ケイに対する思いが深まれば深まるほど、言いようのない罪悪感が僕の心を支配し始めた。
勿論、それはメグに対しても同じことだった。
ただ、決定的に違うのは、今、僕の隣にいるのはケイで、その上心底好きになってしまっていた。
本当に身勝手な男だと思う。
でも、それが本音なんだから、どうしようもない。
ならば、思いに忠実に動く外はない。
「正直に打ち明けよう」
そう決心した。
その頃の僕たちは、お互いにバイトを辞めたばかりで(奇しくも同じところを同じ日に)、夜ともなれば、どちらかの部屋に泊まって過ごしていた。
出会ってから約半月、季節はいよいよ夏本番を迎えるところに差し掛かっていた。
お互いに、目の前の日々を過ごすことに精一杯で、その先の約束など何も交わしてはいない。
ただ、暗黙の了解のようなところはあった。
だからこそ、それを殊更に言葉にするのは、はばかるところがあったんだ。
ならば、それこそキチンとするのが筋だ。
それに胡座をかくのは、卑怯な男のすることだ。
窓から涼しい風が入る、7月初旬のある夕暮れだった。
一緒に大和湯に行って、出る時刻を決めて合流し、その足で近くの酒屋の自販機で缶ビールを2本買う。
お互いに1本ずつ持ち、ケイがそれを頭に乗せて歩き出す。
僕のBVDの丸首Tシャツに、ジーンズ姿のケイ。
要は、男物の肌着にジーンズというごくラフな格好が、ケイにはとてもよく似合う。
勿論、僕も同じ出で立ち。
その仕草が可愛くて、僕もそれを真似る。
ケイと居ると、こんなごく小さなことが楽しい。
そして、いつも僕を新鮮な気持ちにさせてくれる。
決して裕福とは言えない僕たちのその頃の食卓には、よく素麺が乗った。
この日も、素麺とビールという、やや素っ気ないメニュー。
但し、スクランブルエッグ、そしてハムとキューリの千切りという薬味のお陰で、存外ビールは美味いんだ。
黒柳徹子と久米宏の「ザ・ベストテン」を眺めながら、僕はそっと切り出した。
「あのさ」
「ん、なに?」
「ん~と」
「なに、どうしたの?」
「実は、言っておかなきゃならないことがあるんだ」
「・・・」
「ずっと言おうと思いながら言えなかったんだけど」
「・・・」
「田舎に、つきあっている彼女がいる」
「え?」
「だから、彼女がいる。でも、俺はケイが好きだ」
「・・・」
「自分でもメチャクチャなのは判ってる。でも、この気持ちはどうしようもないし・・・ だからこそ、正直に話すべきだと思ったんだ」
「・・・」
「彼女にはキチンと説明して謝る。そして、ケイとちゃんと向き合いたいんだ」
「ちょっと待って」
「・・・」
「突然そんなこと言われても」
「・・・」
「ハイそうですかって、言えると思う?」
「・・・」
「そんな簡単なもの?」
「いや、そうじゃない。尊重したいからこそ正直に打ち明けたんだ」
「今頃になって?」
「・・・」
「兎に角、今夜は帰る」
「送るよ」
「いい!一人で帰る」
そう言い残すと、ケイは僕の部屋から出ていった。
そこには、まだケイの温もりがあるTシャツだけが残った・・・
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