現在、渋谷のBunkamuraで上映されているロシア映画(2005)。
教育や児童福祉にかかわる僕としてはどうしても見ておきたかった映画。孤児院が舞台の映画で、親子関係について深く考えさせる作品。この映画では「孤児院」となっているが、日本でいえば「児童養護施設」。母親に見捨てられた子どもの心境を見事に描いた映画で、教育や児童福祉の関係者には是非見てもらいたい作品だ。
主人公のワーニャ・ソンツェフ少年(6)は、孤児院で日々の生活を送っている。そこにイタリア人の夫婦がやってきて、ワーニャ少年を養子にしたいと申し出てきた。回りの大人や友だちたちは、ここでの生活から離れるワーニャを祝福する。養子先に行けば豊かな暮らしができるし、親のいる生活を送ることができる。ワーニャもその話にまんざらでもなさそうだった。だが、ある日、別の子どもの母親が孤児院にやってきて、自分の子どもを引き取ろうとする。その姿をみて、おぼろげながらに「母親」という存在について考え始める。ワーニャは問う。「もし自分が養子になったとして、その後自分の本当の母親が引き取りにやってきたらどうなってしまうんだろう?」、と。そして、ワーニャはこっそりと鍵を盗んで、重要秘密書類を手にして、自分のルーツを知る。「自分はいったい誰なんだろう?」。そのために、年長のイルカというお姉ちゃんから文字を習い、文章読解を身につける。そして、母をたずねて・・・
この映画は、肉親への子の愛情の大きさというのが主だったテーマだ。だが、その根底に色んな問題提起が含まれている。環境の整っていない大人数の孤児院でそれなりにたくましく生きるロシアの子どもたち。それなりによい環境を用意しながらも多くの困難を抱える日本の養護施設。そして、どちらの国でも共通する子どもの問題。また、孤児院の中での子どもの人間関係も見事にリアルに描写している。乱暴で暴力的な子どもたちの間にある「自治」。そして、「共同貯金」。子どもの連帯性を考える上でも大きな示唆を与えてくれるだろう。
基本的にこの映画はポジティブな意味に溢れている。特にシリアスな場面はない。内容もとてもシンプル。実話に基づいているからかもしれないが、それほど内容的に複雑ではない。しかし、だからこそリアルを感じるのだ。また、この映画に登場する子どもたちの多くは、本当に孤児院で生活している子どもたちなのだ。孤児院それ自体も本当の孤児院とのこと。リアルの中に映画の世界を構成した作品なのだ。
親子関係、養子縁組、児童養護、児童遺棄などに興味のある人は是非是非見ていただきたいと思う。いい映画です。