宝島のチュー太郎

酒屋なのだが、迷バーテンダーでもある、
燗酒大好きオヤジの妄想的随想録

12.23.君は・・・ 11

2008-10-20 21:51:50 | つくりバナシ
 

 
 ケイに対する思いが深まれば深まるほど、言いようのない罪悪感が僕の心を支配し始めた。

勿論、それはメグに対しても同じことだった。

ただ、決定的に違うのは、今、僕の隣にいるのはケイで、その上心底好きになってしまっていた。

本当に身勝手な男だと思う。
でも、それが本音なんだから、どうしようもない。


 ならば、思いに忠実に動く外はない。
「正直に打ち明けよう」
そう決心した。




 その頃の僕たちは、お互いにバイトを辞めたばかりで(奇しくも同じところを同じ日に)、夜ともなれば、どちらかの部屋に泊まって過ごしていた。

出会ってから約半月、季節はいよいよ夏本番を迎えるところに差し掛かっていた。







 お互いに、目の前の日々を過ごすことに精一杯で、その先の約束など何も交わしてはいない。

ただ、暗黙の了解のようなところはあった。
だからこそ、それを殊更に言葉にするのは、はばかるところがあったんだ。

ならば、それこそキチンとするのが筋だ。
それに胡座をかくのは、卑怯な男のすることだ。



 窓から涼しい風が入る、7月初旬のある夕暮れだった。
一緒に大和湯に行って、出る時刻を決めて合流し、その足で近くの酒屋の自販機で缶ビールを2本買う。

お互いに1本ずつ持ち、ケイがそれを頭に乗せて歩き出す。
僕のBVDの丸首Tシャツに、ジーンズ姿のケイ。
要は、男物の肌着にジーンズというごくラフな格好が、ケイにはとてもよく似合う。
勿論、僕も同じ出で立ち。
その仕草が可愛くて、僕もそれを真似る。

ケイと居ると、こんなごく小さなことが楽しい。
そして、いつも僕を新鮮な気持ちにさせてくれる。

決して裕福とは言えない僕たちのその頃の食卓には、よく素麺が乗った。
この日も、素麺とビールという、やや素っ気ないメニュー。
但し、スクランブルエッグ、そしてハムとキューリの千切りという薬味のお陰で、存外ビールは美味いんだ。


 黒柳徹子と久米宏の「ザ・ベストテン」を眺めながら、僕はそっと切り出した。



「あのさ」

「ん、なに?」

「ん~と」

「なに、どうしたの?」

「実は、言っておかなきゃならないことがあるんだ」

「・・・」


「ずっと言おうと思いながら言えなかったんだけど」

「・・・」

「田舎に、つきあっている彼女がいる」

「え?」



「だから、彼女がいる。でも、俺はケイが好きだ」

「・・・」

「自分でもメチャクチャなのは判ってる。でも、この気持ちはどうしようもないし・・・ だからこそ、正直に話すべきだと思ったんだ」


「・・・」

「彼女にはキチンと説明して謝る。そして、ケイとちゃんと向き合いたいんだ」


「ちょっと待って」

「・・・」

「突然そんなこと言われても」

「・・・」

「ハイそうですかって、言えると思う?」

「・・・」

「そんな簡単なもの?」

「いや、そうじゃない。尊重したいからこそ正直に打ち明けたんだ」

「今頃になって?」

「・・・」

「兎に角、今夜は帰る」

「送るよ」

「いい!一人で帰る」




そう言い残すと、ケイは僕の部屋から出ていった。
そこには、まだケイの温もりがあるTシャツだけが残った・・・




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