<昨日の記事の続きです>
さては兎も角、他愛のない話をしながら私達は料理を待ちました。シンガポールの日本食レストランではたまに、先に出てくるべき料理が全部食べ終わって忘れた頃に出てくるときがあります(笑)。今回は“まずは刺身の盛り合わせが出てくるべき”と、スティーブの身振り手振りそれに顔の表情もダイナミックな話に全身を耳にして聞き入りながらも、万事細かい私は(自分でも時々イヤになるのですが、)気になって仕方がありませんでした(笑)。こんな性格では、いつかはきっと星一徹のようにちゃぶ台をひっくり返してしまうかもしれません。スティーブは、と見ると、そんな私の気遣いをよそに、ボストン・レッドソックスなどの話をしております。と、丁度その時です。「お待たせやしたー」(任侠道の人?いえ、地元のスタッフの流暢な日本語です。)の掛け声と共にサーモンとマグロの刺身盛り合わせがテーブルに置かれたのは。
相変わらず話まくるスティーブ。私は、分かったように軽くうなずきながら、で時には大仰にうなずいて見せながらも、話は全く理解してなく、まずはスティーブの刺身の醤油皿にお醤油を静かに、それも“上品”についであげました。
「さあスティーブ、まずは食べながら話そうぢゃないか。」と私。スティーブもそれに促されたように我に返って、そして薪でも割るように割り箸を割り、ふと目線を私が彼についであげた刺身醤油皿に落としました。“ん?何か問題か?”と思っていると、彼はおもむろに手を伸ばして、テーブルに配置された醤油ビンを取り上げると、あたかも私が彼についであげた醤油の量が少なすぎると言わんばかりに、その醤油皿が溢れんばかりになみなみと醤油を継ぎ足しました。“こりゃどうも、俺がついだ醤油が気に食わなかったようだな。”と思っていると、今度はなれた手つきで、マグロの刺身一切れをつまみ上げ、スーッ、チャポン、とその海のような醤油に入れて箸を放したではありませんか!“そっ、それはマグロの漬け(づけ)だ!”
目の前の醤油の海に、サーモンやマグロが泳いでいます。「どうだ、スティーブ、今日の刺身は?」と聞くと、「ファァンタァスティック!(素晴らしい!)」と間髪入れずに。「どうだお前のはヒロト?」と一応私のも心配してくれています。そして「うん、そうだな。今日の中落ち丼は。。。」と目線をスティーブから手元の中落ち丼に移したその時、私は目の上の部分で見ました。スティーブは自分の御飯に上から円を描くように醤油をぶっ掛けてました!どうもスティーブは醤油が大好きのようです。でもこっちは見ているだけで血圧が上がって倒れそうでした(笑)。
昔、「仁義なき戦い」シリーズで一世を風靡した金子信雄という俳優さんがおりましたが、彼はまた料理研究家としても有名な方で、私は彼の料理番組を見ていて今でも思い出すのが「しょうゆ御飯」です。彼にとって最高の酒のつまみはというか贅沢なことは、最高の生醤油に最高の米(ごはん粒)を「少量」ひたし、それを一粒一粒つまみながら日本酒を飲むことなのだそうです。なんとも「粋」を感じますね。思い出すだけで私も今晩試して見たくなります(笑)。それに比較してスティーブの「しょうゆ御飯」は、金子信雄のとは随分違って決して「粋」ではありませんが、十分「エキサイティング」でした(笑)。こっちが、「スティーブ、良い営業マン、見つかったぜ!」というと、直ぐに、「グレイト!」。で、「スティーブ、面接のアレンジできたぜ!」というと直ぐに、「ファンタスティック!」はっきり行って大げさで、熱い男だなあと思っていたのですが、その秘密はなんと「しょうゆ御飯」であることを発見した次第でした(笑)。
<終わり>