16日(月)、東京オペラシティリサイタルホールにて第26回現音作曲新人賞本選会を聴く。
今年度の課題は管楽器(サクソフォーンを除く)と弦楽器を組み合わせた2~5重奏作品。応募総数15作の中から譜面審査で4作品が選ばれた。
審査員長:堤剛(2009年度芸術監督) 審査員:安良岡章夫、福士則夫(譜面審査)、坪能克裕(本選審査)
演奏順に、内野裕樹「パロ谷の春の祝祭に」(Fl. Fg. Vn. Vc.) /昭和一桁世代を思わせる、土俗的、牧歌的、装飾音のない平明なメロディーのヘテロフォニー。簡潔な書法の美しさ。
田口和行「葉桜」(Fl. Vn. Va. Vc.)/フルートが呪文音型を吹く背後で弦が持続音、グリッサンド、トリル、ハーモニクスのトレモロなど。ヴァイオリン・ソロやアンサンブルでのフォルテ・ピアニッシモは構成的に効果があった。循環形式か。フルートのジェット・ホイッスルと弦のグリッサンドの組み合わせや、コーダでのマンドリンのようなピッチカートなど、感心した。
村瀬晴美「太陽を背負う月」(Cl. Vc.)/驚愕の冒頭。チェロが低い2弦を弓の根元で度突き倒し、余韻を上下にグリッサンドする間、弓の木部でバタバタ叩く。これを従来の奏法でするには腕が3本、弓は2本必要!代償は千切れた弓の毛。以下荒れ狂うモダンジャズのような嗄れ声の噴出(太陽か)。突如ハーモニクスの持続音でピタッと止まる緩。再び急。チェロの弦を弓ともう一つの棒で挟み、めちゃくちゃに擦る。そして緩。決闘が終わる。(クラリネット:上田希、チェロ:多井智紀)
小坂幸生「小さなメリヤス工場」(Fl. Cl. Vn. Vc.+指揮)/1曲目に類似。明快な4拍子を維持し、プーランクを連想する。1曲目もそうだったが、編成の大きい室内楽には表現が中和、平均化されたような温さを感じた。
第1位「第26回現音作曲新人賞」は村瀬晴美氏(東京都/1985年6月4日生)。国立音大首席卒業。富貴晴美の名でCM、TVドラマ、映画音楽でも活躍。
審査員特別賞「富樫賞」は田口和行氏(鹿児島県/1982年生)。鹿児島大学教育学部数学科中退、作曲は独学。
さて堤氏が掲げた新人賞の募集テーマは「人間性と共に歩む現代音楽」…(以下要約)
「現代音楽」だから故に現実離れしている必要はなく、聴衆と喜びをシェアしても良い。そのためには作品が聴き手と共感し得る人間性を備えていることが大切。
音楽の本質はコミュニケーションであり、心に伝わるメッセージが無くてはならない。
今自然環境の保護と人間環境の改善が叫ばれている。自分はチェリストなのでチェロを人間の声として響かせてくれる作品を期待している。
このテーマと、実際に応募され演奏された作品、審査結果との間にはギャップがあったのだろうか、「4作品共、普通の芸術作品として聴けた」という以外、氏が述べられた講評には戸惑いが感じられた。それは結果に対する控えめな疑問の意思表示だったのだろうか。いずれにせよ「人間性」「コミュニケーション」「メッセージ」も多種多様な現代、その解が必ずしも「チェロを人間の声として響かせる作品」になるとは限らないことを実証してくれた貴重なテーマだった。
管弦楽、吹奏楽をはじめ様々なジャンルを手がけられている先生の力量に敬服いたします。
それにしてもヒンデミット風の弦楽四重奏曲があったなんて驚きました。ヒンデミットファンの一人としてはうれしい限りです。
モダンとはいえ和声や対位法の権威的存在として尊敬しています。今回はシンセサイザーによる楽曲でしたが次回は生の弦楽四重奏曲に編曲されてみてはいかがでしょうか。
ところで質問です。ヒンデミットの交響曲の中に交響曲変ホ調という作品がありますが、この変ホ調という調性がよくわかりません。
この調性は変ホ長調と変ホ短調による楽曲なのでしょうか?それとも変ホ音を中心として長調や短調にも属さない調性による楽曲なのでしょうか?教えていただければありがたいです。
ある本にはよく理解してないのにハ調とかニ調という風に言ってはいけないとも書かれていました。それほど難しいものなのでしょうか?またスコアによっては Symphony in Es という表記のせいなのか交響曲変ホ長調と印刷されているものがありました。eの頭文字が大文字だから出版社が長調だという風に決めてしまったのでしょうか。
この交響曲を是非生で聴いてみたいですが如何せんヒンデミットという作曲家が他の作曲家に比べて知名度が低い上にシリアスな交響曲変ホ調となると音大生ぐらいしか知らないのではないか思うので日本の管弦楽団がこの作品を演奏する機会はなかなか訪れないのではないかと思います。
この作品が収録されているCDも3枚ぐらいしかないようです。しかし2013年はヒンデミット没後50年を迎える年なので、この埋もれた名曲に挑戦する楽団が現れることを秘かに期待しています。
ヒンデミットの弦楽四重奏曲第5番のパッサカリアのそっくりぱっくりさんです。
ヒンデミットは、僕の先生の先生が留学して師事した先生です。
ご質問の答えですが、あいにくその曲の音も譜面も今ないので推測になりますが、ドーリアとかフリギアとかの旋法だからでしょう。しかも極めて頻繁に移旋(転調)するので主調が分かりにくく、「変ホ音を中心とするが長調か短調かは断定できない」と言えるでしょう。
その曲の音も譜面も無いのに、なぜこのように言えるかといえば、ヒンデミットは多作家で、大体作風は変わらないからです。
「ルードゥス・トナーリス(音の遊び)」というバッハの平均律みたいな前奏曲とフーガ集をヒンデミットは作曲していて、その楽譜は持っていますが、この曲集も「in C」「in G」となっており、長調でも短調でもありません(ですからin Esを「変ホ長調」と訳すのはもちろん誤りです)。
「in C」の曲でも、C durで始まったや否や、c mollやAs durなどに目まぐるしく変化し、全体はかろうじてCが主音と分かるのみです。ジェット・コースターみたいですね。
苦手な分野です。
確かにヒンデミットは池田先生の先生が留学して師事した先生ですね。以前ブログのサイドバーに「作曲家の世界」の画像にも書かれてましたね。
「作曲家の世界」といえば数年前地元の図書館で借りてきて読んだことがあります。確かハーバード大学の講義用のために書かれた本でしたが、最後まで読んだものの高度すぎてついていけませんでした。
しかし、「45年間音楽大学で勉強すれば誰でも一人前の作曲家になれる」という文章だけは覚えています。
しかし普通の人が45年間も音大で勉強するでしょうか。ぼくにはヒンデミットが作曲家というよりも学者に思えます。
それにしても先生、随分夜遅くまでお仕事ですか。ご無理なさらないでくださいね。