある。その際は、保湿剤などでケアをする。
1回で腫瘍の縮小がみられない場合は、4週間以上あけて再度試みる。
国立がん研究センター東病院の林隆一副院長(頭頸部外科)は「症例が少なくはっきり傾向を示せないが、今のところ複数回の治療をする人が多い」と話す。
この治療は、所定の講習を受けた医師がいるといった条件を満たす20施設でのみ受けられる。
自由診療は別、注意が必要
費用は薬代だけで1回約400万円だが4回まで公的医療保険が適用され、高額療養費制度が使える。69歳以下の自己負担上限は、年収により月3・5万円~30万円程度だ。
自由診療で「1回30万円」などと案内する医療機関もあるが、承認された光免疫療法とは異なり、注意が必要だ。
アキャルックスを販売する楽天メディカルジャパンは、自社の技術基盤を「イルミノックス」と商標登録している。注意点などは、同社のサイト(https://pts.rakuten-med.jp/akalux)に掲載されている。
厚生労働省は光免疫療法を、審査期間を短縮する「先駆け審査指定制度」の対象とし、「条件付き早期承認制度」も適用。最終段階の臨床試験(治験)の結果を待たずに2020年秋に承認した。
販売元は市販後の調査を求められており、治療成績などについて、180例を目標に集め、結果を報告する。
ほかに、胃と食道がんの医師主導治験も実施されている。
がん治療全般に詳しい静岡県立静岡がんセンターの山口建総長は「頭頸部がんにおいて光療法の効果は明確になった。今後、大規模な臨床試験で、長期予後や免疫が活性化されてがんに及ぼす効果などを調べ、既存の治療に比べてメリットが大きいかどうか、明らかにされるだろう」と話す。
胃や大腸など他の部位のがんについては、「がん細胞での薬剤の標的となるたんぱく質の存在が頭頸部がんほどでなく、また、がん表面にしか光照射ができないなど制約が多い」と慎重な見方をする。(熊井洋美、編集委員・辻外記子)
光免疫療法の治療をする病院
宮城県立がんセンター、埼玉医科大学国際医療センター、国立がん研究センター東病院、東京医科大学病院、東京医科歯科大学病院、横浜市立大学病院、愛知県がんセンター、京都大学病院、大阪国際がんセンター、大阪大学病院、関西医科大学病院、神戸大学病院、鳥取大学病院、岡山大学病院、広島大学病院、九州大学病院、久留米大学病院
(楽天メディカルジャパンによる。非公表の施設を除く)
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なぜ女性リーダーが日本で生まれにくいのか━━。週刊東洋経済6月12日号(6月7日発売)では「会社とジェンダー」を特集。企業に残る根強い男女格差、海外と比べて遅れた取り組みについて、さまざまな角度から取り上げた。気鋭のジャーナリストが自身の実体験も踏まえ、日本の変わらない構造問題を説く。
本当に女性はリーダーになりたがらない?
日本企業には女性リーダーが少ない。
『週刊東洋経済』6月7日発売号の特集は「会社とジェンダー」です。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら
令和2年版『男女共同参画白書』(内閣府)によれば、管理的職業従事者に占める女性比率は、日本で14.8%。アメリカ40.7%、英国36.8%、ドイツ29.4%、フランス34.6%と、主要先進国が3~4割なのと比べ、その低さが目立つ。アジアでも韓国14.5%を除けば、フィリピン50.5%、シンガポール36.43%、マレーシア24.6%と、いずれも日本を上回る。
筆者は20年余、ジェンダー(男女の社会的な性差)と、企業を巡る課題を取材・執筆してきた。どうしたら日本企業で女性リーダーが増えるのか。この問いを繰り返し耳にしてきた。
思い出すのは大学生のときに受けた社会学の講義だ。担当教授にしつこく言われたのは、「レポートに、安易に解決策を書くな」ということ。真意は「君たちが簡単に思いつくような解決策は現場ではすでに試している。そんなに簡単に解決するなら深刻な問題にはなっていない」ということだ。
思い付きの解決策ではなく、構造を見るべきという指摘は、ジェンダー格差にも当てはまる。最大の問題は、性差別の歴史や実態を知らない人が意思決定層にも多いことである。女性に対する支援を、「女性優遇・男性差別」と捉える人は現状を中立と思っていて、差別構造が見えていない。
「女性がリーダーになりたがらない」という説明もよく聞く。環境要因の問題が大きい中、自己責任を説いても効果は薄い。本気で女性リーダーを増やしたければ、過去から現在に続く自社の人材マネジメントについて、「性差別」「ジェンダー・バイアス(偏見)」を切り口に見つめ直すべき。日本企業に女性リーダーが少ないのは、管理職の年次で必要な経験を積んだ女性の数自体が少ないからだ。管理職候補が少ないのは結婚や出産による退職のみならず、そういう女性を採用してこなかった企業側の責任がある。
中には、技術系の開発部門のように理系大学院卒相当の知識が必要で、そもそも応募者に女性が少ないこともある。こうした分野のジェンダー・ギャップを解消するためには、学校や家庭でのジェンダー・バイアスも考慮しつつ、長期的な取り組みが必要で、企業だけに問題があるとは言えない。
「差別」という言葉に抵抗を覚えるなら、それは歴史と事実を知らないからだ。その場合は『男女賃金差別裁判 「公序良俗」に負けなかった女たち』(明石書店)を読んでほしい。
原告は女性労働者たちで被告は彼女たちの雇用主だった住友電気工業や住友化学。労働やジェンダーに詳しい法律家が弁護団となり、間接差別の問題を浮き彫りにし、和解を勝ち取った意義深い事例である。本書の働く女性たちの声を読めば、女性だけに適用される“30歳定年”など、現代の感覚では非常識な慣習に驚くはずだ。ちなみにどちらの企業も現在では「ダイバーシティ経営」を掲げている。
実際に訴訟まで至っていない、小さな性差別は数えきれない。
私が就職活動をした1996年のこと。就職に強いとされる大学の3年生で、男子学生の多くが銀行や保険会社など金融系企業の就職内定を得ていた。獲得した内定先を滑り止めにしつつ、商社やメーカーなどの採用試験を受ける人もいた。しかし、同じ大学・同学年でも、女子学生にそのような選択肢はなかったのだ。
当時の大手金融機関で女性総合職の採用は少なく、「今年は女性総合職を取らない」「男子百数十人、女子1人」なのはざらだった。同じ大学に女子学生が2割はいたから能力や専攻は理由にならない。
かつて「女性は事務職です」の時代があった
性差別的な採用は業界を問わず存在した。私が就職説明会に参加した不動産会社では、人事担当者が「女性は事務職です。男性は企画か営業です」と、参加した学生たちに面と向かって言った。私が「女性が営業を希望したらどうなりますか?」と質問したら、人事担当者は「女性は事務職です」と即答したのである。
その企業でペーパーテストを受けながら吐き気が込み上げてきた。能力や適性でなく性別で仕事内容を決められるのが嫌だったからだ。1986年の男女雇用機会均等法施行から10年後の話である。
とはいえ、私は幸運だった。探せば男性と同じ仕事・同じ賃金の就職先もあったからだ。私より10歳以上年上の女性弁護士は、東京大在学中「男子のみ」という求人票の山を見て絶望を感じ、企業就職を諦めて司法試験を受けたそうだ。日本企業が四大卒の女性を採用しないので、外資系を中心に試験を受けた人もいる。
もし、あなたの勤務先でもこうした過去があるなら、まずは真摯に反省してほしい。女性の役員や管理職が少ないのは、差別的なマネジメントの結果だと認めてほしい。そして長年、男性の補助と位置付けられた女性たちに、「時代が変わったから」と急に活躍を求めても、やる気がでるはずがないことも理解すべきである。
では、過去の人材マネジメントを反省し、今後は是正していくことを決めたら、女性リーダーは増えるのだろうか。
次に知っておくべきなのは家庭や社会の歴史だろう。かつての日本では、男性が外で働き、女性は家庭を守る、性別役割分担システムが広範に根付いていた。それが効率的な経済発展に役立つから税制も主婦を優遇した。私自身、多忙な会社員の父と専業主婦の母という家庭で育ったから、システムの恩恵を受けたと言える。
ただし、今、2人の子どもを育てながら私が歩んでいるのは、母と父の人生を混ぜ足したような人生だ。子育てしながら男性と同じような仕事をして稼いできた。
夫婦共働きが主流の現在、家庭内の仕事を女性だけが抱え込んでいたら、職場で責任ある仕事を引き受けて、リーダーシップをとるのは難しい。男性も家事や育児を「お手伝い」ではなく、「自分の責任」として担う必要がある。これは日本が抱えるジェンダー・ギャップの中でも大きな課題だ。
日本では、6歳未満の子どもを持つ夫は、共働きでも76.7%の夫が家事をしておらず、69%の夫が育児をしていない。国際比較でも日本男性の家事育児参加の少なさは際立つ。6歳未満の子どもを持つ人を見ると、米英独仏など先進国で家事育児をするのは、女性が5~6時間なのに対して、男性は半分の時間を費している。一方、日本は女性が7時間半、男性が1時間半弱と、ジェンダー間の格差が大きい(「令和2年版 男女共同参画白書」より)。
仮に職場での性差別がなくなったとしても、家事育児などの無償ケア労働の差が大きいままでは、女性リーダーを増やすのは難しい。男性も家事育児を担える働き方になること、つまり家庭内のジェンダー平等を目指す必要がある。
男性上司や先輩、夫の意識を変えるべき
最後にひとつ実践可能なエピソードをお伝えしておく。
1997年のちょうど今ごろ、新入社員だった私は、職場で来客にお茶を入れた。すると、3~4歳上の先輩に呼ばれて注意を受けた。お茶がまずかったからではない。
「君の仕事はお茶入れじゃないから。給料が高いから、もっと頭を使って仕事して。おもしろい雑誌を作るのが君の仕事」
当時この先輩は「ジェンダー」という言葉を知らなかったと思う。それでも彼の言葉はジェンダー中立だった。このとき、私は自分の仕事がいったい何なのか、肌で理解した。「やっぱり女の子の入れたお茶は美味しいなあ」と言われていたら、私は今こういう仕事をしていなかっただろう。
つまり、上司や先輩、そして夫たちの意識と行動変容こそがカギなのだ。
治部 れんげ(じぶ れんげ)
Renge Jibu
ジャーナリスト
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員・同大学女性文化研究所特別研究員。
下記の記事は日刊ゲンダイデジタルからの借用(コピー)です
「小室文書」を公開したにもかかわらず、期待した国民の祝福は得られそうもないようだ。眞子さまの結婚がすんなりいくかどうかは予断を許さないが、皇族の結婚がこれほどもめるのは前代未聞だろう。これも本をただせば、眞子さまが学習院大学ではなく、国際基督教大学(ICU)を選んだからで、ICUに行かせなければ小室さんと出会わなかったはず、と宮内庁は悔やんでいるかもしれないが、後悔先に立たずだ。
それにしても、なぜ眞子さまはICUを選ばれたのか。というより、皇族の学校選びはどうやって決められるのだろうか。
上皇さまも天皇陛下も学習院。愛子さまも学習院だ。愛子さまが女子高等科3年の頃、学習院大学ではなく東大に進学するのではないかと話題になったことがある。しかし当時の宮内庁関係者が「将来、女性天皇が認められれば、愛子さまは天皇になられる方です。学習院以外にないでしょう」と言った通り、結局、学習院大学を選ばれた。
なぜ皇族は学習院なのだろうか。
学習院が創立したのは明治10年。設立目的が「華族学校」だったように、華族のための学校だった。華族は学習院で学ぶことが義務付けられたのである。当時はよほどの事情がない限り学習院から軍人になることが奨励されていたから、中等科を修了すると陸軍士官学校などに編入した。当時も学習院は法的に私立だったが、宮内省と華族が拠出して設立したのだから半官半民である。もっとも、その後は皇室の丸がかえだったから「皇立」と言えるかもしれない。
大正15年の皇族就学令によって皇族も学習院で学ぶことが義務となり、昭和天皇も学習院初等科に入った。ただ卒業前に明治天皇が崩御され皇太子になられたから、中等科には進まず東宮御学問所で学ばれている。帝王教育を受けられるためだ。
学習院と皇室の関係が深くなったのは、むしろ戦後で、皇族の教育に熱心だった安倍能成院長以降だといわれる。明仁皇太子(現在の上皇陛下)をはじめ、皇族の多くは学習院に入った。現天皇の浩宮さまも幼稚園に入る年齢になると、それまでなかった学習院幼稚園が急きょつくられて入園されている。こうして学習院は皇族のための学校になっていくのだが、かつて学習院で働いた人物はこんなことを言った。
「皇族の方とお話をするにも、いざその方が目の前に立たれると、緊張して言葉が出てこないものです。ところが学習院はそういうことに慣れている先生方が多い。それに職員も警備には手慣れています。一昨年、秋篠宮家の長男・悠仁さまが通われていた中学校で、机の上に刃物が置かれた事件がありましたが、学習院だったらまずそういうことは起こらなかったでしょう」
学習院なら安心して通わせられるという。
天皇陛下は学習院大学を卒業したあと大学院に進学した。礼宮さま(秋篠宮)も学習院大学だが、皇室記者によれば、浩宮さまとあらゆる面で対照的だったせいか、「兄と同じ学習院大学に進学したくなかったのに、ご両親の説得で仕方なく進学した」とされている。
もっとも、そのおかげで、紀子さまと巡り合えたのではあるが、眞子さまが学習院でなくICUに進学した裏には、秋篠宮さまの学習院に対する複雑な心境が影響したようだ。
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やせ型の人でも体内でひそかに進行する「やせメタボ」があるのをご存じだろうか。ポイントとなるのが筋肉だという。筋肉に脂肪がたまった状態である「脂肪筋」になっていると、糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクを高めてしまう。「もはや、メタボは体形だけでは判断できません」と、順天堂大学大学院代謝内分泌内科学・スポートロジーセンター先任准教授の田村好史さんは言う。リモートワークで「歩かない生活」になり、忙しくて食事内容が偏っている人は要注意だ。気になる「やせメタボ」について聞いていこう。
糖尿病発症リスクは、肥満者よりもやせた人のほうが高い?!
メタボといえば、太った人、お腹がぽっこり出ている人の病気。太っていない自分は大丈夫、と安心していないだろうか。近年、やせ型の人であっても油断できない研究結果が続々と発表されている。40~79歳の日本人約7200人を対象に9.5年間追跡した研究によると、BMI(*1)が高い肥満の人よりも、低い(やせている)人のほうが糖尿病発症リスクが数値としては高いことがわかった(下グラフ)。
やせ型の人は肥満者よりも糖尿病発症リスクが高い
40~79歳までの糖尿病ではない日本人男女7240人を9.5年間追跡。BMIが18.5未満のやせ型の群は、18.5~22.9の普通体形の群に比べて糖尿病の発症リスクが約2倍高く、25以上の肥満の群よりもリスクは高かった。(データ:Diabetol Int(2012) 3;92-98より改変)*統計学的有意差あり
メタボリックシンドロームは、内臓周囲に脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」に加え、脂質代謝異常、高血圧、高血糖のうち2つ以上が当てはまる状態のことを言う。動脈硬化を進め、脳梗塞や心筋梗塞といった命に関わる病気につながることが広く知られている。
メタボが進行した先にある糖尿病も、肥満度が高くなるほどかかりやすくなるものでは、と思っている人がほとんどではないだろうか。
肥満ではない人の体に起こる代謝の問題について15年間研究を続けてきた順天堂大学大学院代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史さんは、「もともとアジア人は欧米人と比べて血糖値を下げるインスリン(*2)の分泌能力が弱く、軽度の体重増加であっても糖尿病やメタボにかかりやすいことが知られてきました。発表された上記の研究では、まだ糖尿病を発症していない人であってもやせ型の人はその後、糖尿病にかかりやすくなることが明らかになりました。もはやメタボなどのリスクは体形のみでは判断できない、してはいけないと考えています」と説明する。
*1 BMIとは、肥満の基準となる体格指数(body mass index)のこと。体重(kg)を身長(m)で2回割って算出する。
*2 インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンの一種で血糖値を下げる役割がある。
BMIという基準から言うと、BMI25kg/m²以上が「肥満」となる(身長170cmで体重72.25kgの人の場合、BMIは25.0)。意外にも、BMIが低い人たちのほうが、糖尿病リスクが高かったというのだ。やせても糖尿病になってしまう人の体の中で何が起こっているかについて、田村さんは複数の事実を明らかにしてきた。
標準体形でもメタボリスク因子が1つでもあると肥満の人並みにインスリンが効きにくくなる
日本人男性70人を対象に、BMI23~25kg/m²で、高血糖、脂質異常症、高血圧のメタボリスク因子を1つも持っていない人、1つ持っている人、2つ以上持っている人に分け、骨格筋のインスリン感受性(筋肉でのインスリンの働き)を測定。リスク因子が1つでもあると、肥満でメタボの人と同程度に骨格筋でのインスリン感受性が低下している、つまり糖尿病リスクが高い可能性があることがわかった(*3)。
閉経後のやせ女性では「脂肪筋」が多くなるほど食後血糖値が高くなる
やせた閉経後女性(BMI18.5kg/m²未満。平均年齢56.2歳)では、食後に高血糖値になる割合が同年代の標準体重女性の約2倍高い(やせた女性37%、同年代女性17%)。さらに調べると、筋肉量が少なく、筋細胞内に脂肪が蓄積する「脂肪筋」が多いほど、食後血糖値が高くなった(*4)。
若年やせ型女性では標準体重の人より耐糖能異常が7倍多くなる
やせ型の若い女性(BMI18.5kg/m²未満。平均年齢23.6歳)では、食後高血糖となる「耐糖能異常」の割合が、標準体重女性よりも約7倍高い(やせた女性13.3%、標準体重の女性1.8%)。その率は米国の肥満者(BMI30kg/m²以上)における割合(10.6%)よりも高かった。耐糖能異常のある人は、インスリン分泌が低下していただけでなく、肥満の人に生じると考えられてきたインスリンの効きが悪い(インスリン抵抗性)という特徴が見られた(*5)。
*3 J Clin Endocrinol Metab. 2016 Oct;101(10):3676-3684.
*4 J Endocr Soc. 2018 Feb 19;2(3):279-289.
*5 J Clin Endocrinol Metab.2021 Jan 29;dgab052.
田村さんは「メタボなどのリスクは体形のみでは判断できない」という
糖を代謝する巨大な臓器「筋肉」の問題が全身に悪影響
「肥満ではないのに糖の代謝が悪くなり、やせメタボとなっている人の体では、脂肪筋などが原因で、インスリン抵抗性となっていることがわかりました」(田村さん)。
通常、食事でとった糖は、筋肉や肝臓など、糖をエネルギー源とする臓器に運ばれる。筋肉と肝臓がブドウ糖を取り込むときのスイッチ役となるのが、前出のインスリンというホルモンだ。
インスリンが正常に働いていれば、血糖値は一定に維持される。ところが糖尿病患者では、インスリンの分泌量が減ったり効きが悪くなったりして、糖が十分に取り込まれず血糖値が上昇したままになる。インスリンの効きが悪くなる主たる原因が、内臓脂肪。だから肥満の人は糖尿病になりやすい。これが、これまで知られてきた事実だ。
一方、「やせているのにインスリンの効きが悪い、やせメタボの体」では、脂肪筋が悪さをしているのではないかと田村さんは話す。「現時点での仮説として、筋肉が脂肪筋になると糖代謝に悪影響を及ぼす、と考えています」(田村さん)
体は、皮下脂肪や内臓脂肪にエネルギーを蓄えるが、それ以外の臓器でも、エネルギー源として脂肪が蓄積される。脂肪組織以外の骨格筋や肝臓などの臓器にたまる脂肪を「異所性脂肪」と呼ぶが、その量が過剰になると、さまざまな障害を起こすのだ。もちろん、「脂肪筋」もこの異所性脂肪の一種だ。
「食事で脂肪をとりすぎて、活動しない、つまりあまり歩かないような状態であると、脂肪がエネルギーに変わりにくくなります。脂肪細胞にためきれずに余って漏れ出した脂肪が筋肉にたまった、あるいは使われずにたまったのが、脂肪筋です(下イラスト)」(田村さん)
脂肪筋では、脂肪が筋肉内で何らかの毒性をもたらし、糖を取り込むインスリンの効きを悪くすると考えられている。糖が血中でだぶつき、やがて糖尿病やメタボの悪化につながっていく。「やせメタボは、肥満とは別個に起こる現象です。男性では、体脂肪率が20%を超えたあたりから脂肪が漏れ出るようになり、インスリンの効きが悪くなることを確認しています」(田村さん)。
骨格筋は、全身を動かす臓器であるとともに、人体の中で糖をグリコーゲンとして蓄える最大のタンクでもある。「骨格筋は、体重の約50~60%を占める人体最大の臓器ですが、この大きなタンクの調子が悪くなり、糖代謝がうまくいかなくなると、糖尿病になるだけでなく、動脈硬化や高血圧になることが明らかになってきています」(田村さん)
【脂肪筋とは】
筋肉の細胞の中に脂肪がたまると「脂肪筋」になる。骨格筋は、食事でとった糖をグリコーゲンとして蓄えるタンク。ところが脂肪筋では、たまった脂肪が毒性を発揮し、インスリンを効きにくくする。このため、糖をスムーズに取り込めなくなり、糖尿病が進む。これが、やせていても「メタボ」になる仕組みだ。
田村さんは特別な装置で、脂肪筋を「すね」部分の筋肉で測定している。自分の筋肉が脂肪筋になっているかどうかを知りたくなるが、「残念ながら脂肪筋は外側からはわかりません。すね部分の見た目や触り心地でも、判断できません」(田村さん)。
そこで、目安にしたいのが以下のチェックリスト。これまでの研究結果を総合し、「チェックが複数当てはまる人は、脂肪筋などが原因でインスリン抵抗性になっている可能性が高い」という。
〈脂肪筋チェックリスト〉
* □ 血圧が高め
* □ 中性脂肪値が高め
* □ 血糖値が高め
* □ 肝機能が悪い
* □ 脂肪肝である
* □ 歩く量が少ない(歩数1日5000歩以下)
* □ 油ものが好き
* □ 車を利用することが多い
3日間の油っこい食事と運動不足で脂肪筋が1.5倍増える
前出のとおり、脂肪筋を作る原因となるのが「活動不足」と「高脂肪食」だ。
これまでは通勤などで歩いていたが、リモートワークでめっきり歩数が減った、食事内容も偏っている、という人は「このような生活がどのぐらい続くと脂肪筋に変わってしまうのか」についても知りたくなるだろう。
「実は、肥満していない若い男性を対象にした私たちの研究では、3日間脂っこいものを食べ、1日3000歩以下しか歩かない、という生活によって、脂肪筋が1.5倍に増え、インスリン感受性も低下してしまいました」と田村さんは言う(下グラフ)。
3日間の高脂肪食で脂肪筋が増え、インスリンの効きが悪くなった
50人の肥満していない男性(平均年齢23.3歳)に、3日間の普通食を、そのあと3日間の高脂肪食(炭水化物20%、脂質60%、たんぱく質20%)をとってもらい、その前後に脂肪筋量、骨格筋のインスリン感受性を測定した。高脂肪食による反応が大きかった群では、脂肪筋量が約1.5倍増え、骨格筋のインスリン感受性が有意に低下した。(データ:Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 Jan 1;310(1):E32-40.)
また、「どのような人で脂肪筋が増えやすいか」を確かめた研究では、週1回以上運動しておらず、かつ、あまり歩かない人は、脂肪筋が増えやすいことがわかった(*6)。
「普段からしっかり活動をしている人では、脂肪筋が作られにくいと言えます」(田村さん)。
いかがだっただろうか。在宅のリモートワークで歩かない生活は、危ないとわかっていただけたと思う。ぜひ、リモートワークが続いても、活動を減らさずに、できるだけ歩くようにしよう。
*6 J Diabetes Investig. 2011 Aug 2;2(4):310-7.
次回は、「歩かない、動かない」ことが「やせメタボ」だけでなく、総死亡リスクや認知症などさまざまな疾患リスクを高める要因になる、というエビデンスについても見ていこう。
(図版制作:増田真一)
田村好史(たむら よしふみ)さん
順天堂大学大学院 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンター 先任准教授
順天堂大学医学部卒業。糖尿病専門医。