小さな嘘をひとつ、つく。
嘘が乾かないうちに、もう一度、
湿った唇を押し当てる。
失いたくない、大切な人を
守るために、必要な嘘というもの
があるのだ。
だから、嘘をついた自分を、責め
たりしない。
わたしは、昔みたいにまっすぐ
じゃない。枝をたまわせておけば、
折れないでいられることを学んだ。
小さな嘘をひとつ、つく。
嘘が乾かないうちに、もう一度、
湿った唇を押し当てる。
失いたくない、大切な人を
守るために、必要な嘘というもの
があるのだ。
だから、嘘をついた自分を、責め
たりしない。
わたしは、昔みたいにまっすぐ
じゃない。枝をたまわせておけば、
折れないでいられることを学んだ。
愛し合うということを、とき
どき不思議に思う。
おたがいに求め合っていても、
その強さは微妙に違う。
きっとその差が淋しさだった
り、せつなさだったりするの
だろう。
いつのまにか
吾を呼びすてる男いて
フルーツパフェを食べさせた
がる
凍るように冷たい風が
夕方の湖の上を吹き渡る
ただひとつの気持ちに突き
動かされて
ここまで来た
思いを断ち切ろうとしたのに
薄くこごえた景色の中で
僕の思いは燃え上がる
思い切れない
どうしても
苦しい恋に
なってしまった
待ち合わせのウエティン
グバーに、わたしは早め
に出かけて、ミモザを
飲みながら律を待った。
彼が「わたしの方へ向か
って歩いてくる姿」を、
どうしてもこの目で、見
たくて。
彼はその時どんな表情を
しているのか、その視線
を受けて、わたしの胸は
どんなふうにときめくの
か、
それを確かめないまま、
この恋を先へ進めてゆく
ことはできない。
そんな切羽詰まった思い
を、胸に抱えていた。
わたしの姿に気づくと、
律は右手を軽く上げて、
何かに頷くようにしな
がら、にっこりと笑った。
その笑顔はわたしの人生
に、差し込んできた陽の
光のように見えた。
心がひきあっているなら
どんな障害があっても
自然とあゆみよっていくもの
です
そこには
内気さや躊躇や策略は
はいりこむスキがないのです
どうしてもすれちがってしま
うとか
相手を思いやるばかりに強気
にでれないというのなら
それはやはりお互いに
それほど求めあっているのでは
ないのでしょう
恋する少女を力づけるどんな
言葉もありません
彼があなたを心の底からほし
がっているなら
あなたがあれこれ考えるヒマ
もないほど
あっというまにさらわれてい
るはずなのです
かなわなかった恋ほど、あ
とをひくのはなぜだろう。
わたしは正人が好き
だった。
黒く濃くて長い、蓮のまつ
毛が好きだった。
そのまつ毛の下の、一見
意地悪そうな視線が、好き
だった。
細かい文字を読もうとする
ときの、ほんの少しだけ目
を細める癖や、頬杖をつい
て考え事をしている時の
どこか無防備な仕草が好き
だった。ほんの少しだけ湿
った、あたたかい手のひら
が好きだった。
骨張った両腕。その腕が私
の腰をしっかりと支え、み
じんの不安を感じさせない
で、軽々と、私の躰を抱き
上げる瞬間が、好きだった。
夏の雨は粒が大きい。ボール
ペンのダークブルーの色さえ
滲ませる。
見覚えのある懐かしい文字。
部屋に入ってからも、封を切る
勇気がすぐ出てこなくて、
彼女は濡れた髪を拭きながら、
遠目に眺めていた。手紙はリ
ビングのピアノの上に置いた。
白い和紙から、雨の匂いが立ち
昇っていた。その匂いは彼女に
胸騒ぎを起させる。
胸騒ぎは遠い潮騒に似て、遥か
な日々を甦らせる。記憶の底の
遠い過去を。
“
あなたとの恋は八月の街に
冷たく消えた
ロソクの火さえあなたの瞳の
冷たい光を暖めはしない“
好きな人ができたら、まず
利き腕をチェック。
左利きの人と隣り合わせに
座るときなど、
さりげなく注意して気配り
上手を演出してこそデキる女。
名店といわれる店へ、なりゆきで
連れていかれたときなどは、
そこそこ体裁よく、その場をこ
なしたいと思う。
理想はうまそうに見えること。
一箸一口一啜り、が基本だろう。
ソバをたぐるという。ソーメンや
うどんではあまりいわない。
ラーメンではまったく聞かない。
手繰る。手を繰って、目的のもの
を自分の方へ引き寄せる動作。
適量の麺をつまんだ箸を持ち上げ
て、麺の尻尾を確認して一旦降ろし、
その尻尾をたぐって再度持ち上げ
れば、見事なひと口の完成。
好みの長さと分量になるまで、
ソバは何度たぐり直しても、非礼
にはあたらない。
ていねいにたぐり、せいぜい小粋
に食べよう。
”人は愛するたびに誤ちをおかし
ているのかも知れない。それでも
愛さなかったより、愛する幸福を
一度でも知った方がより深い人生
を生きたことになる”
余談だが、
北鎌倉の駅から鎌倉よりに、東慶寺
という静かな尼寺がある。
江戸時代から有名な「かけこみ寺」
である。
封建時代には、女は結婚の自由は
もちろん、離婚の自由さえなかった。
親や兄弟の利益のため政略結婚に
利用され、どんなに横暴で非道な
虐待をうけても、女は一たん嫁(か)
した以上は、死ぬまでそこで辛抱を
強いられた。
そのくせ、女は夫の都合によって、
いつでも勝手に離婚されることが
あった。
妻が夫と別れたい時は、死ぬしか
道がなかった。
ただ一つ北鎌倉の東慶寺まで逃げ
のび、一歩この寺へたどりつけば、
法律の届かない世界になっている。
今でも昔のままに残っている東慶
寺の石段の下までたどりつくと、追
手に追われた女は、必死になって、
履物を寺の境内にむかって投げ
こんだ。それが片方でも境内に
とどきさえすれば有効で、体は
捕らえられても女の逃走は認め
られるというきまりがあった。
・・・・・・・。
言葉を捨てることにより、
明瞭な答えを
得られることもある。
あなたは言葉によってこの世界を
体験している。あなたに向かって
発せられた言葉や、あなたが発した
言葉で喜んだり悲しんだり怒ったり、
ジェットコースターのように想いが
上下する毎日を過ごしているのでは
ないだろうか。
内的な言葉であっても、声に出した
言葉であっても、書いた言葉であっ
ても、あなたはつねにこの現実を
言葉によって構成した体験している
のだ。
でも、とても大切なことをひとつだ
けを覚えてほしい。それは、あなた
が本当は言葉を介さなくてもこの
世界を直接感じ取ることができる
ということを。
本当に大切なフイーリングは言葉
に置き換える必要などないという。
そう、沈黙は場を制す。
テーブルに届けられた
ミルクティを飲みながら、
思い出していた。
水に何を書きのこすことが
できるだろうか
たぶん何を書いても
すぐ消えてしまうことだろう
だが
私は水に愛を書く
たとえ
水に書いた詩が消えてしまっても
海に来るたびに
愛を思い出させるように