ミステリーサスペンス。岩田法律事務所に、かつての友人の娘、麻希を名乗る女がやってきた。彼女は孤児で自分の出自を知りたい、ということだった。心に傷を抱える事務所の補助員、真崎雄一はその仕事を引き受けることにしたが、人探しを続けるうちに、ある街にたどり着く。しかし、この街、何がかおかしい・・・人もうらやむ瀟洒な住宅街。その裏側は、忖度と同調圧力が渦巻いていた。やがて誰も理由を知らない村八分が行われ、誰も指示していない犯罪が起きる。外界から隔絶された町で、19年前に何が起きたのか。いま日本中のあらゆる町で起きているかもしれない惨劇の根源を追う。変だと思っている者はあまりいないかもしれない。「この町ではそういうものなのだから、従うのが当たり前だ」と、そのうちに何にも違和感も、感じなくなる。わたしにしても、特に生活に支障がないかぎり、なんとなくそうなっているのを認めているといってもよかった。あらためて口にすると角が立つからだ。背筋が寒くなる不気味度が読み続ける程のグロテスクなサスペンス。「不作為の罪に対する良心の呵責」が誰にも起こり得ると共感できる。オウム弁護士一家殺人事件。安倍政権時代の忖度政治を思い出した。読者を引き込む力を感じ面白かった。「善悪の判断より何かを、つい優先してしまった。その挙句に自らの行為を糊塗し続けた。・・・そんな場面に直面したとき、ブレーキをかけることができるかどうか」(P334)
「強がる人間はいても、実際の人間は弱い。弱いとわかった上で、周囲に流されず、周囲からに立ち向かっていけるかどうか」(P354)
2022年1月講談社刊
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