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迷宮・緑柱玉の世界の独り言

迷宮・緑柱玉の世界 1章5節 「雛美礼の心」

2019-09-30 | 迷宮・緑柱玉の世界
雛美礼の気持ちが落ち着いいた所で、ゆっくりと時間をかけて部屋の掃除をすることにした。
雛美礼が、食事を作ってくれるといった。
男の部屋だフライパンぐらいしかない。
買ってあった材料で雛美礼が、スパゲッティーを作るのを、眺めていた。
手馴れた手つきで料理を作る。
女性だから料理ぐらいでからだろう?と、考えるのは、偏見かもしれないが料理する女性の姿はやはり良い。
一つ一つの所作に見入ってしまう。
こんな風景を僕はずっと欲しいと思っていたのだ。

一緒に食事をし一緒に食器の片付けをした。
私がこの様な事を一緒にするとは、自分自身が一番驚いた。
今までの私なら、女性がする事に手出しなどしなかったはずだ。
共にやれば、互いが助かるとは思っても、性格的に合わない部分が見え、後からやり直してしまうだろうということが分かっていれば、必然的に手をださないいた。
だが、雛美礼とは、自然に出来た。
何故なのか?食器を洗い、乾燥機に入れるその一連の行為が楽しかった。

「先生は、何か飲みますか?」
「水割り作れるかい?」
「ダブルでいいですか?」
「ああ」

こんな、何気ない会話が嬉しい。
ソファー移動して、二人で並んで座った。
雛美礼は、紅茶を飲み、私は、水割り。

雛美礼のバイトの話をしました。

「個人的なアルバイトを受けたこと、後悔しているかい?」

私はじっと見つめ、話しかけた。

「どうしても、君に頼みたかった。君に見せて、わかって欲しかった。」

雛美礼も、色々正直に話してくれたのだ、私も隠さず話そうと思った。

「後悔はしていません。アルバイト探していたのですから、うれしい話です。
 でも・・わからないことがいっぱいです。」
「何がわからない?」
「なぜ、あんなもの……。見せたいのですか?何を見せたかったのですか?」
「私を知って欲しいからだよ。」
「そう理解したらいいのか、よく分かりません。
 最初に言った、見せたくないものは、見せたくない物ではないですよね。
 あれらは、見せたいものですよね。見せたいものが沢山あるということですよね。」
「そうだ。すべてを見せたかった。見て、どう思った?」
「どうだなんて、分かりません。」
「帰ろうと思えば、帰れたはずだよ。馬鹿げているといってもいい。
 私を変態と罵っても良かったんだよ。しなかったね。
 帰らなかったのだから、受けてくれたんだよね?」

雛美礼は、このことに関して返事をしなかった。

「私は、君が初めて学校を見学に来たとき、惹かれたよ。
 自分でもびっくりするぐらい、手が汗ばみ声が上ずるのではないかと心配するぐらい
 ドキドキしたよ。高校生の君にね。おかしいと思うだろ?」

雛美礼は、うなずくこともなく、ただ聞いていた。

「でも本当さ、君から借りたハンカチは、私がずっと持っている。返したくなかった。
 君は、返さなくていいといったよね。
 だから、あのハンカチは、私のものになった。
 いつも、私のポケットに入っていたよ。君と君の物を一つ手に入れたんだからね。
 忘れようとも、思ったけれど、無理だったよ。 
 誰にも迷惑をかけていない思いだからね。
 忘れる必要はないと分かったとき、私は勝手に、私の中で、君への恋を膨らませた。
 片思いでいいと決めたんだ。
 それがだ、
 授業中、生徒の中で君を見つけたとき、稲妻に打たれたようだったよ。
 本当だよ。
 私はこうして君と話す時間がずっと欲しかった。
 何とか、接点を作りたいと考えたんだよ。
 だからバイトの話を持ち出した。わかるよね!」

雛美礼は、何も言わなかった。だが、僅かに身を引いた。
その時、反射的に雛美礼の手を握っていた。
手にしているカップの中の紅茶が波打っていた。
カップを雛美礼の手から外しテーブルの上に置き、
雛美礼の両手を上から、私の大きな手で包み込むように覆った。

「理事長とは、仲良かったみたいじゃないか。
 理事長も去年から君が好きみたいだよ。
 口説かれたかい?
 入学だって出来ただろ?」

とても嫌な話し方だ。
理事長とは何も無いってわかっていながら、意地悪く言ってしまう。
私は、雛美礼が、アルバイトを探していることを理事長から聞いた。
雛美礼と彼の関係がどこまでなのか疑っていた時期もあったことは確かだった。
雛美礼が手を引き抜こうとした。僕は、彼女の手を強く握って、離さなかった。
雛美礼を見つめるが、
雛美礼は、視線を合わそうとはせず、ただ黙って、下を向いたままだった。

リビングの時計が、10時を知らせた。

「遅くなったね。そろそろ帰らないといけないね。送るよ。」

先ほどまでの意地悪な口調ではなく、優しい口調で話し始めてくれたことにほっとした。

「ごめんなさい、帰ります。」

少しでも早く、ここから逃げ出したいと思ってしまいました。
これ以上、何かを聞かれたら、私は、何も言えなくなってしまうでしょう。
問いかけられ、答えられない、これ以上ない失礼だと思います。
私はどんな言葉を返したらいいのかさえ、全くわかりませんでした。
そして、答えられない自分が、とても惨めでした。
これまで、
私は、私の思いとは別のところで、誤解されていることも多くありました。
思いがずれているのか言葉が足りないのかわからないけれど
理解してもらうことの大変さを幾度となく経験してきました。
そんな時、返事できない事を弁解したほうが良いのかもしれないけれど、私には出来ない。
何もないのです。
弁解したくないのです。
返事できないだけなんです。
弁解するって、私に非があるのならともかく・・。
何もなく素直に何でも答えられたら良いなぁと思うことあります。
意地を張るから、最後には、何もかもが苦しくなってしまう。
雁字搦めになる前に逃げ出してしまいたかったんです。

「ごめんなさい。」

意地っ張りで卑怯者な私なんです。
意地っ張りだから・・・・・。
あんなもの沢山見せられてもバイトは、バイトとして頑張らなければいけないとも思っています。納得できない心が、葛藤しあい、迷います。
これで良いのか?
卑怯で弱虫な私は、やっぱり逃げ出したいのです。

「今日は、ありがとう。」

帰って良いのだと分かると、なんと心が楽になるのでしょう。
「これからもよろしくお願いします。」
心は正直です。
ここで断ってしまえば、先生とのつながりがなくなります。
今は、すべてを理解できませんが、先生が好き。
つながりが欲しいと心から思っていました。

「よろしく頼むよ。」

そう言って、先生は、やさしく肩を抱き寄せてくれのです。
先生にとっては、当然のしぐさかもしれないけれど、
私にとっては、心臓が飛び出るぐらいドキドキしていました。
恋人同士と勘違いするようなやさしさを感じました。
錯覚だって、わかっていても、としても、嬉しい瞬間です。
先ほどまでの嫌な気持ちを忘れていました。

「先生が好きです。」

そう言ったなら、恋人になれると思いました。
でも、今は言えないと思いました。
先生が好きでいてくれる心は理解できます。
でも・・・・
先生の理解できない部分も全て受け入れてしまいそうな気がしたのです。
少しだけ、少しだけ私の心に、カギをかけかけることにしました。

帰り支度をし、上着のポケットに手を入れると、
ポケットには、自宅の鍵と、先生の部屋の鍵が入っていました。
私はその鍵を返さず、そのままポケットの中で、握り締めていました。





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