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迷宮・緑柱玉の世界の独り言

緑柱玉の大人の童話 NO8  千枚皮

2021-01-20 | 大人の童話
「王女!」
王妃は、転んだ幼い娘の元に駆け寄り、その体に怪我が無いか確かめた。
「おてんばは、だめですよ。女の子は、おしとやかにね。」
王妃は、王女を溺愛していた。
それは、それはつややかな金髪をした、王妃に似た美しい娘だった。

ある日、王妃は病に倒れてしまった。
幸せだった毎日に、暗い影が迫って来た。
どのような治療も、王妃の病を治すことが出来ない。
どんどん弱り行く王妃を心配する王がベッドを覗き込むと、
「私はもう直ぐ死にます。王はまだ若い。もう一度妃をお迎えください。
 ただ一つお願いがあります。
 新しい妃には、私と同じように美しい金の髪を持つものをお選びください。
 きっと約束くださいね。」
王がそれに頷くのを見て、王妃は息を引き取った。

国王には、娘しかいない。
王子をもうけていただきたいと、周りは、再婚を望んでいた。
しかし国王は、亡くなった王妃を今でも、愛していた。
再婚することを拒んでいた。
そして、王妃の最後の言葉を忘れてはいなかった。
どれだけ、再婚話を持ってきても、首を縦に振ろうとはしなかった。

そんな時、王女が倒れた。
王妃が亡くなったショックで、すっかり王女のことを忘れていた。
国王は慌てて王女の部屋にかけていった。
天蓋つきのベットのカーテンをあげ、覗くと、そこには、王女が横たわっていた。
亡くなった王妃に瓜二つの王女。
「お父様・・・」
王女を覗き込んだ王は満面の笑みで見つめた。
「王女、そなたの婚礼の相手が決まったぞ。」
ベットの周りの侍従に告げた。

「重臣達を集めよ!
喜ぶがいい!
余はここにいる王女と再婚する!」


それを聞いた王女は再び気を失った。

王女は、王が好きだった。
しかし、王であり父親という事実。
できることならば、王によく似た凛々しく、勇敢な男性との結婚を望んでいた。
お父様と結婚?

王女の心は、複雑だった。
もしも、この人が好きと思った人に出会ったとしても
好きだから結婚出来る身分でないことは、わかっていた。
政略結婚だろうとは思っていた。
それでも、出来れば、母の様に愛される結婚がいいと、願っていた。
愛してくれる男性と一緒になれればこの上ない幸せだと信じていた。
だから、お父様のプロポーズを素直に喜べない。

世間が許すはずが無い。
お母様が悲しむはずです。
きっとこの話はなくなるはずよ。許されこと・・・・。
しかし、再婚話は、どんどん進んでしまった。
誰も、引き止めるものが居なかった。
それとも・・・

王の言葉に誰もが逆らえないの?

王女は知らなかった。
王と王妃は、愛し合っていたが、王妃が年上だった。
王と王妃の出会いは、それは、劇的だった。
舞踏会でひと際輝いて見えた王女。
まだ、幼さの残る王子に一目ぼれしたのは、王女だった。
そんな王女と手をとり踊ったその日から、王子は王女の虜になってしまった。
王妃が望み婿入りした。
どうせ、自国では国が持てるわけではない3番目
王子は、他国の養子となり、王となる道を選んだ。
全てを王女に教え母のようであり女神のような王女を
男として愛し守ることが王子の勤めと信じた。
ほどなくして、王妃が王女を産んだ。
その時、王妃は、二十代半ば、ため息が出るほどの美しさが忘れることはない。
王妃は、妖艶に香るようだった。
そして、これほど愛おしいと感じる事が出来るとは信じられなかった。
王はそのとき、10代半ばだった。
全てのことを捨てても、お妃を守りたいと思った。

王の心は、王妃の美しさ、王位を愛おしく思う事でいっぱいだった。
王妃が亡くなり、心の火が消えそうになる。
王妃を思い出す日々が続く中、王に稲妻が落ちたような衝撃があった。
王妃が愛した王女は、王妃にそっくりに育っていた事に、その時気づいたのだった。
王の心が時めき始めた。

結婚を申し込まれたことは嬉しい。
しかし、それはお父様であり、お母さまの愛した人。
お母様は、お父様を本当に愛していたことを、毎日の様に聞かされ育ってきていた。
恋物語をするお母様は、少女の様に嬉しそうだった。
王女が愛されていることはわかっている。
でもそれは、親と子としてで、それ以上ではなかった。
王女の心と思いは、巧く理解できなくなっていた。

王女は、国王に条件を出した。
「お母様のお持ちになっている素晴らしいドレスに負けない物を、私にも、3枚いただきとうございます。
 一枚は金糸。もう一枚は、銀糸。もう一枚は星のようなドレスを仕立ててください。
 そして、千種類の毛皮から作ったマントを作り、結婚の贈り物にしてください。」
「わかった。」

そして国王は、王女の望みの品を用意した。

王女は結婚を受け入れると返事する以外なかった。
「お父様・・・・」

その夜、王女は母の形見の金の指輪
金の糸車と金の糸巻き。
千枚皮のマントを手に、城を抜け出した。


追っ手を恐れて、森に足を踏み入れた。
逃げてしまったことを、後悔するほどの怖さが、その森にはあった。
そこには、恐怖以外ない。
もう、王女ではなくなっていた。
道に迷い、あてどなく歩みつづけることになった。
衣服は汚れ、手足は泥まみれになってしまっていた。

王女は森で、疲れた体を木のうろで休めていたところを、猟師に見つかってしまった。
猟師は、小銭欲しさに、下働きを探している城に、薄汚れた娘を連れて行った。
王女も、恐怖で口が利けなかった。
城の料理番に、わずかな金で、売られてしまった。

売られて来た下働きには、自由など無かった。
王女である身分を明かせば、即座に元の生活が手に入ったかもしれないが、
薄汚れた女としか見られていないところでだれが信じてくれるかさえ分からない。
それに、、王女は、本当のことを口にしたくなかった。
そして、千枚の毛皮を貼り付けたマントを脱ごうとはしなかった。
そのマントは、つぎはぎのみすぼらしいマントにしか見えない。
やはり、そんなマントを身に着けている者の言葉など、誰も信じないことを、
王女は知っていた。

料理番は、そんな娘を千枚皮と呼び、さげすみどんな扱いをしてもよいと思った。
いらいらした時、娘にあたり、気に入らないことがあれば娘にあたった。
千枚皮の心は、悲しみ以外残っていなくなっていた。

眠れない夜、懐かしいお母様の声を聞いた。
千枚皮の心は、悲しみと苦しみを溜め込みすぎていた。
枕が濡れるほど泣いた。
「可愛そうな王女・・・そんなに苦しまなくても良いのよ・・ゆっくり休みなさい・・」
その夜、千枚皮は、王女の心を取り戻し、はじめてゆっくり眠れたきがした。

千枚皮は、よく働いた。
料理番の嫌がらせも、次第に慣れてきたのか、気にならなくなってきていた。

月日は流れ、城では、舞踏会が開かれることになった。
そんな時、不思議な事件が起こった。
見知らぬ娘が舞踏会に現れ、王の心をつかみ姿を消したのだ。
王は、その娘を探させたが、一向に手がかりが無かった。
まるで女神のようだと思った。
美しい娘はその場の空気を華やかにして、姿を消したのだった。
シンデレラのように、ガラスの靴でも残していけばいいのにと、王は思った。

そしてまた、不思議なことがおこった。
なぜか、国王のスープに指輪が入っていたのだった。
あるときは、
糸巻きが入ったスープが出されたこともあった。
料理番はいぶかしんだ

料理番は、王に呼ばれ、怒られる。
だが、そんな物を入れるはずが無いと言い張る。
下働きの千枚皮まで呼ばれた。

国王は新しいお妃を見つける舞踏会を開く度に現れるその謎の女性を探した。
城中で、その女性をお妃にしたら言いと考え始めた。
王妃を忘れ、娘を忘れ、新しい妻を迎えれば、丸く収まると考えた。

  *   *   *

王女は父親以上に王を愛し始めていた。
千枚皮として王の前に出た時も、金糸のドレスを着て王の前に出た時も
いつも変わらない穏やかな物腰の中にある威厳。
父ではなく、あのような男性に守られ愛されたいと思うようになっても不思議ではない。
母を愛した父親の姿に無限の愛を注ぐ男性を見た。
母があれほど愛した訳が分かってきた。
惚れないはずが無い。

それが、
金の指輪のメッセージ。

「うれしゅうございます。私の愛する国王様。」

王妃となった王女は思った。
母の死は、寂しかった。
今後、父の死を受け入れることが出来るだろうか?
体をもぎ取られるほどの苦しい悲しみを背負うのではないのだろうか。
愛おしい王子の寝顔を見ながら、見えない先へと思いを馳せる王妃だった。


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