舞台は太平洋戦争敗戦直後の当時沖縄がサンフランシスコ講和条約によって本土から切り離された1951年。琉球と言われた米軍占領時の沖縄。奄美郡島徳之島出身の東貞吉は、琉球警察学校を出た後、琉球警察名護警察署に配属になり、米軍現金輸送車襲撃事件の主犯逮捕の手柄を立てたことなどにより、公安担当抜擢される。沖縄刑務所暴動で脱獄した人民党の末端、当時15歳の島袋令秀(れいしゅう)に接近し、自分の作業員(スパイ)に育てることに。令秀が人民党の瀬長亀次郎に心酔していくなか、貞吉は公安としての職務を全うするために、自身も次第に敬愛することになった瀬長を裏切ることができるのか。矛盾と相克に満ちた沖縄で、貞吉は自らの道を歩んでいく。沖縄の歴史と当時米軍の現実を緻密に組み上げられたストーリーとスピード感ある展開。奄美諸島出身者が沖縄人に差別を受けていたこと。基地の土地を取り戻す事をベースにした地に足のついた反米活動を、沖縄県人が熱烈に支持していたこと。返還前にも、本土の公安の監視や工作が続いていたこと。戦後から沖縄が受けてきた差別や迫害、「沖縄を取り戻す」という悲痛な叫びと、アメリカと共存せざるを得なくなりつつある混乱期を生き抜く沖縄の人々のリアルが胸に迫ってくる物語で、一気読みできたバイオレンス・ロマンサスペンスでした。
2021年7月角川春樹事務所刊
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