なにげな言葉

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迷宮・緑柱玉の世界の独り言

緑柱玉の大人の童話 NO.07 青ひげ

2021-01-08 | 大人の童話
ある村の村はずれに、古い貴族の館が、建っていた。
その館には、主の男と3人の娘が住んでいた。
しかし男は貴族とは名ばかり。
貧乏で、娘を嫁に出すことができない。
持参金の無い貴族の娘など誰も嫁としてもらってくれる人などいない。
かといって、修道院に入ることなど、父親としては認めたくない。
男は知っていた。
外界から隔離された神聖な修道院というイメージ。
実情は、淫行がはびこる、無秩序な堕落した世界と言われていた。
噂だと言われているが、周知の事実。
親として、そのような乱れたところに娘を入れたくはない。

男は高貴な貴族か伯爵の舞踏会にでてみたいと思っていた。
娘3人を着飾らせ、舞踏会に連れて行き花婿候補を、見つけたいと思っていた。
いくらまっても、舞踏会の招待状などくるわけもない。
何としても招待状を手に入れたいと思っていた。

どうしてもチャンスが欲しかった。
特に三女の美しさには自信があった。
金持ち貴族は、貧乏貴族の娘の顔さえ見ようとしない。
男だったらだれでも、振り向く程の美貌の娘なのに・・・。
一目、貴族の目に留まれば、運命が変わるであろうに・・・。
これが、貧乏という悲劇だと諦めるしかなかった。

娘たちだって、こんな生活なら、シンデレラのほうがましだと思う。
シンデレラなら、舞踏会に行って王子様にみそめられるのに・・。
舞踏会への招待状など一生来ない事は、判っていた。

ところが、

ある日の午後
豪華な馬車が、娘たちの家にやってきた。
馬車からは、仕立ての良い黒の燕尾服に身を包んだ一人の男が、降りてきた。
その男は、背が高く高貴な男に見えた。
何より眼を引いたのが、男の頬に生えているりっぱな髭が、青かった事だ。
青い髭が自慢なのだろう
手間をかけ手入れをしているのが分かる程整っていた。
青い髭は、神秘的であり、男の振る舞いか髭のせいか凛としていた。
その高貴さに、惹かれる事を娘たちも感じていた。

どこで聞いてきたのかわからないが、3人の娘の一人を嫁に欲しいと言ってきた。
突然の申し出に、父親は喜んだが、貧乏貴族の娘をなぜという疑問もあった。
娘たちは、誰が、青髭のところに行くのかと、ひそひそ話し始めた。
やっと、娘を嫁に行かせることができる喜びと
急に現実味が出てきた結婚話に
大切な娘を嫁に出すことが、寂しくもあり心配になった。
返事は後日伝えると言い、男を帰した。

娘たちの父親は、青髭について調べることにした。
青髭が、村はずれの丘の上の古城に住んでいる貴族だと言う事は知っていた。
若い頃より父親と共に戦いに出かけていたことを知った。
父親は、幾度目かの戦で死んだ。
残された息子は、古城を引きついた。
その頃より、髭を蓄えるようになった。
城で、数人の召使を使っているらしい。
青ひげも、以前には何度か結婚したことがあるらしい。
が、長続きはしていないようだった。

青髭は、戦向きだった。
背が高く胸板の厚い立派な体をしていた。
戦と成れはいち早く戦場向かうような男だった。
王に忠誠を誓い部下を大事にした。
しかし、戦での強さ故、人々は、全てに対し強者と思う。
青髭の傲慢さゆえ妻たちは、逃げ出したというものもいる。
監禁されているというものもいた。

娘達はそれぞれに自分の気持ちを父親に伝えた。
長女と次女は断った。
不気味な噂を怖がったのだ。
三女だけが、青髭のプロポーズに応えた。
喜んだ青髭は、城に娘と姉妹と父親を招待し、盛大にもてなした。

城内は噂とはまったく別世界であった。
綺麗に整えられ、今まで見たことの無い異国の調度品に名画。
親子には見たことのない世界だった。
贅を尽くした城内を見た親子は、変わり者で偏屈と言う噂が嘘だと思った。
青髭は、城に居ないから人が集まらないのだと知った。
噂は噂であり安堵した。

三女は、もう少しで自分がシンデレラになれると喜んだ。
貴族の家と言っても、召使いなど居なかった。
全て自分達でしていた。
結婚したら、私は、城のお妃になれる。
これこそ夢にみていた豪華な生活。
夢を見ないわけがない。

ご機嫌になった青ひげは、三女を化粧室に連れて行った。
今まで見たことの無い化粧品に宝石。
金糸、銀糸で縫いこまれた贅沢なドレスの数々を見せた。
「ここにあるものは全て貴方のために揃えた物です。自由に使ってください。」
三女にとって、夢のような言葉だった。
それは今まで目にしたことが無ければ、想像も出来なかった豪華さだった。

三女は、青ひげのプロポーズを正式に受け入れた。
2人の姉、父親へも多くの贈り物をした。
皆が喜ぶ結婚となった。

新しい生活が始まることとなった。
青髭は忙しく、城を空けることが多かった。
お妃の希望の舞踏会が開かれることは一度も無かったが、
毎日の様に訪れるドレスの仕立て屋。
きらびやかな宝石を手にした宝石商。
初めは楽しく見ていたが、
見せる相手のいない品物を選ぶことが次第に苦痛になってきた。

お妃は青髭にもっとやさしくして欲しかった。
シンデレラを夢見たお妃は、主人のいない城で独りぼっち。
夫婦になるという夢もあった。
初めての夜、青ひげに抱かれたお妃は処女であった。
何も知らないお妃にとって、青髭が全てだった。
肉を引き裂く激痛と、青髭の押さえ込む力に恐怖も感じたが
青髭の流々とした肉体や熱い肉体に包まれると、幸せを感じた。
守られるということは、こういう事なのかと思った。
父親で愛とは違う男の愛。初めて知る喜びだった。

しかし、愛される喜びと裏腹に、抱かれる度に苦痛を感じていた。
青髭は、お妃の苦痛に歪む顔を見て優しい言葉をかけた。
流れる涙に口づけをした。
青髭に抱かれるたびに、激しく責めらる。
が、日頃聞くことのないやさしい言葉に心が溶けそうになった。
時には、抑え込まれ、逃げ出したいほどもがくこともあった。
力ではかなわない。許しを請い逃げる。
捕まり泣き叫ぶ。
そして強く抱きしめ、耳元で囁くように可愛いという青髭
他人の営みを知らない。
これが二人の形なんだと思うようになってきた。

月に一度訪れる女の日を待ちわび、交わる青髭。
狩野後、獲物を自ら捌いていた。
手を獣の血で真っ赤にして舐めているのを見たり
獣の喉から滴る血を盃で飲んでいた。
彼は、残酷なのではなく、血を見て喜ぶのだということをお妃は知った。
自分の体を切り裂くのではなく、流れ出る血を見て、愛されることは
普通ではないのかもしれない。
それでも、青髭が喜ぶことはお妃の喜びににもなり
月に一度の時が楽しみになってきていた。

眠ることもせず、夜明けまで抱かれ、日暮れまで抱かれる。
その数日間は、お妃の肉体と精神が正気を失い彷徨っていた。
私を愛してくださる彼の愛の形なのだと信じる。
流れ出る血を体に塗りつけ舐め、手にして舐める。
狂気に近い姿に喜びを感じるようになっていた。

戦に出かけることが決まると、青ひげは毎夜、お妃を抱いた。
月の物と重なる数日など、狂気の世界となっていた。
いつにもまし荒々しくなり、お妃の悲鳴と歓喜が室内に響いた。
青ひげの雄叫びのような声は、お妃を震え上がらせる。
恐怖の後の優しさが、青髭の不在の間の残像の想いになっていた。

ただ、戦に出る度にはめられる貞操帯の重さと冷たさは、お妃にとって屈辱であった。
誰もがそうなのかも知ればけれど、やはり嫌だった。
戦に出ている間、私の不貞を防ごうと言うことだと青髭は言った。
貞操帯を身に付け、留守宅を守ることの恥ずかしさ。
私は不貞などしないと言っても、青髭は決して外していいとは言わなかった。
ある日訪れた商人がお妃の耳元でささやいた。
「ご主人様がいない間、さぞご不自由なされているのではありませんか?」
「何のことでしょうか?」
「貴方の体を覆い隠す鎧のことですよ。」
お妃は、耳まで赤くして恥ずかしい思いになった。
なぜこの人は知っているの・・・・・
召使が言ったのね・・・・・
動揺と、疑惑と、恥ずかしさで何も言い返せなかった。
「奥方様だけではありませんよ。何処のご婦人も貞操帯に縛られているのです。
 私が良い鍵屋を紹介いたしましょう。」
「鍵屋ですか?」
「合鍵をお作りいたします。旦那様が御戻りになる前に元に戻せばいいのです。」

お妃は早速、合い鍵を作った。
貞操帯を外した喜びは、大きかった。
重苦しい束縛をとかれた喜びの中で貞操帯を外し不貞のためではと言い訳を考えてもいた。
青髭が帰る前に貞操帯をはめ直し、ご主人様の帰宅を迎えた。

青髭との生活に戻ったのも束の間、再び旅に出ると言った。
隣の国まで出かける為、家のことを頼むと言った。
今までと違ったのは、鍵の束を渡された。
「このカギはこの城すべての部屋のカギだ。私の留守の間、城を管理してくれ。
 しかし、この小さな金のカギだけは決して使ってはいけない。」
お妃は、青髭の言うことを守ると誓った。

「無事なお帰りをお待ちしております。」

青髭が出かけたのを確認すると、お妃は早速貞操帯のカギを開けた。
外した貞操帯と貞操帯のカギをサイドテーブルの上に置いた。
そして、青髭が開けてはいけないと言う金のカギも置いておくことにした。
二つ並んだカギを見ては、、それぞれの秘密のカギだと思うとため息が出てしまった。

商人からの買い物にも飽きたお妃は、預かったカギで、部屋を見て廻る事にした。
それぞれの部屋には、今まで見たことのない、世界中のものがあった。
部屋のすべての物を見ているとあっという間に日が過ぎた。
すべての部屋を見てしまうと、再びお妃は退屈になってしまった。
サイドテーブルの上にある2つのカギを見てどうしても金のカギを使ってみたくなった。
いったい何が入っているのだろう・・・
開けてはいけないと言われたのだから、開けてはいけない・・・分かっていることです。
それから数日、お妃は、必死に金のカギのことを忘れようとした。
忘れようとすればするほど気になってしまう。
とうとう金のカギを手にして、地下室の扉の前に立った。

カビ臭い地下の空気。
小さなカギ穴にカギを差し込み、ドアを開けると、血生臭い香りがお妃を包んだ。
室内にはおどろおどろしい光景があった。
言葉にできない

そんな光景を目にしたお妃は思わず金のカギを落としてしまった。
拾い上げたカギには血がついてしまった。
お妃は慌てて、ドアにカギをかけ、ドアに付いた血をふき取り、その場を離れた。
汚れてしまったカギをどれだけ綺麗に洗っても、ついてしまった血はとれない。
石鹸でこすっても、布でこすっても、金のカギは曇った鈍い色のカギに変わってしまった。
お妃は泣きながら必死に擦った。

青髭様が帰ったらなんと言い訳しよう。
約束を守れなかった・・・・
必死に言い訳を考えたところで、言い訳にならないことは分かっていた。
泣いても泣いても涙は止まらなかった。

青髭帰ってきて、カギを返しなさいと言った瞬間、
お妃の体から全ての血が流れ出してしまったように
冷たくなっていくのが分かった。
青髭はゆっくりカギを確認し始めた。
「ふむ・・・・・
 ・・・・・・・・・
 カギが足りないぞ。どうしたんだ?」
「使ってはいけないと言ったので、外してあります。」
「直ぐに持ってきなさい。」
「後では・・・・だめでしょうか? 
 ご主人様がごゆっくりなさってください。お茶でも入れますから・・・」
「持ってきなさい。いや、私が取りに行こう。何処にあるのだ?」
「・・・・・・・・・あの・・・・」
「何処だと言っているだろ!」
「寝室の・・・・・サイドテーブルの上です。」

青髭は寝室へと向かう。
お妃は後について行くしかなかった。

部屋のドアを開けテーブルの上を見て、青髭の顔色はどんどん変わった。
「あれは何だ?どういうことだ?」
「・・・・・・・・・お許しください。」
「なぜ、これがここにあるのだ?」
「お許しください・・・」
「お前はカギを持っているのか?」

お妃は、血で汚れたカギのことが気になって
青髭がつけた貞操帯を外していたことを忘れていた。
秘密にしていた貞操帯のカギのことまでばれてしまった。
「さあ、そこの二つのカギを渡しなさい。」

ここまで来てしまえば、言い訳も、出来ない。

「お前は、私がいない間に、不貞を働いたのだな。
 不貞を働いた妻は、男と共に処刑されるのだよ。わかるかい?」
「不貞などしていません・・・」
「言い訳など聞きたくない。
 貞操帯の合鍵を作り、手にしていたお前を、だれが信じられるか!」
「お許しください」
「地下室のカギがなぜ汚れているのだ?」
「落としてしまいました・・・」
「見たのではないか? お前も、入ったらどうだ?」
お妃はがたがたと震えてしまった。
その姿を見て、青髭は理解した。

青髭にも、お妃にも、凍りついた表情には笑みは、無かった。
お妃は、何とかならないかと必死に考えた。

またしても、私の言うことを忠実に守ってくれる女ではなかったのだ・・・
青髭は、希望の妻を手にすることが出来なかった。
従順で、誠実な女

青髭には理想の女がいた。
それは、聖女と呼ばれたジャンヌ・ダルク。
若き日にジャンヌの聖なる戦いを眼にし、共に戦った。
これほど清く、気高い女性はいないと思った。
ジャンヌとともに戦いの雄叫びを上げる瞬間、血が沸きあがるのを感じた。
あの興奮は、忘れられない。
そして密かに聖女に恋をし愛した。

しかし、世の王は、ジャンヌを使うだけ使い突き放した。
そして、魔女と言い火あぶりの刑で殺した。
青髭は、心が張り裂けんばかりに叫んだ。
聖なる心を焼き殺した人々を信じることができなくなった。
そのとき
青髭の心も死んでしまった。
清く尊いものが、焼け、朽ちていく姿は、若き青年の心に暗い影となった。
正義は、ジャンヌと共に焼き尽くされ滅んだ。

次第に、復活を願うようになる。
聖女が再び自分の前に現れる日を待ちながら生きている。
人は、青髭を狂った殺人奇と呼んだ。
愛した妻を殺せるのかと言う人もいた。
青髭が愛したのは、聖女だけである。
聖女の死を目にして以来、人はおろか、神さえ信じていなかった。
聖女を復活させるために、血が必要なら、いくらでも用意した。
人は青髭を殺人鬼という
そうではない
魔女を見つけては処刑した。
欲望に駆られ、血を求めたのではない。
血こそ、聖女復活への青髭の愛だった。

「もう一度、逢いたい!」


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