東小金井にある、中国風四合院造りの建物から始まる。家主である三沢平馬は、夜になり、近くの欅の森の木が囁く言葉を聴いている。そこに、四合院の建物の一角を借りている金井綾乃が帰宅してくる。綾乃は三十歳、海運会社の経理部署で働いている。彼女は帰宅して、祖母の徳子に墨書で手紙を書く。綾乃の手紙に、徳子は朱を入れて、返してくる。九十歳になる祖母の徳子が、孫の世代に対して、未だに大きな影響を与えていることを知る。徳子は、戦後ながらく教職に携わってきた。彼女は、教え子たちに、そして周囲の人に大きな影響を与えてきた。徳子は、なぜ出征が決まった青年と結婚したのか?夫の戦死後、なぜ数年間も婚家にとどまったのか?そしてなぜ、九十歳の記念に晩餐会を開くことにしたのか?孫の綾乃は祖母の生涯を辿り、秘められた苦難と情熱を知る。徳子の生き方、溢れるばかりの知識や教養が人格を貫いている様子が挿話を挟みながら描かれる。よき時、それはかつての栄光ではなく、光あふれる未来のこと。いつか、愛する者たちを招いて晩餐会をと九十歳の記念に祖母の徳子が計画した、一流のフレンチシェフと一流の食材が織りなす、豪華絢爛な晩餐会。子どもたち、孫たちはそれぞれの思いを胸にその日を迎える。一人の命が、今ここに在ることの奇跡が胸に響く感動物語です。普通の生活者の自分から見ると上流社会に属する幸せそうな金井一家の豪華な食事風景と薀蓄にはちょっとうんざりしたが、個性豊かな登場人物描写と徳子おばあちゃんには感服。徳子おばあちゃんが自分のお気に入りを身内それぞれに生前贈与するくだりは面白いと思った。
2023年1月集英社刊
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