物語
◆パッチワークファミリー◆
ベケは放課後によくブリッタの家に行っていた。ベケの家にはどうせ誰もいないし。ベケのお母さんは夜にならないと仕事から帰ってこない。ベケは小さな家にお母さんと二人だけで暮らしていた。ベケは自分のお父さんを全然知らない。そして、ベケには親せきもいなかった。おばあちゃんも一度もみたことがない。ベケの家はほんとうにいつも静まりかえっていた。ブリッタの家はとてもにぎやかだった。だから、食卓に一人増えても、全然気にならなかった。食卓には、ブリッタのお母さんのインガ、義理のお父さんのウーベ、そして、ウーベの息子のフェリックスがいた。子どもイスで、インガ、ウーベの二人の子、ベンヤミンがキャッキャと声を上げていた。そう、ブリッタの義理の弟だ。(みんなが知っているように、義理の弟というのはわるい言葉なので、誰も使わない。この話になると、「ベンヤミンは私の弟なの。フンだっ!」と言っていた)
ブリッタの本当のお父さんのトーマスもちょくちょく家にやってきた。トーマスの小さなユリウスを連れて。ブリッタのお父さんは今レアと一緒に暮らしている。そういうわけで、ブリッタの家庭は決して静かになることはなかった。最初の頃、ベケは、誰がそもそも誰なのかを理解することが難しかった。特にウーベの「元妻」のウテとウテの娘のクララとウテの新しい恋人のスヴェンの話になってしまうとちんぷんかんぷんであった。ブリッタのお母さんが最初全員のことを書いて教えなければならなかったほどだ。「そうよ。わたしたちはまさに本当のパッチワークファミリーなのよ」、とブリッタのお母さんはベケに笑いながら説明した。ブリッタのお母さんがベッドにカラフルで素敵なつぎはぎのシーツをかけていたので、ベケはパッチワークが何なのかが分かっていた。そのシーツは、たくさんの明るい模様の生地でできていた。ブリッタの家族はお母さんのシーツと同じくらいカラフルで楽しそうだった。
たくさんお話をして、たくさん笑いながら楽しく過ごした食事の後、「ブリッタはいいなぁ」、とベケはため息をついてつぶやいた。食卓の後片づけやお皿洗いまでもが本当に楽しかった。「うん。今はとってもいいわ。でも前は… 未来が見えないっていうのは残念だわ。だって、未来を見通すことができたら、パパがレアさんに恋をしちゃったことでお母さんが私を連れて外に出た時、私はそんなに苦しむこともなかったと思うの。その時は、もう絶対に笑うことなんてないんだろうな、って思ったわ。レアさんのことは大嫌いだった。でもレアさんはとても優しかったの。ときどき会ったりもした。それに、ユリウスはとてもかわいかったの!」 「ってことは、ブリッタの家も、前は私の家みたいにシーンとしていたってこと?」 「そうよ。最初はホントにひどかった。お母さんはずっと落ち込んでいたし、パパとは全然会えなくなっちゃったし。パパは、自分のしたいことがうちで起こったときにようやく戻ってきたの」 「あー、だから私のこともよく分かってくれたんだね。うちがお母さんと二人きりだってことも!」 ブリッタはうなづいた。「じゃあ、ブリッタのお母さんがウーベと出会った時、嬉しかったんじゃない?」 ブリッタは笑った。「全然よ。私、ウーベのこと大嫌いだった。フェリックスとだって、絶対に一緒に遊びたくなかったわ」 「ブリッタがやきもちを妬いていただけじゃないの」 「そうよ。もしお父さんみたいな人がいなかったら、私のお母さんは私のためだけにいてくれるじゃない」 「じゃあ、ウーベとフェリックスは、いったいどうやってブリッタの気持ちを変えてくれたの?」 ブリッタはじっと考えた。それは、長い休みの時、あの湖でのことだった。
ブリッタはお母さんとオスト湖に出かけた。すばらしい陽気な天気だった。最初の日、ブリッタは夢中になって砂遊びをしたり、プールに入ったりした。その間、お母さんはビーチチェアで本を読んでいた。けれど、二日目にはもう二人とも退屈になってきた。お母さんは二冊目の本を読んでいて、日常のストレスを癒そうとしていた。だから、ブリッタは一人で遊ぶしかなかった。三日目、砂の山を作るのも飽きてしまい、近所のお友だちが恋しくなってきた頃、突然二人の人間がブリッタのところにかけ寄ってきた。ウーベとフェリックスだった。「なんてことなの! 嫌だわ!」 ウーベとお母さんがキスをして、ビーチチェアでいちゃついて、フェリックスがスコップで自分の砂の山を作り始めたとき、ブリッタは全然自分が相手にされていないと感じ、カンカンに怒ってしまった。「私、家に帰る!」、とイライラしながら言い放って、ブリッタは宿屋に戻ってしまった。部屋で、テレビの前にしゃがみこんで、再び湯気を立てて怒った。するとその時、フェリックスがやってきた。ヒトデとザリガニと貝殻を見つけたみたいだ。「ちょっと聞いてよ!」、とフェリックスは言った。「この貝、海の波のような音が聴こえるんだ。君にあげるよ。もっと一緒に探さない? 一人でいてもつまらないでしょ!」。
その後、ブリッタフェリックスは、何時間も貝がらを集めた。ブリッタは大きな琥珀を見つけた。その琥珀は今もまだ小さな棚に置いてある。今思い返して、彼女はその琥珀を手に取ってみると、そうだ、あの時からフェリックスが優しいと思うようになったのだ。また、それからちっともつまらないと思わなくなった。
ウーベとフェリックスは夕方に浜辺でキャンプファイアーをやっていた。ブリッタは漂着物を集めた。木箱は机にして、板はベンチ代わり。それからみんなで一緒にソーセージを焼いた。そのとき、太陽が沈んでいくのを見た。海は赤く黄金色に輝いていた。
「この休みで、私はなんとなくウーベとフェリックスに慣れてきたの。でも、すぐに二人と同じ家で一緒に暮らすのは心配だなぁ。やっぱり嫌だ。でも、フェリックスは、『僕はもう独りじゃないから嬉しいなぁ』、と言っている。「私もよ」、と私も答える。ウーベと私のお母さんも同時に「わたしたちもだよ」、と言う。これにはおかしかったなぁ。そして、その後、ウーベとお母さんは、もうすぐ新しい弟が生まれるということを話してくれた。それがベンヤミン。ベンヤミンこそが私たちに新しい家族のかたちを作ってくれたの。」
また夏休みがやってきた。ウーベは声高々に言った。「今回はバス一台まるごと借りちゃうぞ! 大勢の人間にはぴったりだ。そう、パッチワークバスだ!」、と。
大勢の人間とは、ブリッタと新しい家族のことだ。お母さんのインガ、お父さんのウーベ。フェリックスとベンヤミン。また、ブリッタのお父さんのトーマスとレア。そして小さなユリウスとベケとベケのお母さん。ひょっとしたらウーベの前のお嫁さんのウテが恋人のスベンと娘のクララを連れてやってくるかもしれない。きっとたいくつなんかしないで、にぎやかなんだろうな。
おっと。あやうく一人忘れるところだった。彼がいなかったら、きっとベケのお母さんは一緒に行くとは言わないだろう。それくらいベケのお母さんが愛している人だ。ベケが最も愛している人は誰でしょう? ブリッタのおじさんでもあるオラフだ。ベケはオラフおじさんにたくさんの希望を抱いている。というのも、ベケはまた自分の家が大勢になることを強く望んでいるからだ。でも、どうなるかなんて誰もわからないんだけれど。
どっちにしても、ベケは今回の旅行のように夏休みに喜んでどこかにいくなんてなかった。どうなるんだろう?
<おしまい>
参考:
パッチワークファミリーは、現代の社会学で生まれた概念であり、伝統的な夫婦、とりわけ生涯の夫婦(“死が二人を引き裂くまで”)と家族の終焉にかかわる概念である。50パーセント以上になった離婚率を通じて、新しい家族形態がたびたび見られるようになった。その家族では、そこに寄せ集められた(離婚した母親と父親の)子どもたちがつぎはぎ細工やカラフルなつぎはぎカーペット(英語でいうPatchworkを)織り成している。
引用元(ドイツ語)はこちら