台風の吹き返しの風が残る午後。近くの神社の小さな秋祭りを抜けだし、あすのイベントの準備のため会場へ向かう。長らく使っていない焼き芋機とピザ窯に、「お試し」で火入れをするのだ。
まずは、別の神社から運び出した廃材を適当な長さにカットする。よし! ん? でも、どうやって?
「あ、これ使こーて、やっといて」。一緒に準備してくれる地元の役員さんが、丸型の電動ノコギリを指さしてさらりと言う。うーん、使ったことないけど…。
でも、さっき役員さんがやってたのを見たら、そんな難しい仕組みでもないようだ。「はーい」。あっさり引き受け、電ノコを抱えてピザ窯のそばの廃材の山へ。要は、けがをしなけりゃいい。見よう見まねでやってみる。
「スパンッ」とは切れてくれない。当たり前だ。切るときの廃材の置き方、力の入れ方、刃を入れる場所、角度をちょっとずつ変えながら試していると、徐々にコツが分かってくる(つもりになっているだけ)。道具が使えるとなんだかとても楽しくて、ひとり悦に入る。
山里暮らし2カ月。しばしば、使ったことのない道具を扱う機会を得た。インパクト、草刈り機、チェーンソー、ユンボ、電ノコ…。「はじめてのお使い」ならぬ「はじめての道具使い」。どれも、持ち主さんはちらっと口で説明してくれるが、あとは「じゃ、やっといて」が基本だ。「え!? これ、俺が使っていいんですか。壊すよ」と内心いつもビビる。
「使うてみんにゃ、分からんじゃろ」とあっさり任せてくれる持ち主さんたち。ごもっともです。「臆病なぐらいが、ケガせんけえちょうどええんよね」
隊員はどの道具も当然、使いこなせない。けど、「使えないことはない」ぐらいにはなった(つもりになっているだけ)。勘違いでも、自分の自由度が広がった気がしてコーフンする。次はどんな道具に手を出そうか。