重厚なケースに収められた2冊の本とCD4枚はAGIというタイトルのBOXセットである。一見謎であろう。下手をしたら人はこれをエー・ジ(ギ)ー・アイ?とでも読んでしまうのではないか。果たしてプロデューサー中村泰之氏の意図は稀代の音楽批評家、阿木譲の客体化―記号化であったか。阿木譲の言語、音楽制作(Vanity)、その活動が今、掘り起こされ、分析され、批評される。
飽くなき主体として先端音楽を読み取り、言うところの時代精神に位置付けてきた感性のトップランナー阿木譲の分身が自らの手を離れ、ある客観的な場所に辿り着く。昨日のことはすぐ捨て去るスピードを信条とした男の過去形を復刻する事の意味を中村泰之氏は認めた。
また、ケースに銘記された嘉ノ海 幹彦という名前を見て驚くのは「ROCK MAGAZINE」の嘗ての熱心な読者に違いない。ここに復刻された「MUSICA VIVA『ロック・マガジン』29号」と「Erik Satie Furniture Music『ロック・マガジン』34号」(共に1980年)は嘉ノ海氏が在籍した「ROCK MAGAZINE」誌が最も充実した内容を誇った時期のものである。今回、馳せ参じた嘉ノ海氏もまた、ある意味、ここに復刻したのである。椹木野衣、平山悠、両氏の阿木譲評が嘉ノ海氏と並ぶことで図らずも世代別の阿木観なるものがおぼろげながら姿を現すだろう。
そして阿木譲の創造のヴェニュー、environment og zero-gaugeを中心にライブ活動を展開してきた林賢太郎、徳田順也、泉森宏泰(isolate line)各氏への嘉ノ海氏によるインタビューと長年、その片腕として公私ともに阿木譲を支え続けてきた現zero-gaugeオーナー平野隼也氏の感動的な告白録が収録されている。
CDはさらに充実し、平野隼也氏による「VANITY / REMODEL MIX」が2枚。これは阿木譲のレーベルVanity(1978-80)と現在進行形の先端音楽レーベルRemodelの音源をランダムにDJミックスしたもので、独立したCD作品としても発売が決定している。更にはShota Hirama、Tenten-Ko両氏のVanityミックスCDが1枚ずつ収録されている。
私は特別に出版元から先行して献本いただいたのだが、その内容の重厚さに感動した次第。正しくこれは偉業。願わくはこの「AGI」が阿木譲逝去の国内的反応の小ささに対するカウンターになる事を。
2022.2.18
【本+4CD】AGI【阿木譲/ロック・マガジン復刻/Vanity Remodel CD4枚付】
監修:中村 泰之
著:嘉ノ海 幹彦、椹木 野衣、平山 悠
価格:¥4,950(税込)
ISBN:978-4-86400-041-3
発売日:2022 年2 月28 日
版型:B5(257×182×54mm)
『AGI』『rock magazine 復刻版』2 分冊
ページ数:本文208+592 ページ 計800 ページ
BOX 仕様 : 2 冊の本とCD4 枚は豪華ボックス(266×191×54mm) に封入
製本:並製
初版特典:CD4 枚組
発行元:きょうレコーズ
発売元:株式会社スタジオワープ
A G I
■復活祭の果てに死者が語りかけてくることとは 平野隼也
■野生・編集・髪型 ‒ 阿木譲というスタイル 椹木野衣
■『ロック・マガジン』の全部はこれから 平山悠
■魂に降り注ぐ音楽 林賢太郎
■やがて映像となる音楽 徳田順也
■音響実験の地球生命体に与える影響について 泉森宏泰
■「ジャズ的なるもの」からクラブ・ミュージックへの回顧 阿木譲
rock magazine 復刻版
■『ロック・マガジン』29号(1980 / 01)特別号 MUSICA VIVA
■『ロック・マガジン』34号(1980 / 11)Erik Satie Furniture Music
■『ロック・マガジン』40号(1981/ 11)無意識の音楽群
■『ロック・マガジン』41号(1982 / 01)新感覚
■CD-1 VANITY / REMODEL MIX 1
■CD-2 VANITY / REMODEL MIX 2
■CD-3 VANITY RE-MAKE PART 1
■CD-4 VANITY RE-MAKE PART 2