中編2つ。児童虐待の話、親の子への理不尽と子どもの無力さにやりきれなくなる。親の後悔の念。そんな筈じゃ無かった。生き方が不器用なだけ?・・・表題作「迷子のままで」。
3・11の震災被害と放射線の被ばくに怯えながら除染作業に従事する作業員の話。・・・「いまから帰ります」。危険を承知の上で声をあげる事も出来ずに生活の為に今日も働く。人間の無力さがこたえる。津波で失われたはずの生徒手帳。行方不明のまま永い時を経た少年の伝言。数千キロ先の故国ベトナムを目指す男が遺した言葉。そこからはそれぞれ強いメッセージが発信されている。「騙されるということ自体がすでに一つの悪である・・・造作なくだまされるほど批判力を失い、思考力を失い、信念を失い、家畜的な盲従に自己の一切をゆだねるようになってしまっていた国民全体の文化的無気力、無自覚、無反省、無責任などが悪の本体なのである。『だまされていた』といって平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。(伊丹万作)」(P133)。やられっ放しで判断力を失う前にやるべきことがある。僕たちは迷子のままではいられない。という主張が心に響く。除染作業を扱った作品、短いながらも読み応えがある2作品でした。2020年5月新潮社刊
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