2019年大田区議会議員選挙:個々の議員を選択する以前に思うこと
はじめに
今回の区議会議員選挙は、とりわけ激戦となり、現職の落選もかなり予想される今回の選挙にあたっては、「応援したい現職、応援したい新人候補、退場してもらいたい現職、有害な新人候補」も多数見受けられます。ただ、そのことには触れません。
しげのは前回の2015年に区議会議員選挙に立候補しましたが、「自分が議員になる必要はない」「基本、現状の区議で十分」という考えをもともと持っていました。投票していただいた方には申し訳ないのですが、選挙の意図は別にありました。それは近日中に説明したいと思います。その代わりに、個々の議員が選ばれることでは解消できない、大田区議会をめぐる環境の問題点について、議論の前提として語りたいと考えました。
(1)能力ある議員が十分な力を出せない現状
「自分が議員になる必要はない」「基本、現状の区議で十分」と考えたのは、現状でも十分能力のある議員が存在する、ということです。ただ、十分な力を出せない環境があります。
①首長への権限集中:区長の決定力が圧倒的、議会は承認のみ
地方自治体は一概にそのようになっているようですが、政策は「区長と区役所で9割作成、議会は賛否のみ」が実態です。5年計画や10年計画で策定されるプラン自体、区議会で議論する時間などろくに設けられていません。承認するだけです。
(ちなみに、議員の質問内容を見ると、区の政策体系を読み込み理解している議員は多くはないですが、います。議員の能力差は政党に関係なくばらつきが高いです。ただ、「能力として要求されていない」という現状はあるかと。)
②支持基盤が政党別:政党を説得しないと提案はできない
区議会議員の高い議員報酬の大半は、政党基盤の維持に回されていると思われます。そして、政党が支援者名簿をもち、その配分を決定しています。
推薦した各議員の当落を、事実上政党が決めているところがあります。その意味で、政党は政策と言うよりは、利益共同体です。
もちろん、何期か経つと、有権者は個々の議員の能力差を知るようになるので、政党内で少しずつ得票数に差はついてきます。そこから、「議員の得票数は政党内での議員の主導権につながる」と言われますが、本当のところはわかりません。
特に地方議会では、所属政党が同意しない政策提案は事実上できません。
一方、大田区の与党はそもそも条例を作ったことがないと聞いています。(条例はすべて行政が作り区長提案)
③「地域の有力者が票をとりまとめている」
50人の区議会議員は、特に選挙区が区切られているわけではないので、70人以上立候補するどの候補者を選んでもよいのですが、実際にそう思っている人は少ないようです。選挙運動の中で、あたかも地域割で議員が選出されることになっているかのように演出がされます。
実際、地域の有力者が票をとりまとめている実態はあります。
議員も候補者も「地元のお役に立ちます。お役に立たせてください」と言います。
これには非常に違和感を感じますが、そのような演出は実際に機能します。
結果、地域の御用聞きの機能が重視されるのです。(ただでさえ、いまの出張所は自治会の便利屋さんみたいになっているのに、です。自治会と出張所をつなぐ機能が区議会議員?)
区政報告会でも、区のプランのような大きな政策への議論は、地縁組織の構成員には関心が薄く、議会で質問等をしても、地域では議員の成果にカウントされにくいようです。「70万都市の区議会議員50人がそれでよいのか」、とは誰も言えなくなっています。
④「能力ある議員の選出・交代」に選挙が機能しにくい
現在の公職選挙法は、現職に圧倒的に有利で、無党派新人に圧倒的に不利な制度環境といえます。これは自分が選挙に出て初めて理解できたことです。
ア)候補者の情報発信は公示から投票前日までの1週間しか許されない
そもそもそれ以前には、厳密には区議会議員選挙に立候補することを表明することも許されていません。微妙な表現で事実上知らせることはできますが。それでも本当に具体的な政策等を伝えるとすれば、投票日前1週間の限られた手段しかありません。通常の方法では内容を伝えるのは困難です。
イ)現職議員は「区政報告」が日常的にできる
現職議員は、それまでの議員活動を伝えるだけで、十分な選挙活動になります。定期的な街頭演説や区政レポート発行で、情報量で圧倒的な優位に立てます。ただ、地盤のある議員はそれすらあまりしないようですが。
ウ)政党には事前運動が保障される
「事前運動の禁止」が公職選挙法の大原則ですが、政党活動には事前運動も限定付きで認められます。なのでいわゆる2連ポスターなるものが貼れるわけです。また、「予定候補」という紹介も政党には許されています。
エ)情報を出す時間も機会も足りない候補者のやることは?
結果として「無難で抽象的な公約」「個人のプロフィール」「名前の連呼」で勝負するしかないのです。
以上の理由から、議員の交代に選挙が機能しにくいのです。選挙期間中に選挙運動の中から候補者の内容をつかむのはきわめて困難です。「この人はいくらなんでも論外」はわかっても、よさげな人を選ぶのには情報が足りな過ぎる。
(2)区議のすべきこと(本当の権能)3つを意識しては?
区議会議員に本当に問われる力と仕事は、以下の3つだと考えています。
①政策チェック:区の計画を読み込む力:
区が9割を決めているのだから、まずそれを読み込み評価できることは重要。
でも、それができる人、やろうとしている人は現状、多くはありません。
②ケースワーク、ソーシャルワークの力:
現場を知り当事者を知ることは全ての基本です。議員が「やっています」と多くアピールするのはここです。他に仕事を持っている人にはなかなかできないことで、議員が報酬をもらうのはその活動の人件費保障かもしれません。
③議連形成力:必要な政策実現を超党派で議論できる力
区議会議員が区役所に直接質問して説明を求めたりするだけで、何か変わったりすることもあります。区議ひとりでできることとして、それは大きなところです。
ただ、実際に新たな政策を提案する時は、議会で議決されなければならないので、他の議員を説得しなければなりません。
必要な政策提案に対して、まっとうな理解・評価・判断能力のある人、ない人は政党のなかでもばらばらですし、ある程度政党を超えた共通理解を構築しないと提出に至らないところでもあります。
ということは、少し大きな政策提案をめざすのなら、「自分は正しい」ではなく、政党を横断した共通理解の場を作る能力もまた大きなものだろうと考えます。
この3つができているかどうかを現職の評価にすべきです。
この3つができそうかどうかを新人の評価にすべきです。
もちろん、ひとつかふたつだけできて、3つ全部できなくてもいいでしょう。
だって、50人もいるんだもの。
(3)複数選択選挙の実現で、状況は変わるはず
50人定員の選挙で、1人が1人しか選べないのは、もはや制度として適正に機能しないだろうと、僕は以前から考えています。有能な議員は一人ではないのに、あたかも地域割されているように択一的な囲い込みがおこなわれる実情で、より貧しい選択が強いられていると思います。
投票で、たとえば5人まで選択可能にして、複数選択の総合得点で決めていけば、「地域割演出の囲い込み」が機能しなくなり、より政策本位の選択が可能になり、「地域の御用聞き」が優先されなくなると、僕は思います。
いつか、条例とか作って、どこかで実験採用してもらいたいな、と思います。