百田尚樹の「日本国紀」批判に端を発し、幻冬舎社長、見城徹の失言を誘発したtwitterでの炎上騒ぎ。
右だの左だのといったネット上での、そうしたいざこざには一切関知する気はないが、そこでその存在を知った津原泰水に興味が湧いて借りてみたのがこの本。
実に面白かった。
まず、テンポのいい会話、ウィットの効いたやりとりが小気味いい。
センスを感じる。
「食」に興味のある私のような人間には、その部分でも愉しめる。
ただ、伊勢うどんのキミとの出会いからその発展については「無理目」な感じがする。
なので、やや違和感が残る。
その分、「スパイラル」の妹との丁々発止具合が自然でとても良い。
しかし、物語の終わり方にやはり強引さを感じる。
何か、無理やり「the end」に持ち込んだ臭いがする。
連載の回数の関係か?
奥付(おくづけ)によれば、文芸カドカワに連載されたものだったようだ。
それがとても勿体ないように思う。
そこさえじっくりと向き合っていれば、傑作になったんじゃなかろうか?
エスカルゴ兄弟 | |
津原 泰水 | |
KADOKAWA/角川書店 |
文庫化に当たって、タイトルを替えたようだ。
なんで「歌うエスカルゴ」?
そのカバーのイラストにしても、少年少女向けライトノベルのようじゃないか?
歌うエスカルゴ (ハルキ文庫) | |
津原 泰水 | |
角川春樹事務所 |
それにしても、またなんでエスカルゴ?
とても興味深いが、一般的ではない食材。
だからいいのか?
ついでだから、エスカルゴにまつわる私の経験を残しておく。
最初にそいつを口にしたのは23歳辺りだったか?
松山のレストランでそのメニューを目にし、「いっぺん食うてみたろ」と。
ただ、その味の記憶が無い。
次に出会ったのは、30を少し過ぎた頃、リーガロイヤルホテル新居浜のバーラウンジだった。
当時活動してたバーテンダー協会の面々と会食をした時の事。
会長がオーダーした中の一品がエスカルゴだった。
こいつがハマった。
その適度に歯ごたえのある食感と、エスカルゴバターの味が絶品だった。
たこ焼き器のちっちゃい版のような容器に恭しく並べられたそれを、はさみとトングが合体したような器具で挟んで、フォークで身を取り出すんだけど、そのトングを握る手につい力が入ると、エスカルゴは殻ごと落ちてしまう。
理屈では分かっているのに、何度か同じ失敗を繰り返したりする。
で、そのたこ焼き器の穴んぽに残ったエスカルゴバターが堪らなく好みなんである。
どうやら、ニンニクとパセリをバターに混ぜ込んで作ってあるらしいのだが、こいつをバゲットで掬って食うと、これがまたなんともはや。
今思うに、パセリをバジルに変えたジェノベーゼ・ソースだとどうだろう?
それはそれで美味いんじゃないかな?
それからそこへ行く度注文してたのだが、或る日を境にメニューから消えてしまった。
どうやら、あまり人気のないメニューだったようだ。
しかし、あれは多分、「アフリカ・マイマイ」だったんだろうな。
一度、本物のエスカルゴを食ってみたい。
すなわち、それこそが、ヘリックス・ポマティア。
そんな、マニアックな小説、それが「エスカルゴ兄弟」なのです・・・
内容紹介
〈問題の多い料理店、本日開店いたします!〉
唯我独尊の変人カメラマンと、巻き込まれ体質の元編集者、男二人の無謀な挑戦の行方は!?
笑いと感動で心を満たす、最高の料理&成長小説!!
出版社勤務の柳楽尚登(27)は、社命で足を運んだ吉祥寺の家族経営の立ち飲み屋が、自分の新しい職場だと知り愕然とする。料理上手で調理師免許も持っているし、という理由で料理人として斡旋されたのだ。しかも長男で“ぐるぐる"モチーフを偏愛する写真家・雨野秋彦(28)は、店の無謀なリニューアルを推し進め、前代未聞のエスカルゴ料理店〈スパイラル〉を立ち上げようとしていた。
彼の妹・梓の「上手く行くわけないじゃん」という嘲笑、看板娘・剛さんの「来ないで」という請願、そして三重の養殖場で味わう“本物のエスカルゴ"……。嵐のような出来事の連続に、律儀な尚登の思考はぐるぐるの螺旋形を描く。
心の支えは伊勢で出逢った、フランス女優ソフィー・マルソー似のうどん屋の娘・桜だが、尚登の実家は“宿敵"、讃岐のうどん屋で――。
「いざという時は必ず訪れる。その時には踊れ」
真剣すぎて滑稽で、心配でつい目が離せない。凸凹義兄弟、ちっぽけで壮大な“食"の軌跡。
一気読み間違いなしの、痛快エンタメ作!!
★太鼓判!
津原泰水の料理を描く筆致は3D。味を伝える技巧は活字世界の美味しんぼなのである。
――豊崎由美氏(書評家)/「本の旅人」2016年8月号より
帯イラスト/松苗あけみ
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