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※ ジェネラルの誕生日をねつ造しました。何か夏生まれという感じがするので…。
「なあ。このカード、無視していいか?」
「ダメだろう」
「けどなぁ」
速水が珍しく途方に暮れていた。その手には、たった今、院内連絡ボックスから取り出したカード類が握られている。その数、数十枚…。
「祝ってくれているんだから、ありがたいと思うべきじゃないのか?」
速水の手にあるのは、明日に控えた速水の誕生日に対するカードやメッセージなどだ。毎年、院内関係者だけでなく出入りの業者や学生からも『祝 誕生日』が届く速水だ。さすがに、プレゼント類は減ったが、当日にならないと、こればかりは分からない。
「…行灯。お前、他人事だと思ってのんきに構えていていいのかよ。俺がこれを無視したとばっちりは誰に来るんだ?」
にんまり。速水の意味あり気な流し目が田口に注がれる。速水はこれらを無視しようとするのだが、田口は律儀に“ありがとう”の返事を書かせていた。それを速水が「田口が書けって言うから書いている」と言い触らすので、返事が欲しい人はそれとなく田口にアプローチしてくるのだ。
「うっ。そうだった。けどなんで、速水じゃなくて、俺の所に文句が来るんだろう…」
いまだ院内で、自分が速水のどのポジションにいるのか知りたくない田口は、不思議そうに首を捻った。それを見た速水は、こいつ、本気で分かっていないのか。わざとなのか?と心配になる。と同時に、いい加減、自覚しろとも思った。
「お前、自分が世間からどう思われているのか。いい加減、自覚しろよな」
「してるつもりだけど…」
「してない。全く、これっぽっちも自覚してない!」
田口の惚け加減に、腹が立ち始めた速水の声は自然と大きくなる。
「してるって!」
「してない!」
「してる!」
対抗する田口も、彼にしては珍しく本気で反論する。この時点で二人は自分たちのあとから出勤してきた職員の視線を一身に集めているとは気づいていない。なので、ますます、口論はヒートアップしていく。
「しているって言うんなら、どうしているんだよ!」
「…お前の嫁!」
シーン。速水ももちろん、その場が水を打ったように静かになった。そこだけ、時が止まったかのように…。そして、数秒後…。
「分かってりゃいいんだよ」
満面の笑みで速水は田口を見つめると、真っ赤な顔の頬にチュッとキスした。そして、「というわけで、俺たちは今までも、今からもラブラブでーす」と周りに向かってVサインをした。
「ちょっ、お前。誰に向かって?」
「え? 俺らの痴話げんかをハラハラ・ドキドキしながらご観覧の皆様へ、今年の誕生日も速水晃一は浮気せずに田口一筋ですと言ったんだけど」
堂々と宣言する速水の先には、医局別に配置された靴棚の影から、そっとこっちを覗き込む田口的にはあまり見かけない人たちが…。中には、ぱちぱちと拍手している人もいたりして…。でもって、この場所にいるということは、この病院の医者で…。
田口は、自分から口にした、速水の嫁宣言を聞かれた…と、今度は真っ青になった。
「…恥ずかしい。もう病院にいられない…」
ショックでよれっと床にしゃがみ込む田口。ダメだ。世間を歩けない(この場合の世間とは、附属病院内のことだ)。今日はこのまま帰ろう。いや、もう立てない。病院にいられない…。 一人どこまでも落ち込む田口。
「行灯。こんな所に座るな。他の人に邪魔だろうが。お前が俺の嫁なのは、この病院じゃ常識なの。気づいていなかったというか、隠しているつもりだったお前がアホなだけ。今更、誰も驚かないから、ほらっ、さっさと立て!」
速水の言葉にますます田口は落ち込む。えぐえぐ。速水は涙目になっている田口の腕を引き上げようとしたが、田口は嫌々をして、その場から動こうとしない。
「泣くな。いい年したおっさんが、格好悪い」
こんな時でも、どこまでも冷静なジェネラル・ルージュ。周りの目は、落ち込んでいる田口に、さらに落ち込むことを言う速水が自分の彼氏じゃなくて良かったという安堵の目と、田口先生、大変という同情が漂う。
「だってぇ」
「だっても、狸も狐もない。浮気しないって言っているのに、何で泣くんだよ。そこはうれし泣きだろうが…」
田口とは別に意味でKYな速水は、いじける田口をいとも手慣れた様子でひょいと肩に担ぎ上げると、『あとでチュッパやるから、泣くなよ』とかなんとか言いつつ、廊下をすたすた歩いて行った。
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