なにげな言葉

なにげない言葉を あなたに伝えたい
迷宮・緑柱玉の世界の独り言

緑柱玉の大人の童話 NO5  3枚のリーフ

2020-07-19 | 大人の童話
ある国に、一人のお姫様がいました。
その王女は年頃になっても結婚しないのです。
王様でなくとも、綺麗で美人と認める程の姫が、何故結婚しないのか、不思議でした。
王様は心配になった。
なぜ、お姫様は結婚をしないのだろう。
お姫様は結婚したくないわけではなかったのです。
誰よりも幸せになりたいとおもっていました。

ただ、王と女王の日ごろの愚痴を聞いていると、結婚を喜んでしたいとは思わなかった。
そんなことをお姫様が思っているとは、王も女王も想像していなかった。

しかし年頃のお姫様には、結婚の申し込みがひっきりなしにきていました。
侍従が結婚の申し込みに来る。
お姫様の返事を聞き肩の力を落とし帰る姿を、お姫様はうっすら笑みを浮かべ見ているのです。
王も女王も姫の我侭だと言う。
「断ってばかりで、結婚しないつもりですか?直ぐに誰も声をかけてくれなくなりますよ。
 女は望まれて結婚しなければいけません。」

お姫様にはお姫様なりの理由があるのです。
決して誰も納得できる理由をつけて返さない限り、無理やりにでも結婚が決まるのではないかと思ったお姫様は、
「私が、もしも先に死ぬことがあったならば、一緒に墓に入ってくださいますか?」
たとえ好きであっても、いっしょに死んでくださいと言う、この問いには、口ごもる者ばかりだった。
王女は完璧な断りの文句を得た思いでした。
しかし、どこかで、「一緒に死にましょう。」
そんな素敵な返事をしてくれる、王子が現れてくれることを願っているのも事実でした。

そんなある日、ある男が、お姫様に結婚を申し込んできた。
王は、本当に結婚してくれるのかと、男に問いただした。
「君は、姫が出す問いを知っているのか?」
「もちろんでございます。」
「娘と共に死ねると言うのか?」
「あれほど美しい姫と共に過ごせ、一緒に死ねると言うことは、男冥利に尽きます。」
王は喜んで、王女に結婚してくれる男が見つかったことを告げた。
王女は驚いた。
そんな男が居る事が信じられなかったのです。
「お父様、もう一度確かめてください。」
王は、再度男に、問いただした。
「姫が死んだら、共に死んでくれるのか?」
「勿論でございます。死が二人を永遠の愛で結び付けてくださいます。」

王女にしてみたら、その男がどんな男かも知らない。
「身も知らない男が、私のような者の為に、命を掛け合いしてくださるというのですね。」
王に結婚を正式に申し込みに来た姿を王女は覗き見したかった。
ひょろひょろの弱々しい男ではない。
たくましく、凛々しい戦士のような男だった。
見た目は、王女の希望をかなえた。
それでも、王女は不信感を持っていた。

様相が悪くない男が、なぜ今まで結婚しなかったのだろう。
もしかしたら、体に欠陥があるのではないかと思った。

侍女に、男と一夜を共にして、男の行動を見て欲しいと命じた。
翌朝、侍女は、頬を赤らめ、素晴らしい男だと、絶賛した。
王女はその男との結婚を承諾した。

王も、女王もほっと一安心した。
男は姫に、正式にプロポーズをした。
「どうか私と結婚してください。
 そして貴方が死を迎えたなら、共に墓に入りましょう。
 そして私から一つお約束をお願いします。
 私が死んだときは、共に墓に入ってください。」

王女はまさか自分に同じ事を言われるとは思っていなかった。
しかし、その時は何とかなるだろうと思った。

平和で、幸せな時は過ぎ、これほど中むつまじい夫婦を知らないとみんなが喜んだ。
しかし運命とは何と残酷だろう。
あれほど美しかった王女が病に倒れた。
ベットの脇に、夫を呼び、
「私が死んだら、お約束どおり一緒にお墓に入ってくださいね。
 それが、貴方の私に対する愛です。」
看病虚しく、王女は死んでしまった。
王と、女王は永遠の別れを告げ、棺に入れた女王を墓に入れた。
そして夫を墓に入れようとしたとき、男は暴れ、抵抗した。

「男として見苦しいぞ!姫との誓いはどうした!」

男は、半ば強引ではあったが、数このパンと、ワインを手にして、墓に入った。
男は、あきらめきれなかった。
しかし誓いが・・・・

食べ物もなくなり、飲むものも無くなった。
男は意識が遠のく中で、蛇が王女の棺に近づくのを見た。
男は最後の力で、蛇に向かって剣を投げた。
蛇の体は3つに切れ床に落ちた。
男は王女を守ったと思いながら、蛇の死骸を見ていると、岩の陰から蛇が現れた。
蛇は、死んだ蛇に寄り添った。
そして再び、岩陰の入っていくと、3枚の葉を咥え戻った。
切断された体を集め、その上に、葉を乗せた。
すると蛇の体が、ぴくりと動いたではないか。

姿を消した蛇の後に、3枚の葉が残った。
「もしや・・・・」
男は姫の心臓の上に葉を置いてみた。
すると姫の心臓が、微かに動き出した。
「貴方・・・・。」

城中が祝っていた。
姫が生き返った。
飲めや歌えの大騒ぎ。

浮かれることの出来ない者が二人いた。
私の死と共に死んでくれなかった夫を見る妻。
妻の死に付き合えなかった男は、妻になんと言い訳が出来よう。

一度死んで生まれ変わったと思うようになった王女は、それまで以上に自由奔放だった。
男を寝室に連れこんでは、楽しんでいた。
そして男達に、「私を愛してる?愛しているなら死ぬまで戦ってちょうだい。」
男は、愛のために死ぬまで戦う事で、自分の愛を証明した。
そして又違う男が寝室に現れる。
男たちは、姫の為に戦っては、消えていった。
それが男の愛だったからだ。

男は次第に浮気する姫に興味がなくなってきた。

それから王女はよりいっそう男と遊ぶようになった。
「こうなったのは貴方のせいよ・・・」
「そういっても・・・・」

男には、それ以上言えなかった。
王女は新しい愛人に、「私を愛しているのなら、夫を殺しなさい。」
と命じた。

夫はベットに忍び寄る男達を殺した。
横たわる死体を見ながら男は悩んだ。
これ程までに私を憎んでいるのなら、妻が私を刺してくれたら抵抗などしないのに・・
そう思うが王女には言えなかった。

夫は妻の憎しみが、自分にあることを知っていた。
「私の愛が不完全だった為に、幾人もの男が私の代わりに死んで逝ったのだ。」
これを止められるのは自分しかいない事も、分かっていた。

男も悩んだ。
死にたくないと思うのも事実だ。
しかし妻の愛に応える事が出来ない自分はもっと愚かに感じていた。

その夜、夫の寝室に男が忍び込み襲った。
又一人、男が死んだ。
死んだ男が、王女の愛人だと思いながら見つめていると、そこに、王女が現れた。
王女は死んだ男を見つめながら
「私が、送り込んだ死神よ。貴方はどうして死なないのよ。」
「君は、僕が死んで欲しいんだね。そこまで僕を憎んでいたのだね。許してくれ。」
「どうして貴方はそうなの・・・」

夫は妻を強く抱きしめた。
「僕が死ななかったのがいけないのだ。
 あのときに・・・・全てがあの時に狂ってしまったんだ・・・」
「貴方は死ななかったわ。」
「いっしょに死のう。」
「私もなの・・・」
「そうだよ。あの時君を生き返らせたのが間違いだった。」
「そうよ。あの時生き返らなければ、貴方の裏切りを知ることも無かったのよ。」

そういう王女の顔に安堵の色が見えた。
「いっしょにもう一度やり直そう。死んでくれるかい?」
「私も死ぬの?」
「そうだよ。」

二人は心が一つになった。
死に行く身を綺麗にしよう。
いっしょに風呂に入り、身を清めた。
「今度こそ、貴方の愛を信じていいのね。」
「もちろんだとも、君の愛も信じるよ。」

二人は熱いキスをした。
全てを愛に、抱き合い抱擁した。
これが最後の愛の営み。
裏切りの行為も、全て忘れよう。
互いの愛を確かめる為に始まった結婚の誓い。
互いの心を試す事で、自分が愛していると信じたかった。
愛されているという安心感が、欲しかった。

慈愛の心で抱き合った。
「明日の朝、一人寂しく目を覚ますことなど無いのだよ。」
「永遠に続く愛で私を包んでください。
「僕の命は君の命なんだよ。」

そういうと、毒薬を用意した。
一つ・・・二つ・・・・三つ・・・
「これを飲んだら、永遠にいっしょだよ。」
「あなた・・・一人はいやよ。」


朝、家臣がベッドに全裸で横たわる二人の死体を見つけた。
家臣は驚き戸惑った。
「そうだ!あの時預かった3枚の葉で生き返るかもしれない・・・」
家臣は、急いで3枚の葉を持ってきた。

しかし、横たわる二人の死に顔を見た時、躊躇した。
二人は、今までに無い穏やかな、幸福な顔をしていた。

「お互いの死に、愛を持って答えた死なのだ。
 誰も、彼らを起こせない。起こしてはいけない。」

家臣は、以前の男の嘆きを思い出した。

妻を愛し生き返らせたが為に、妻は、生き返り、真実を知ってしまった。
生き返った喜びよりも、夫の裏切りを知り、落胆した。
その落胆が、真の愛を見つける行為に変わり、幾人もの男が死んで逝った。
それを止められる事を知っていながら、何もしなかった事を嘆いていた。
そして、王妃もまた、悩んでいた。

自分も夫を傷つけ続けた事を、悔いていた。
生き返った事で、夫に愛されていないと思った。
しかし生き返り、夫に抱かれる時、嬉しかった。
久しく忘れていた肉体の快感を思い出してしまった。

初めて夫に抱かれと夜、侍女を差し向け男に抱かれた感想を聞いた事を思い出した。
女としての喜びが、これ程素晴らしいと始めて知った瞬間だった。
家臣は一度だけ、間違えて、二人の寝室に飛び込んだことがある。
その夜、姫の悲鳴にも似た声が聞こえた。
家臣は驚き、寝室のドアを開けてしまった。
男の動きに合わせ、姫の体が揺れていた。
「お止めく・・・・・」
そういう姫の声が、聞き取れないまま、男の腕の中で、気を失っていく姫をみた。
「貴様!」
男に攻め寄るつもりだった家臣は、自分の愚かさを知った。
あの時のあの姿は、忘れることが出来なかった。
その後、男を変えては、抱かれる姫の中に
あの、素晴らしい快感を、捜し求めていたことを、家臣は知っていた。
姫は夫に抱かれたかった。
しかし、互いに疑ったままの関係は、修復できなかった。

姫を救えるのは夫だけだった。
精神の繋がりを求めた清い心に、肉体の快楽が加わり、二人の関係を拗らせてしまった。
王女が本当の愛を探していたことを、男の家臣は感じ取っていた。

生まれ変わることなど出来ない。
愛されていると信じるまま目を閉じることこそ、永遠の幸福だと思った。
二人の心が結ばれた死体は、全裸でありながら清楚な気がした。

王女の紅をさした唇が、微笑んでいたことが全てを物語っていた。


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