O社の面接が終り、夕食時間。
冷い雨の中をさ迷ひ歩くのもイヤだつたので、リストアップした候補の中で一番近いところから廻つた。
最初に行つたのは「馬耳東風」。
殘念ながら豫約で一杯。
祈るやうな思ひで、 「串たなか」 へ。
「1時間半だけでよろしければどうぞ」
とのことで、助かつた。
靴を脱いで上がると、堀炬燵式のカウンター。
12席のこぢんまりとした空間で、アットホームな雰圍氣が心地好い。
先客は福岡から來られた若いカップルと、東京から來られた年輩のご夫婦。
東京のご夫婦は20年前に京都に住んでゐて、この店が寺町今出川にあつた時によく來てゐたとのこと。
かういふ根強いファンがゐることが、この店の素晴らしさを物語つてゐる。
こちらの「お品書き」は「一方通行」といふ「おまかせコース」のみ。
全20品で3800千円。
好きなタイミングでストップすれば、その時までの金額となる。
スタートは、お餠から。
さすがに全20品を覺えてゐるわけではないので、印象に殘つたものをいくつか。
「おでん」
思はず、「え?」と聞き返してしまつた。
コンニャクと豆腐だつたかな?
味が滲みてゐて美味しかつた。
「舞ひ茸」
さくさくした齒ざはりと、ベーコンの香りがよい。
「チーズ」
ありがちな1品だが、思つてゐた以上に美味しかつた。
チーズとラズベリージャムがこれほど合ふとは思はなかつた。
「タラの芽」の天婦羅。
纖細な苦みを大切にするために天婦羅にしてゐるのかもしれない。
春が來たんだなあと、實感した。
「うづらの卵」
これもよくある1品だが、こちらでは半熟で供してゐる。
猫舌の私には危險な串だが、ひとくち齧ると、なかから黄身がとろりと出て來て、美味しい。
「トマト」
これも猫舌には危險。
中にチーズが入つてゐて、トマトの汁とチーズが渾然一體となる。
これは、全20品が終つたあとに、追加注文したもの。
さて何でせう?
解答は、「三つ葉・鯛」
三つ葉を鯛で卷いたもので、私にとつてはこれが全20品の白眉。
これが食べられただけでも、「串たなか」に來た甲斐があつた。
デザートは「柚子のシャーベット」。
揚げ物のあとで食べると、口の中がスッキリする。
全20品に、「三つ葉・鯛」と「チーズ」を追加。
お酒は、「八海山」、「玉乃光(特別吟釀)」、「呑ミ足リテ味ヲ知ル」。
「呑ミ足リテ味ヲ知ル」とは變つた名前だが、大將が「日出盛」や「桃の滴」で知られる伏見の松本酒造が出してゐる酒だと教へてくれた。
龍安寺 のつくばひに「吾唯足知」があるといふことも大將に教へて頂いた。
さすがは京都のお店だけのことはある。
さらりと「吾唯足知」が出てくるなんて!
ちなみに大將は繪を描いてくれたのだが、著作權?保護のために寫眞は掲載しない。
酒も良し、串ももちろん良し。
コストパフォーマンスも良し。
大將を始め、お店のかたがたの人柄も良し。
いいことづくしの「串たなか」であつた。
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