「きのうは」
と、わたしは言った。
きのうはわたしの誕生日で、あな
たはわたしの誕生日に、お店に
現れたんですよと、何よりもま
ず、そのことを伝えたかった。
わたしよりも先に、あのひとが
言った。
「会えて、ほんとうによかった。
なんできのうのうちに、電話番号、
訊いておかなかったんだろうって、
訊いてたら、会えたかもしれない
って、
今ちっと後悔している。いや、書
店で別れた直後からずっと、後悔
していた」
耳に飛び込んでくる、まるで奇跡
のような言葉。一日遅れの、神さ
まからのバースディ・プレゼント。
「きのうね、わたしの誕生日だっ
たんですよ」
「え!それはすごい偶然だ。おめ
でとう」
「山崎さんは、いつからアメリカに?」
「二年前から」
そのあとに語られた、あのひとの
ライフストーリー。
夜の静寂の中を、月明かりに導かれ
て、すいすいと進んでいく一艘の
小舟のような、軽快で明快な物語。
その舟の作る波に乗って、どこま
でもどこまでも、ついていきたく
なるような。