ファンタジー小説。エンジンのついていないグライダーと揶揄される小市民の僕と、暴力父と同年代からのイジメを受けて逃げ出す少年の二本立ての話が1年おきの区切りで続いていく。付き合っていた彼女に振られた社会人一年生、どこにも居場所がないいじめられっ子、いつも謝ってばかりの頼りない上司・・・。でも、今、見えていることが世界の全てでない。猪苗代湖の音楽フェス「オハラ☆ブレイク」でしか手に入らなかった連作短編を加筆書籍化。毎年恒例のフェスと小説のコラボという事で、視界が入れ替わりつつ、物語と歌詞がリンクしつつ話が進んでいきます。序盤は場面がころころ変わりブツ切り感が否めませんが、一方の主人公である社会人が同期への態度で自己嫌悪になり、切れ物の先輩や一件弱腰な先輩との絡みで成長していく姿、またもう一方の視点の主人公のスパイが、自身のいる組織の矛盾やスパイの仕事の中で折り合いをつけていき、強くなっていく姿、2人の主人公が交差する条件が面白い。過去に関わった人、行った事が数年先の出来事に少なからず関わってくる、主人公たちはうっすらと感じている何かしらの縁の様なものが感じられる展開ですが、伊坂ワールドになじめない読者には面白くないかも。「敗者と負け犬は違う。勝負に負けただけなら敗者だが自分を敗者として受け入れた時に負け犬になる。」「そんなもの、何の役に立つ。自分のことをちゃんと評価してやることは大事だけどな、謝って削れるようなプライドなんて、大したものじゃない。面子が、だとか、立つ瀬がない、だとか言っている奴ほど自信がないんだよ。本当に、自分を信じているなら、周りがどう思おうと関係がない」(P49)
2024年4月幻冬舎刊
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