Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

稚内の葛藤


最北端の駅、稚内。悩ましい問題もたくさん抱えている。


わずか2泊3日だけの稚内だったけれど、色んなことを感じること/学ぶことができた三日間だった。

①ロシアの息吹が直に感じられる稚内、しかし葛藤も。

稚内は最もロシアに近い町。日本にいながらロシアの息吹、影響を感じることができる。どこか異国感も漂う町だった。町の中心にある商店街には、いたるところにロシア語が表記されている。もちろん船の定期便もここから出ている。ロシアに行ったことのある住人も多い。日露交流も非常に盛んだ。ロシア交流の窓口ともいえる町で、ロシアに焦がれる僕にとってはとても刺激的な町だった。

だが、それで終わる話ではない。あるお店のご主人が言っていた。「この町には、たくさんのロシア人がやってくる。住んでいる人は少ないが仕事でやってくる人は多い。だから、ロシア人による盗難や犯罪も少なくない。街中で、うかつに自転車を放置しておくと、すぐにロシア人に持っていかれる。盗難は本当に多い。治外法権があるので、一度日本を離れれば、こちらからどろぼうを捕まえることはできない。スーパーマーケットでは洗剤やアクセサリーや化粧品がどんどん盗まれる。また、彼らはお風呂の入り方を分かっていない。公共浴場では、清潔じゃないロシア人がたくさん使用するので、日本人が利用したがらなくなっている」。この人自身、ロシアに何度も行っており、決して反ロシアというわけではない。けれど、どのようにロシア人と付き合っていいかはよく分からない、と話してくれた。

本当にこの町の人は(良くも悪くも)ロシアについてよく知っている。ロシアの話が通じない人はいない、といっていいほど。ロシアをよく知っている稚内の人々だからこそ、単に「好き/嫌い」で語れない色んな複雑な思いをもっているんだ、と思った。よく知っているからこそ、分かり得ないいろんなことを抱えているのだ。

②かつて栄えた港、しかし乱獲によってさびれていく漁港。

バスの添乗員さんが話してくれたこと。「かつては稚内の漁港はほんとうに潤っていた。栄えていた。町の繁華街も活気があった。けれど、今は本当に収穫量が減って、港を離れる人の数も減ることはない」、と。かつて、この港にはたくさんの魚が運ばれてきた。稚内~サハリンのあたりにはたくさんのカニやうにがあった。豊富な資源によって、町は潤っていた。だが、乱獲による乱獲によって、たちまち枯渇していった。いったいどうしたらいいのか、その答えは誰にもわからない。

③ゴマフアザラシの出現による葛藤。漁師を守るか、観光客を優先するか?

稚内から少し離れた抜海という町の漁港で、天然のゴマフアザラシが突然出現するようになった。抜海港は本当に小さな港。観光客が来るようなところではない。だが、ゴマフアザラシの出現によって、観光客がどっと集まるようになった。特にアザラシが集まる今の時期は、あまり観光客が来ない時期で、この時期の観光客は冬の稚内にとっては非常に貴重である。だが、そのゴマフアザラシのおかげで、抜海付近の海に魚が全くいなくなってしまった。漁師にとっては大打撃である。アザラシが抜海の魚を食い尽くしてしまったのだ。漁師にとっては仕事を脅かす脅威となっているアザラシ、しかし観光客の心をグッとつかむアザラシ、どうしていいのか分からないというのが今の稚内の現状のようだ。たしかに近くで天然のアザラシをみたら、震えるほどにかわいらしい。もともと哺乳類のアザラシ。かつては陸にいたアザラシ。そして、海に戻っていったアザラシ。

残すべきか、追い払うべきか。悩ましい問題である。

④稚内の葛藤

稚内にある「副港市場」は、この町が今力を入れている場所だ。大型の集合施設で、観光客の目的地の一つとなっている。この市場も悩んでいる。超大型の「ハコモノ」を作ったはいいが、いかんせんお客さんが来ず、厳しい経営状況が続いているというのだ。もちろんこのハコモノを作ったのは市だ。また、松坂大輔記念館も作られた。が、ここも一日に数人の人が来るのみに留まっている。こういう施設をいくら作っても、観光客が増えることはなく、増えていくのは借金のみという現状がある。

だが、ハコモノを批判することはなかなかできない。この町の情報誌にある稚内の企業、仕事を見ると、ほとんどが建設業関連なのだ。この町の産業を支えているのは漁師だけでない。建設業もこの町で大切な産業なのだ。この町で建設業者として働いている人はとても多いと考えていいだろう。市が計画するハコモノ作りがすべてなくなれば、たちまちこちらの建設業界は強い打撃を受けることになる。もちろん民家や道路など、作るべきものはあるが、それだけではやっていけないのだろう。「ハコモノづくり」は、受注者にとってはとても大切な仕事なのである。

そうはいっても、結局増えていくのは市の借金である。市の借金は市民にのしかかってくる。最後の最後は結局、稚内の市民がその借金を背負うことになる。ハコモノは作っても赤字、作らなくても打撃。そういう葛藤があるのだ。それは、アザラシの件にも関連する。地方、特に小さな町にとって観光客は非常に重要である。だが、その数を増やそうと努力しても、結果としては借金が増えていく。

ハコモノを作るべきか、やめるべきか。非常にはがゆい問題だ。

⑤新旧のジレンマ

稚内駅前に(かつてきっとにぎわいを見せていただろう)商店街がある。洋服屋さん、ブランド物を扱うお店、観光協会、スーパー、お菓子屋さん、パン屋さんなど、いろんなお店があつまる昔ながらの商店街だ。メインストリート、旧市街と言ってもいいかもしれない。だが、そんな商店街に、昼も夜もお客さんが全然いないのだ。昼間はお店も営業しているが、人がいないのだ。観光客はどこにいるんだ?

観光客は、「副港市場」や「北市場」といった大きなおみやげ物屋さんに来るのだ。バスや自家用車でやってくる観光客は駅を使わないし、歩かない。だから、駅前の商店街に人がやって来ないのだ(やって来れないのだ)。

商店街が活気を取り戻せば、旅行者も楽しめる。旧市街というのは、町の中心。町の個性も出せる。けれど、(どこの町でも共通していると思うが)商店街にかつてほどの力がない。稚内の商店街はまだまだ死に絶えていない。だが、このままいけばかなり厳しい状況下に置かれることは十分に予想できる。どうしたらいいのか。これもまた難しい問題である。

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