逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

国際司法裁判所で日本の南極海捕鯨が全面敗訴

2014年04月05日 | 文化・歴史

『○○だけど××と看做す(・・だということにする)日本的詭弁(官僚の小理屈)』

商業捕鯨のモラトリアム(全面禁猟)後も『科学調査目的』という偽装によって、日本国は南極海で捕鯨を継続していたが、2010年イギリス連邦加盟の反捕鯨国のオーストラリアに国際司法裁判所(ICJ)オランダ・ハーグに国際捕鯨取締条約違反であると提訴されていたが、2014年3月31日日本側の全面敗訴で決着。
国際司法裁判所は一審制で控訴は認められておらず、1987年から続けてきた南極海での調査捕鯨(擬装商業捕鯨)はとうとう完全中止に追い込まれる。
日本にとって厳しいICJの裁定ですが、反捕鯨の環境保護団体グリンピースは『実は、日本は勝ちたくない?  国際司法裁が調査捕鯨に判決』との日本政府の隠された本音を暴露している。
今回の『科学調査か』、それとも『経済活動(商業捕鯨)か』の事実関係でICJで争えば日本側には最初から勝ち目が無かったのである。
調査捕鯨と言う名目の商業捕鯨であることは、日本側関係者も良く承知していた。
今まで正論での正面突破ではなくて『科学調査が目的だということにする』との何とも日本的な小理屈で何十年も『裏口』での擬装商業捕鯨を行っていた。そもそもICJの『科学か、商売か』の土俵では勝負にならないのである。
南極海での調査捕鯨のクジラ捕獲枠は、合計で約1000頭程度。しかし高すぎる鯨肉価格のために需要は最盛期の50分の1以下に低迷している。
牛肉よりも高い超高級肉である鯨肉消費量は年間3000トンに対して在庫量が2倍近くまで増え債務超過に陥って年間7~10億円の国庫補助金に加えて2012年度からは約45億円の追加補助金で事業をやっと維持していた。
諫早湾開門訴訟で政府側がわざと裁判で負けたように、日本政府の鯨食文化の保護は建前で、本音としては金食い虫である南極海の調査捕鯨を『止めたがっていた』であろうと推測出来る。(実質的には商業捕鯨なのに大赤字でコマーシャルベースとして成り立っていない)

『捕鯨からクジラ保護へ、コペルニクス的180度の大転換の意味』

161年前の1853年日本に対して黒船の武力で露骨に威嚇してまで開国を迫ったアメリカの目的は(教科書的には)捕鯨船への燃料食料や水の補給であったと言われているくらいに、産業として欧米諸国の捕鯨は一般的であり重要であった。(石油の利用で150年前の時点では鯨油の需要は下火であった)
鯨油の需要の激減で欧米社会は捕鯨から撤退して長らく何の関心も示されなかったが、100年以上たってから突如として商業捕鯨が大問題として世界から注目されることになる。
原因は世界最強のアメリカ軍の史上初めての『ベトナム戦争』での歴史的敗北であった。
今のアフガン戦争と同じで、当時のアメリカ軍は主要都市と主要道路だけは確保していたが農村部はベトナム軍に押さえられ大苦戦。勝利することが出来ない。
アメリカ軍は劣勢を挽回するためにダイオキシンを含む除草剤を空から撒いて森林を破壊してベトナム全土を砂漠化する、恐るべき狂気の『枯れ葉作戦』(除草剤がオレンジ色をしていたので通称オレンジ作戦)を繰り広げていた。
おりしも第一回の国連人間環境会議が予定され、主催国のスウェーデンのパルメ首相は『枯葉作戦』問題を取り上げると予告する。
環境会議では、オレンジ作戦の枯れ葉剤(除草剤)大量散布で環境への壊滅的影響や、作戦に従事した米軍兵士の健康被害などが取上げられる予定であった。
1972年6月のストックホルム国連人間環境会議に危機感を抱いたホワイトハウスは(オレンジ作戦での対米非難を回避する目的で)特別戦略諮問機関を設置する。アメリカの英知を絞った末の『目には目を、歯には歯を』の世論誘導のオペレーションとして自然保護が全面に打ち出される。
ストックホルムの国連人権環境会議でアメリカは全ての情報宣伝力を動員して自然保護を訴えるが、その象徴(シンボル)として鯨保護が決められたのである。

『ニクソン大統領再選と国連人間環境会議のモラトリアム(鯨全面禁猟)』

ストックホルムの第一回国連人間環境会議は1972年6月で、稀代の策士アメリカ大統領ニクソンは5ヵ月後の11月に再選挙を控えており、ライバルの民主党ジョージ・マクガバン上院議員はベトナム戦争反対を訴えていた。
もし環境会議で、枯葉(オレンジ)作戦問題が取り上げられ、アメリカが国際的な非難を浴びたら、ニクソン陣営は面子丸つぶれとなる。
捕鯨モラトリアムの提案は、このような事態を避け、逆に環境問題でのリーダーシップを誇示して、マクガバンの支持層を切り崩す一石三鳥の作戦だった。
スウェーデンで国連環境会議が開催されると、ベトナム戦争の枯葉作戦問題ではなく、唐突に鯨保護問題が議題とされる。
この時何の根回しもないままに電撃的に可決されたのが捕鯨の10年間モラトリアムで、商業捕鯨が出来なくなったのである。
19世紀には捕鯨大国として太平洋の鯨を激減させ、今まで一度たりともIWCでモラトリアムなど提案したことのなかったアメリカは、この時から反捕鯨陣営(自然保護)のリーダーに突如変身した。
ベトナム戦争で評判を落としたアメリカのニクソンの選挙運動のための『猫騙し』の赤いニシン(red herring)としてモラトリアムが考え出された。当時のアメリカ人にとって実害(利用価値)が何もないために、商業捕鯨は禁止されたのである。
この国連人間環境会議直後の11月の大統領選挙で、ベトナム戦争反対、米軍の即時撤退、軍事支出の削減を訴えていた民主党候補のジョージ・マクガバン上院議員は、共和党現職大統領で稀代の策士ニクソンに対して歴史的な大敗を喫する。
もし『モラトリアム』が無ければ、世界の歴史が今と大きく変っていた可能性が高い。

『1972年のモラトリアム以後の世界と日本の動き』

国連人間環境会議(1972)で10年間のモラトリアム(捕鯨禁止)が決定された。
しかし同じ年に開かれた国際捕鯨委員会(IWC)は、科学的根拠がないとしてモラトリアム実施を否決する。1972年当時の加盟国は15カ国だった。
胡散臭すぎるアメリカに対する反対が多かった為だが、科学的研究の結果を無視して、多くの反捕鯨国をIWCに加盟させ、本会議の多数決で乗り切る戦術に変更する。
欧米諸国、特にアメリカにとってのルールとは『守る』ものでは無く、『作る』(守らせる)ものなのである。
超大国アメリカの政治的プロパガンダが一度成功すると、国家の面子が係わっているので最早誰にも止められない。
IWC加盟国は10年後の1982年には、39カ国にまで増えるが新たに加盟した24カ国の中の19カ国はアメリカが加盟させた捕鯨とは無関係な、イギリス連邦のセントルシア、セントビンセント、ベリーズ、アンティグア・バブーダなどのミニ国家。不真面目な反捕鯨だけが目的で国際捕鯨委員会に入っている。イギリス本国からIWC加盟を要請され、分担金などの経費はグリーンピースが立て替え、さらに代表もアメリカ人などが務めるなど多数派工作のための完全な傀儡メンバーの妨害で、科学論議が無視されるのであるから腹がたつ。
IWCは1982年にアメリカの多数派工作が奏功して、10年間の期限付きの商業捕鯨モラトリアムを採択する。
1982年のモラトリアム決定には『遅くとも1990年までに鯨類資源の包括的評価を行い、商業捕鯨モラトリアムの規定の修正及び他の捕獲頭数の設定につき検討する』との付帯条件がつけられていた。1992年に適正な資源管理を目指すIWC科学委員会は捕獲頭数を算定する『改訂管理方式』を完成させる。
ところがまたもアメリカが巻き返して1994年に南極海の60度以南をサンクチュアリーとするモラトリアム決議がIWC年次会合で採択され現在に至っている。

『1982年のIWCのモラトリアム以後』

日本政府はIWCの規則にのっとり商業捕鯨10年間のモラトリアムに異議申し立てを行ったが、アメリカは『200海里の漁獲割当てを削減する』と露骨に脅迫して撤回を迫る。(異議申し立て期間中は捕鯨を継続出来る)
当時はアメリカの200海里内での日本の漁獲高は約1300億円で鯨の約110億円の10倍以上。やむなく日本政府は1984年異議撤回を表明し1987年末に商業捕鯨をすべて停止した。
日本はアメリカの脅しに完全屈服し商業捕鯨を止めたのに、その後約束は無視され、騙まし討ち的にアメリカは自国の200海里経済水域内の日本側漁船を全面的に締め出してしまう。
商業捕鯨の停止の日米合意の1987年から始まっているのが、今回国際司法裁判所で日本が全面敗訴した南極海での調査捕鯨の抜け道(擬装)だった。
捕鯨に限らず政治や国際間の問題とは、お互いに騙し騙される厳しい世界なのである。
捕鯨が水産会社から一般財団法人日本鯨類研究所に名前が変わっただけで中身は一緒だったと思われているのですが、日本鯨類研究所は水産庁から毎年膨大な補助金を受けて調査捕鯨を行なっているため天下りする受け皿との批判がある。ちなみに沿岸捕鯨は和歌山県太地町だが南極海の捕鯨基地(母港)は安倍晋三首相の地元の山口県下関市である。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 輸出戻し税(消費税8%増税)... | トップ | 教育や報道の次に科学(ST... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ライブドアブログの禁止ワード (宗純)
2014-04-05 11:16:55
明日さん、コメント有難う御座います。

クジラやイルカが海岸に迷い込む現象が強力な軍用ソナーの超音波である可能性は以前から専門家の間では言われていたのですが今回は米軍も認めているようですね。
ただ南極海の捕鯨船が装備する高性能魚群探知機である鯨探機との関連性は薄いでしょう。
南極海ですが、今行方不明のマレーシア機が衛星で残骸が見つかったと騒いでいる場所と同じで、世界中で一番何も無い海域なのです。
消費税8%増税だけで無くて、今年の4月1日から世の中が大きく変っているようですよ。特にネット空間が困ったことになっている。
岩下俊三さんのライブドアのブログ『嘘つきめ!21世紀の現代、補足判別できないものはないのだ。』ですが コメント送信が何故か出来ない。
禁止ワードが入っていると表示されるので、どんどん抜いているが、それでも『不適切な言葉が入っている』と表示され、コメントが送れない。
何と。!
最後に『メルトダウン』を抜いたらやっとコメントを送ることが出来るようになるが、何故『メルトダウン』が駄目に突然なったのでしょう。
ブログ主は『18. 閻魔 2014年04月04日 18:31
宗純さま
なぜか原因不明でコメントやトラックバックが不調になることがあります。僕は何もしていないのでこれも「運命」と諦めています。』と、無関係らしい。
サーバーが一律に問答無用とメルトダウンの言葉を禁止しているのですよ。
恐ろしい話ですが、福島第一原発が、可也危険が迫っているのかも知れません。
とんでもない恐ろしい話ですね。
返信する
気象 (明日)
2014-04-04 22:38:47
velvetmorning.asablo.jp/blog/2013/09/28/6995048
捕鯨はなんで止めなければならないのか?
ここに一応書いてます。参考までに。
この方など身に危険が迫ってる方おられますから、管理人さんも気をつけてください。
返信する

コメントを投稿

文化・歴史」カテゴリの最新記事