かなわなかった恋ほど、あ
とをひくのはなぜだろう。
わたしは正人が好き
だった。
黒く濃くて長い、蓮のまつ
毛が好きだった。
そのまつ毛の下の、一見
意地悪そうな視線が、好き
だった。
細かい文字を読もうとする
ときの、ほんの少しだけ目
を細める癖や、頬杖をつい
て考え事をしている時の
どこか無防備な仕草が好き
だった。ほんの少しだけ湿
った、あたたかい手のひら
が好きだった。
骨張った両腕。その腕が私
の腰をしっかりと支え、み
じんの不安を感じさせない
で、軽々と、私の躰を抱き
上げる瞬間が、好きだった。