Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

なぜ僕は愛にこだわるのか・・・

今年のテーマは、「福祉、教育、愛」だ。講義でも「愛すること」について述べているし、今年の論文も「福祉、教育、愛」について論じようと思っている。

なんでそんなことを論じているのか。福祉や教育に愛なんて関係ないじゃないか、と思う人もいるかもしれない。でも、(まだ漠然とでしか見えていないが)愛することは教育や福祉の強烈な前提条件なんじゃないか、と思うのだ。

<以下スケッチ>

人を愛する条件とは何か。

人を愛する条件は、自分を愛せていること。自分を愛せずに、そのことで苦しんでいる人は人を愛することができず、愛されることしか要求しない。

では、自分を愛するための条件は何か。

自分を愛するための条件は、自分自身がたっぷりと愛されていること。あるいは、愛された経験をもっていること。

通常は親にたっぷりと愛されることになるが、すべての人が親から愛を受けるわけではない。親も人間だ。愛されたことのない親であれば(あるいは自分を愛せていない親であれば)、その親は子を愛することができない。子は親を選ぶことはできず、愛されるか、愛されないかは、運命というか、宿命というか、そういうものであって、自分の力ではどうすることもできないことなのである。

実際に親に愛されずに育った人は(本当に本当に)たくさんいる。愛に飢えた人の数は、愛に満足している人の数の数倍に及ぶのではないか。 

そこで、問うたのが、「親から愛されずに育った子ども(~大人)は愛することを学ぶことができるか」、ということだった。

この問いは答えることが非常に難しい。

 

「愛の学習可能性」を信じるか、信じないか。

ずばり、僕は信じる。

親から愛されなかった人は、親ではない誰かに愛される必要がある。親が子を愛せない以上、別の人間によって愛されなければならない。(僕が赤ちゃんポスト賛成なのも、この点にある。親が愛せないなら、早いうちにその子をしっかり愛してくれる里親のもとで愛されて育ってほしいから。親も親で子を育てる以前に誰かに愛されてもらいたい。)

しかし、別の人間とはいえ、親的な愛情(無条件の受容・許し・承認)は、恋人によって与えられる愛情(エロスの愛、対等な愛、条件付の愛)とは質的に異なっている。親的な愛情の方が異性愛よりもはるかに大きな愛である。

ゆえに、恋人との恋愛でこの条件を満たすことは難しい、というか不可能だ。幼児期に愛されて育った子どもが受けた愛は、徹底的な愛情だ。そして、エロスを介さない。無条件の愛であり、利害関係ではない愛情関係であり、一方的に認められてしまう愛である。恋人との愛は対等であり、利害関係がからみ、相互補完的な愛である。

愛されることを経験しなかった人には、恋人ではない誰かにたっぷりと愛される経験が必要なのだ。

それは、先生かもしれない。保育者かもしれない。近所の人かもしれない。先輩かもしれない。いずれにしても、対等ではなく、大きな存在に愛され、許され、受け入れられ、認められ、包み込まれる必要があるのだ。(大きな視点でいえば、神やお釈迦様に愛され、許され、受け入れられてもいいのかも・・・)

 

僕が教えている学生たちは、まさにそうした子どもたちとかかわる仕事を目指す若者たちだ。

だから、「愛することを学ぶこと」について伝えたいと思っているのかもしれない。

愛情に欠けた子どもたちを守り、育て、愛することを仕事にする若者たちに、問いたいのかもしれない。

あなたは、子どもを愛するために必要な「愛される経験」をしていますか、と。

きっと教えること(教授すること)なら、愛される経験のない人でもできるかもしれない。進学塾の先生や予備校の先生や大学や大学院の先生なら、そういう経験がなくても、十分に任務を果たすことができる。教授法に長けていれば、とりあえずのところ、任務を果たすことができる。

しかし、教育するとなると話は別だ。文字通り、教え、育てなければならない。育てるということの中には、愛するということが含まれていると思う(by ペスタロッチ!)。初等教育では、むしろ愛することの方が教えることよりも重要なのかもしれない。初等教育では、教科よりも学級(生活環境)を重んじている。

人の人間性を育てたり、愛することを教える立場の人は、まずその人自身が愛されていなければならない

愛された経験のない人は、そもそも他人(子ども)を愛することができない(又は、その可能性が極めて高い)。また、あるいは、愛される経験をしっかりとしなければならない(恋人にではなく)。

とすると、愛することを仕事にしたい学生の中で愛される経験をしていない学生がいたとしたら、その学生を愛することが僕の仕事なのかもしれない。(そこまでしなくてもいいかもしれないが、僕個人的には、そういう学生を親的に愛してあげたい)

短い期間でどれだけできるか分からないが、親や身近な人に愛されてこなかった学生たちを認め、許し、受け入れ、愛してあげることが、保育者や教師を育てる僕らの仕事なのかもしれない(し、そうではないかもしれない)。

だから、僕は「愛すること」にこだわるのだ。(ただし、愛することを教授することを通じて、愛することの重要性を訴えるのみ)

●他人を愛することができるためには、自分を愛していなければならない。

●自分を愛するためには、まず特定の人に愛されなければならない。

●特定の人に愛されなかった人は、別の誰かに愛されなければならない。

●そういう人を愛する人(教師や保育士、刑務所職員、警察官、弁護士など)は、まずその人自身が愛されていなければならない。

やはり、どう考えても、しっかり愛されている人しか、やはり愛することを教えること(=許し、認め、受け入れること)はできないのではないだろうか。

誰もが愛されることを望んでいる。

愛されなかった人は、愛されなかったことに苦しんでいる。

愛してくれる人がいれば、その人は過ちを犯さなかったかもしれない。繰り返される残虐な事件の背後に、愛への呻きを感じずにはいられない。罪を憎んで、人を憎まず。やはり「魂の貧困」、「愛の貧困」がそういう事件を引き起こすのだと思う。

いずれにせよ、愛されなかった人に愛を与えることができるのは、しっかりと愛された人だけである。愛されている人しか、愛されていないことに苦しむ人を救うことはできない。

とすると、

しっかりと愛された人には人を愛する義務がある

愛された人は、「愛する」という何にも変えがたい宝物をもっているのだから。愛されている人こそ、たくさんの愛情をしっかりと他者に与えることができるのだし、その資格が与えられているのだ。愛された人、愛されている人だって、特定の他者に愛されたからこそ、愛する能力を得ることができたのだ。それは、その人の努力によるものではなく、「たまたまそのように与えられた」だけなのだ。

だから、愛することができる人は、惜しみなく愛を人に与えてあげてもらいたいのだ。僕はそれを願っている。

コメント一覧

にぁ。
いろいろな。
こんばんは。皆さんの意見、参考になります。数学みたいに、コレと言う正解もなければ形もない訳ですから。環境や周りの人の考え方や。沢山の人に触れあって、そこから選び取る。核家族化していて、そんな当たり前の事も薄れて行っている様に想います。女性はこうあるべき、男性はこうあるべき。なんて言う昔からの考え方に、捕われ過ぎなんですね。確かに男性にも母性本能は、在ると思いますよ。
yukisuke
http://be-blown-off-neworld.269g.net/
Kei氏にそう言っていただけるとは、、。
恐縮です

人間は受動的な生き物なのですね。
受動的であるが故に、悩み、葛藤し、能動的に動くのでしょうか?

最初に与えられたもので、やりくりして、また新しいものを得る。


>受けるものがたくさんあってはじめて与えることができるんだ、と。
物質も精神もココロも魂も。


本当にそう思いました。与えられたもので新しいものを作る。創造する。

その根本は、受け止めてもらう(愛される事)からですね。

本当に一人ぼっちで、孤独に育った人はなにを思い、どう世界を捉えていきているのでしょうか、、、。

凄く興味が湧いてきました。

kei
sahibunoさん

やおい文化って・・・ 面白そうじゃないですか!! って同性愛についてですか?? 同性愛は僕的には異性愛と同じように考えていますが・・・(同性愛も異性愛もエロスに基づいている点では同等ってことで・・・) 海外で普通に愛し合う同性愛の人とたくさんかかわれたので、先入観はなくなりましたが・・・ sahibunoさんはどんな理論を展開してくれるのか・・・楽しみです。

yukisukeさん

お褒めいただきありがとうございます。yukisukeさんに誉められると嬉しくなりますね~~~(^0^)/

愛の再学習、いい言葉です。いただきました!今度この言葉使わせてもらいます!!

愛されることでしか愛することは学べない、そんな結論になりそうです。

不思議な話ですが、受け身の愛を通じてしか能動的な愛は獲得されない。人間が根本的に受動的な生き物だということが分かった気がしました。

人間の(主体的な)意識や意志や認識なんてものはちっぽけで、結局は大きな受動の中でしか人間は生きられない。

受けるものがたくさんあってはじめて与えることができるんだ、と。

物質も精神もココロも魂も。

人間は変われる!それを信じなくなったら僕は教師を辞めようと思います。

そこにある幸せを自ら見えるようにさせること、これこそ、現象学的幸福論なんだろうな、と思ったりもしますね!
yukisuke
What is love?
http://be-blown-off-neworld.269g.net/
こんばんは、Dr・Kei氏

この記事、とっても好きです。

「愛される事」すなわち誰かに必要にとされ、認めてもらえること。

これは愛する事の前に、愛される事によって、その正の螺旋が生まれるきっかけになる事なのですね。

そして、愛の再学習によってまた、愛する学習にもつながる。

上記の記事をよんでいて「愛されることに気づく事」も重要なことなのではと思いました。

物質が豊かになって、非常に生活が便利な世の中ですが、便利な分「隣の芝生が青く見える」な状況ですよね。

そこにある「幸せ」に気づけない人がどれだけいるのか、、。

それも含めて、愛されることによって気づけることなのだろうなぁとも、思いました。
sahibuno
今度
やおい文化について討論しないか?
kei
nadeshikoさん

nadeshikoさんが誉めてくださったので、調子にのってこの記事を資料にして講義を90分してしまいました♪♪♪ 背中を押されたような気がしました。ありがとうございます!

にぁさん

多分僕は極論を書いたんだと思います。親も人間ですし、子どもを100パーセント愛することって不可能な気がしてきました。100パーセントまるごと愛せるのは人間を越えた存在のみかな、と。すごく変な話ですが、50パーセント~75パーセント愛せればOKなのかな、と。100パーセント無償の愛を提供できないのが人間なのかな、と。で、補足部分は他の人(祖父母や近隣の人など)に愛してもらってカバーできる、と。あと、僕の考えでは、母性本能は男性にも(ある人には)あるように思うんです。女性性と男性性は人それぞれかなぁ~って。いかがでしょう?? 女性でも男性性の強い人っていますよね??

やまさん

ええ?!やまさんも不登校の子と接してきたのですか???(ビックリ)。「信じる」って愛することの一部のような気がします。僕は「信じることを信じられるか?」(基本的信頼感)についてよく授業で話しています。信じることができるやまさんはやっぱり素敵だと思います。僕も信じることをずっと信じ続けようと思っています。(人間だから不信感もありますが・・・)

さつきさん

深いコメントありがとうございます。このコメントは考えさせられました。たしかにお父様はお母様と出会えて(本当に)救われたのだと思います。でも、きっとそれはお母様がしっかりと愛されてこられたからではないでしょうか?お母様が大きな愛を受けてきたからこそ、異性愛と無償の愛の両方をお父様に与えられたのではないでしょうか? すごく素敵なことだと思います。夫婦愛によって救われることもあるんですね。(ただ、一歩間違えると、DVの循環に巻き込まれる可能性もあるだけに、異性愛と無償の愛を同時に与えることには恐さを感じます。また、日本の男性は恐らくほとんど女性を愛せていないように思えるのです!) でも、さつきさんのお母様の愛はすごい愛だと思います。一度お会いしたいくらいです(汗) 
さつき
いろんな愛
恋人からの愛ではダメでしょうか?祖母は愛されずに育ちました。その息子である父もまた祖母に愛されずに育ち、母と結婚しました。母は、私達子供を愛し、まるで子供同様に父を愛しました。あきらめずに叱り諭し、抱きしめ時には頭を撫で、そしてまた私達子供を愛する姿を見せました。まだ、それでも足りないのかも知れません。でもパートナーとして、母が父に注いできた愛は、届いていると思いますよ。
やま
本当に難問です
僕は、子供たちとの接点はあまりありませんが仕事柄登校拒否など心にしこりのある青年たちと接してきましたが、みないろいろ接し方はあると思いますが
僕は、性格的に直球勝負なので、愛するというより信じてあげる。
みなさんいろいろ考え方があるから
本当に難問ですね。
難しい問題ですが、これからも期待してます。
にぁ。
難問です。
今晩は。1番深い愛情って、親からの愛。つまり、無償の愛だと想っていて。幸運にも私は、それを受け取る事が出来た、と言う自覚もあります。それでも他人(特に子供)を愛せるか?と聞かれたら首を傾げてしまいます。女性は母性本能があるはず。と思われていますが、どうなんでしょうね?薄い、と言うか、ほとんど自分には無いのではないか。自分は「愛する」と言う事に関して、無関心過ぎるのでは無いか?と最近のニュースを見る度に考えてしまいます。
nadeshiko
ああ
http://plaza.rakuten.co.jp/nadeshikoheart/
このお話、とてもいいですね。
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