🎍2023年新春スペシャル🍜新時代のラーメン評論①【食糧危機の時代にラーメンを問いなおす】

2023年になりました。

今年は、個々のお店のラーメンレポだけじゃなくて、もっとラーメンの「評論」をしていきたいなと思っています。

多くの人が「ラーメン評論家」を叩いたり、批判したりしていますが、「じゃ、ラーメン評論って何なんだ？！」って問うと、これがなかなか答えるのが難しいなぁ、と。

じゃ、自分でとりあえず評論をやってみようかな、と。

もう、個々のラーメン情報だと他のSNSに勝てる見込みは全くなさそうですし、新店情報ももはやSNS上に溢れすぎていて、僕の出番は全くありません（苦笑）。

ならば、「文字」と「写真」で表現するブログという場で、「ラーメン批評」を色々やってみればいいか、と思ったのです。それができるのが、ブログというメディアじゃないか！、と。そんなこんなで考えました。

題して、

🍜新時代のラーメン評論🍜シリーズ

です！

その第一弾は【食糧危機の時代にラーメンを問いなおす】です！

では、早速✨

食糧危機の時代にラーメンを問いなおす

1月1日のNHKの特番【混迷の世紀】で、ラーメンを含む「食の未来」について考える上で重要な話が取り上げられていた。

この番組で、フランスの思想家のジャック・アタリ氏が、こんなことを言っていた。

水不足、気候変動、戦争、全部揃っている

そして今後、食糧不足が更なる戦争を引き起こす

と。

アタリ氏は、フランス革命も食糧不足から生じたものだったことにも触れていた。

食の歴史――人類はこれまで何を食べてきたのか   ジャック・アタリ プレジデント社

アタリは、食についても以前からずっと問題にしてきた思想家だ。

僕も、「生きることは食べることで、食べることは生きること」という哲学的命題を根底に置いている。

…

アタリ氏に従わずとも、今や世界的な食糧危機の時代を迎えつつある。

質以前に、量的に圧倒的に何もかも足りない時代がすぐそこまで来ている。

飽食国ニッポンにいると、気づけないかもしれないけれど、世界規模で見れば、食糧危機はすでに取り戻しのきかないところまで来ている、とさえ言われている。

けれど、日本も相当深刻なのだ。

アタリ氏は、日本の食料自給率の低さと、日本の農業の致命的危機についても触れてくれた。

農業がより魅力的な仕事になるように。

農業の弱さが、日本の最大の課題だ！

牛肉を食べることを極端に減らせ！

といったことをアタリ氏は日本人向けに語った。

当たり前だが、農業が終われば、日本は消滅する。

今や、農業人口は過去にないくらいに減っている。

＞引用元はこちら

実際、現実の世界では、「農業では食っていけない」「技能実習生しかもう頼れない」「後継ぎがいない」「誰もやりたがっていない」という声がいっぱい聴こえてくる（ずっと聴いてきた）。

その一方で、海外への依存度はうなぎのぼりである。

日本に経済力があり、また世界が平和であれば、それで問題はなかった…（？！）。

しかし、今や日本は混迷どころか、超低空飛行しか続けられない【衰退途上国】になりつつある。

食料は健康や文化の礎であり、農業の保護や農業システムの維持が今や社会全体で求められている

とも指摘していた。

エネルギーも「ない」。食料も「ない」。売るモノも「ない」。ないないだらけの日本で、何を食べて生きていくのか。

それを踏まえ「大胆な「転換」が求められている」とアタリ氏は1日の番組で指摘した。

＞「混迷の世紀」の詳しい情報はこちら！

＞こちらの動画（[NHKスペシャル] 世界“フードショック”～揺らぐ『食』の秩序～）も是非！

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ラーメンの【値上げ問題】や【1000円超え問題】も、この文脈からしっかりと考え直す必要がある。

日本ラーメン協会のように「ラーメン業界の活性化を！」「ラーメン業界を盛り上げよう！」と呼び掛けるのが「批評」「評論」では「ない」。

ラーメンはどうやって生まれ、どうやって発展し、どんな未来を歩むのかを総合的に考え、それを批判的に厳しく論じることが、「ラーメン評論」である。「美味しい」だとか「まずい」だとか「ここがおススメ」だとか「今年のトレンドは○○だ」とか、そんなことを言うことが「ラーメン評論」なのでは「ない」。

ラーメン業界や飲食業界において問題となっていることや問題になり得ることを言葉で論じるのが「食の評論」である。世界的な食糧危機の時代において、今後、ラーメンをどう考えればよいのか。

…

中長期的に見れば、今われわれが食べているような「ラーメン」が食べられなくなる可能性は高い。肉も骨も油も手に入らなくなる時代もそう遠くない。

とすれば、道は一つだ。

それは、貧しい時代のあの昔ながらのラーメンである。

今ある（贅沢過ぎる度を越えた）ラーメンは、環境破壊や食糧危機に喘ぐこの世界で、消えてなくなるだろう（常識的な価格では提供することが困難になるだろう）。

こんなことを書くと、すべてのラーメン屋さんから嫌われるかもしれないが、世界規模で、また様々な未来予測を踏まえると、そう言うしかない。

同時に、今後の世界の食糧事情や環境負荷を考えると、チープな素材の安いラーメンで「美味しい」と感じられるような、僕らの意識改革が必要なのでは、と。

これは実際、ずっと思っていたことである。「1000円超えのラーメンじゃなく、500円でもそこそこ美味しいラーメンを」、と呼び掛けてきたのも、そういう背景があってのことだった。これまで700円だったラーメンを700円で食べられる時代は終わったのだ。

とすると、よほどの金持ち以外の（僕を含む）ふつうの人々は、これまで当たり前のように食べてきた「ラーメン」から脱するしかない。

これはとんでもなく高いハードルだろうけど、今のラーメン業界においては、もはや今のラーメンの水準を同価格でこのまま保つことはできない。

「モノ」から「コト」、「コト」から「トキ」へ。

そうやって、90年以降、日本は発展してきた。

だが、この数年で一気に「モノ」への回帰が進んでいる。

もう「モノ」がなくなる時代に入ったのだ。「モノ」が入ってこないから、足りないから、価格が上っているのだ。「モノ」が乏しい時代に相応しいモノ（ラーメン）とはどんなモノか。われわれ自身も問われている。「過度な贅沢品から離れ、必需品に目を向けなけなければならない」、と。

大きな転換期を迎えているのだ。

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ふと思った。「二郎」も「家系」も（あるいは「背脂チャッチャ系も）80年代末頃から広まり始めた高度成長期の晩年のラーメンだった、と。

いずれも、過剰なバブル時代に発展したラーメンだった。吉村家を古くから知る人は、「90年代以降、どんどん味が濃くなっていった」、と語っていた。ラーメン二郎も、80年代末頃だと、今みたいにとんでもない量の野菜が乗っているわけではなかった（それでもすごい量だけど、そのほとんどがもやし等だったわけで…）

その後、どんどん量も質もエスカレートした。低迷する00年代の日本で誕生し、ブームとなったのが「超濃厚豚骨魚介ラーメン・つけ麺」だった。「頑者」「六厘舎」「とみ田」に代表されるあのラーメン・つけ麺だ。

あの超濃厚なスープを作るために、いったいどれだけの食材を使っていたか。しかも、それを1000円以下の値段で売れていたということ自体が、「度を越えた贅沢」だったのではないか、と思う。大量の肉や骨、魚介や乾物を惜しみなく使い、そして作られるドロドロのスープ（今の家系ブームも、この手法を取り込んだがゆえの再ブームになったのでは、と見ている）

これも今後変わらざるを得ないかもしれない。

世界的に深刻な食糧危機の時代を迎える今、こうした度を超えた食材を使うラーメンは、3000円から4000円くらいが妥当な価格になるはずである。

いや、極端な話、5000円くらいになるのが妥当ではないか。

そうなると、一部の富裕層だけが食べられる「高級料理」となる。

だが、開き直れば、「それでいいじゃないか」、とも思う。

高級料理となったラーメン以外のラーメン、つまり国民食としてのふつうの人々のためのラーメンは、今後もっともっとシンプルに、原始的なものになっていくしかない。

だが、それは「絶望」ではない。逆だ。「希望」なのだ。

先日、「中華そば伊峡＠神保町」で、一杯500円のラーメンを食べた。

個人的にはとても美味しくて感動できる一杯のラーメンだったが、きっと「家系」や「二郎系」や「濃厚豚骨魚介系」しか食べていない人には、「ものたりないラーメン」「味気ないラーメン」「味のないラーメン」に思われるだろう。チャーシューも本当に本当に小さいのが一枚乗っているだけだった。

でも、スープをよく味わえば、そこに深い美味しさが感じられるのである。それは、食材の量によるものではなく、職人の技術や知恵によるものであろう。これまで培ってきた経験や知性から生み出される「技の世界」である。過度な分かりやすい美味しさはないかもしれないが、じんわりと徐々に迫ってくる美味しさはたしかに「ある」。

世界の食糧危機が叫ばれている中、ラーメン店が生き延びるためには、そういう「技の世界への回帰」が求められているのではないか。

言い方は悪いが、何の調理技術も調理経験もない人間が「大量の食材の投入」によって「うまいラーメン」を作る時代はもう過去のものであり、ちゃんとした（理に適った）調理技術や調理経験（あるいは修業経験）をもつ人がつくる「ラーメン」を追い求める時代に入ったのだ（と言い切りたい）。

同時に、われわれラーメンの食べ手（ラーメン好き・ラーメンマニア・ラーメンフリーク・ラーメンインフルエンサー・ラーメン評論家）も意識を変えていかなければならないだろう。

お店が持続的に営業できるレベルのラーメンをしっかりと評価できるだけのセンスが求められている。値段と味のバランスをしっかりと考えた上で、「うまい」や「うまくない」を語っていかなければならない。

誰でもネット上でラーメンを語ることができる時代だからこそ、誰もがこのことを意識しておく必要がある。お店に過度な期待を抱くことや、お店に過度な質のラーメンを要求することや、過度に贅沢なラーメンを褒めたたえないこと（逆に批判すること）などなど。

それは、地球環境全体を考えることもである。日本の行き過ぎの外食産業へのブレーキにもなる。衰退後進国の道を歩むわれわれ日本人の未来への提言にもなる。

2023年、僕は伊峡の500円のラーメンを常に念頭に置いて、ラーメンを語っていきたい。

量的にはとても小さいチャーシューだけど、これを食べた瞬間の喜びたるや…😂

そこをしっかりと喜べる感性こそ、すべての人に求められていることではないだろうか。

＜了＞

…

PS. Comment1

さっそくよしぞうさんが反論記事を書いてくださいました。

＞よしぞうさんの当記事への反論はこちら！

こちらも是非お読みください！！

PS2. Comment2

usidonさんからも当記事についての批判的コメントを頂きました！

＞貴兄の「ラーメン評論」は、食材の使い方の善し悪しに偏っていると思う。価格は食材・賃料・光熱費等の経費と技術料で決まる。また、消費者の嗜好は多種多様、伊峡を好む者、とみ田を好む者色々いる。食材を多く使うとみ田を悪とするように聞こえる。食材の需給バランスでラーメンを評論すべきか悩む。

usidonさんの最後の「食材の需給バランスでラーメンを評価すべきか悩む」というコメントに、今後の「ラーメン評論」の可能性が示されているように思います。例えば台湾有事になり、小麦を運ぶ船が日本に入らなくなると、当然「中華麺」も作れなくなります。そうなった時、「ラーハン（麺ではなくご飯を入れたラーメン）」がかろうじて作れるとなると、評論そのものが激変します。豚肉や牛肉、その骨も入ってこなくなったら、もう今僕らがジャッジしている「スープの旨さ」についても語れなくなります。

PS3. Comment3

あじたまさんからも当記事についてのコメントを頂きました！

＞今後、高級ラーメン店と庶民ラーメンの完全なる二分化になるのかな…と記事を読ませて頂いて思いました。初めて福岡のラーメンを知ってから、しばらくは千葉でラーメンを食べられませんでした…お値段高い💧　そこから、立ち食い蕎麦屋・フードコート・パチンコ店併設の食堂のお安いラーメンや千葉の老舗かつお手頃なラーメン店をちょこっとだけ食べました。そこから安くても美味い！1000円こえようが美味い！と、様々なラーメン店に行けるようになりました。お店様の事情や、拘りで値段がお高いお店様は今でも多数ありますよ。今後も値上がりする可能性もあるでしょうよ。私個人、高級と安いラーメンを割り切って、それぞれの美味しい所を見付けて嗜んでいけたらなと思います。各媒体様・個人発信・配信者様方はほぼ流行りや話題のお店様しか紹介していない印象…　味の好みと言われたら、ぐうの音も出ねぇですけど…　福岡がラーメン有名って言うのは伊達じゃないと思います！　好みにもよりますが、老舗・有名・行列店の味と値段にビックリしました！この文化が全国的に浸透して、高級と格安のお店様が共存できる将来を期待しております！

今後のラーメンの未来を考える上でも、「福岡」のラーメン、あるいは「地方」のラーメンはもしかしたら重要かもしれません。地方に行けば、ワンコイン以下で美味しいラーメンを出すお店って、結構ありますからね。あと、ラーメン発信者へのご忠告も大切な指摘だと思います👆

PS4　Comment4

4日、遂に惡麺友らんちばさんがブログで当記事についてのコラムを書いてくれました！

＞らんちばさんのブログ記事はこちら！

さすが、僕よりもはるかに長くラーメンの食べ歩きをしているらんちばさんだけあって、しかもちゃんと独自の視点をもっているらんちばさんだけあって、僕も気づいていない点を色々と指摘してくれています。「なるほどー」って思ったし、まさかこの記事の問題に、「ラーメン店の町中華化」という視点をかぶせてくるとは思ってもみませんでした。

PS5.　Comment5

note「渡邊貴詞のラーメンアーカイブ『ラーカイブ』」のなべさんも当記事について触れてくださいました！

＞ラーメンを高いものと安いものとの二元論で整理する論調を見た。しかも、それを短絡的に食力危機に結びつけて、食材をたくさん使う料理に疑問を呈していた。解決策も提示せずだ。もうちょっと食力自給率からでも勉強しなおされたらいいと思う。また、それと個人の所得とは別問題である。

痛いところを突くコメントになっています。「解決策も提示せず」という言葉は的を射ています💦　僕の中では、評論の仕事は解決策を出すことではないと思っていますが、それじゃダメだぞ、というアドバイスとして受け取りました。最後の「それと個人の所得とは別問題だ」という一文の続きが気になります…。

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異論反論は大歓迎です。是非みなさまも是非ご意見を！！