宝島のチュー太郎

酒屋なのだが、迷バーテンダーでもある、
燗酒大好きオヤジの妄想的随想録

上京編 その2

2022年05月09日 20時28分22秒 | 昔のこと





 朝日新聞社から事前に告知のあった配属先販売店は練馬区中村橋店。
『どないなとこやろ?』本屋で東京の地図を求めて来て、調べてみた。
今なら、ネットで簡単に出来ることも、40数年前は全てがアナログだった。

 真っ先に目に飛び込んで来たのは、『ひかり団地』?だったように思う。
何故なら、そこが一番面積が広かったからだ。
しかし、近いは近いが、実際には一切関係することはなかった。
中村橋は、そこからもう少し南、去年だったか?閉園した『豊島園』の近くだ。

 東京駅からの電車の乗り継ぎを調べてみると、山手線で池袋駅まで行って、そこから私鉄の西武池袋線に乗り換えて五つ目の駅が中村橋だった。
そこへ降り立ったのが16時頃だったろうか?
はて、どっちへ行けばいいんだ?
取り合えず大きな道路へ出てみた。
それは、後に、通称十三間道路(じゅうさんげんどうろ)と呼ばれていることを知る。
要するに目白通り。

 見れば、その通りに交番がある。
そこで、いわゆる立ち番のおまわりさんに『朝日新聞中村橋販売店』への行き方を尋ねる。
すると、それは、その道路を挟んだ斜向かいにあった。
「ありがとうございました」
「はい、ところで君は、今後そこで働くのかい?」
「はい!」
「そうか、大変だろうが、頑張りなさい」
「はい!」
そんな会話が、東京生活での人との交わりの最初だった。



 古くて細いマッチ箱のようなビルがそれだった。
入ってすぐに作業場がある。
そこに人が居たかどうかは記憶にない。
でも、まずは所長に挨拶をして、案内された私用の部屋は3階にあった。
階段を上がってすぐ右手の三畳間。
その2/3を二段ベッドが占める。
まあ、圧倒される狭さに驚く。

「夕食の時にみんなに紹介するから、それまでゆっくりしてろ」
「ハイ、その前にどこか布団屋を教えてください」
「そういや、おまえの荷物が届いてないな」
「ハイ、だから布団を買うんです」
「おお、そうか」


 私の両親は放任主義だった。
聞けば同級生はみな新居浜から生活道具一式を送ったらしい。
その点、うちの親は「都会の方が何でもある。金さえ持っていきゃ間に合う」という合理的な考え方なのだ。
私も同感。
だから、私の荷物は、当面の衣類が入った鞄一つだった。

 所長に教えてもらった布団屋は、駅の反対方面の商店街の中にあった。
そこで適当なものを求めて自分で担いで帰る。
これが、東京で暮らす5年間の褥(しとね)となる。


 こうして、東京生活の一日目が過ぎていった・・・



続く








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