福富ストラット

「記者ときどき農夫」。広島の山里で子ども向け体験農園づくりにいそしむ、アラフォー新聞記者のブログ。

酒蔵通りにて

2019-09-11 23:13:32 | 日記
 福富町から車で約30分の酒どころ西条。蔵元が立ち並ぶ「酒蔵通り」そばに住む知り合いの男性が、夕食会を開いてくれた。男性の家族や新聞社の先輩後輩、地元の某大企業の関係者と乾杯。初めての「美酒鍋」をつついた。うまいっ!
 酢レンコン、刺身、焼きナス、栗ごはん…。男性のお母さんは仏様のようにニコニコと笑いながら、次々とバツグンにうまい料理を出してくれる。男性が手作りした柚子コショウも、鍋にピリリと合う。お母さんが屋上で育てているインゲンのような野菜(名前を忘れた)が気に入り、「来年は種をくださいね」とお願いした。
 隊員が男性と知り合ったのは1年余り前だったか。新聞社の研修で講師を務めてくれた。休み時間に声を掛けさせてもらい、「東広島に転勤したいんですぅ」「希望がなかなか通らないんですぅ」なんて話をした。
 同い年だったこともあり、その後も隊員のことを覚えていてくれたそうだ。8月初め、「転勤」ではなく自力で福富に転がり込んできた隊員に「驚きました!」と連絡をくれた。
 その日にすぐ、男性の職場に足を運んでみた。男性はこの春からがんと闘っている。突然の来訪に、その日は少ししんどそうな様子で「今度、歓迎会やりましょうね」と言ってくれた。抗がん剤治療の合間の体調が良い時を見計らって、今宵の宴を開いてくれた。心底、うれしい。
 集った誰もが、話のネタ豊富。食卓に並ぶ食材のうんちく、東広島のキーパーソンや名店、企業スポーツの動き…。近ごろすっかりノンアルコールでの酒席参加が板に付いた隊員も、お茶を飲み飲み、たくさん笑わせてもらった。
 途中、愛知県からヒッチハイク旅行中の男子大学生2人も闖入した。「きょう、福山で拾ってきたんよ」。福富出身の某大企業の関係者がさらりと説明する。え?
 2人は昨日愛知を出て、今日すでに西条に到着。「高速参勤交代」並みのスピーディーな旅だ。「10年間サッカーやってました!」「明日は博多に行きます!」と若さ全面のあいさつ。いいね。人は誰からも好かれる年齢がある、って書いてたのは誰だったけ。
 どんどんカオスな集まりとなり、ますます楽しい夜が過ぎていく。こんな素敵な席を設けてくれた男性に感謝。治療もうまく進むことを信じている。



稲かり真っさかり

2019-09-10 22:14:28 | 日記
 福富は稲刈りの真っ盛り。地元の保育園児たちが稲刈りに臨むと聞き、隊員も田んぼに足を運んだ。
 わが家のある県道沿いの道から、山あいに延びる坂道を借り物の軽トラでどんどん登る。右も左も田んぼだらけで、家はまばら。車もまったく行き交わない。同じ集落でも、一歩奥に入ると随分と印象が違う。隊員の家の周りが住宅密集地に見えてくる。言い過ぎか。
 道ばたに顔見知りのおじいちゃんがいたので、車を停める。「ここらは、また雰囲気が違うじゃろ」「はい、気持ちいいですね」。おじいちゃんは、道沿いに落ちているイガグリを園児たちに拾わせてやりたくて、待ち構えていたそうだ。坂を下って園児たちが歩いてくる。みんなで「イタイ、イタイ」といがに刺されながら、かごいっぱいに大きな栗を拾った。
 鎌での稲刈りは、みんな驚くほど上手。じいちゃんばあちゃんが稲穂を藁でくるくるっと手早く巻く技にも、隊員は一人「マジックですね!」とコーフン気味に見入った。
 真夏の暑さなので、稲刈りはささっと終了。元気あり余る園児たちは、刈り終えてある隣の田んぼでバッタやカエルを追い回す。虫に飽きると、虫みたいに暇そうに休んでいる隊員がイジリの対象に。ねこじゃらしを手に次々とくすぐりに来る。大人げなく反撃するが、なんだか爽快。都会も田舎も、ガキんちょの奔放さはいいね。いつもより輪を掛けて田舎な風景とともに、全身でいやされます。
 鎌とねこじゃらしを手に、ガキんちょたちと田んぼで汗だくになってから1時間後。とある都市部の病院でカッターシャツに革靴でお堅い「取材」に臨んだ。自分の二重人格、二重生活ぶりも、我ながら心地よかった。都会と農村、仕事と遊び、自由と束縛、日本と海外―。なんでも2つを行き来できると、世界の楽しさは2倍に広がる。かわいい女の子ときれいなお姉さんも!?

終の棲家

2019-09-09 19:07:45 | 日記
 広島市内の特別養護老人ホームに入っている隊員のばあちゃんに会いに行った。御年90歳で肺がんを患うばあちゃん。今年初めまで市内で在宅介護サービスを使いながら1人暮らしをしていたが、汚物まみれでぶっ倒れていたり、認知症の兆しが強まったりしたため、施設のお世話になることにした。
 全国に「特養の入所待ち」が約30万人もいる中、ばあちゃんもご多分に漏れず「待機児童」ならぬ「待機ばあちゃん」。ショートステイを延長するという裏技を駆使しながら(といっても一般的には常習だが)過ごし、ようやく空きベッドに滑り込んだ。終の棲家といわれる特養。ばあちゃんが入れたということは、誰か1人が亡くなったということだけど。
 3カ月前は車椅子で施設内をうろうろしていたばあちゃんも、体調を崩したのをきっかけに今はほぼ寝たきり。ずいぶんと痩せていた。でも、気に入らないやつに悪態をつくほど、話はしっかりできる。まあ、随分前に死んだじいちゃんを「最近、見かけんのんよ」と真剣に不思議がっているけど。
 ばあちゃんが暮らしていた一軒家は、戦後の再開発の「替え地」であてがわれた団地にある。「福富道の駅にある大型遊具の滑り台かよ」ってぐらい傾斜の強い坂道を上った斜面だ。
 当時は「最先端」の団地住まいだったのだろう。今や住民は年老い、傷みが進む家も目立つ。ばあちゃんのうちはどうしよう。「老老介護」に頑張ってくれている隊員の母親としばしば話すが、結論は出ない。
 「ほんま顔を見んけど、どしたんかの」。亡きじいちゃんのことを真顔で話すばあちゃん。自宅からさらに山を登った寺にあるじいちゃんの墓に、ばあちゃんはもう何年も参っていない。



子ども農園 第一歩

2019-09-07 22:12:15 | 日記
 隊員宅の隣にある畑とビニルハウスの草刈り、土起こしをした。隊員が構想する、不登校や引きこもりの子どものための農園づくりの第1歩。夏の日差しの下、ボランティアで駆け付けてくれた3人とマッチョ大家さんと約2時間、草刈り機や農具を振るった。腰ほどの高さに茂っていた草の大半を「えいやっ」と刈り、勢いついでに隣の田んぼ脇の草もやっつけてくれた。
 畑の隅では、畑の主である大家さんが育てるナスとピーマンがぽこぽこ実を付けている。「取りんさい、取りんさい」。大家さんがボランティア参加してくれた女性に気前よく言うと、女性は勢いよくはさみを振るってバット2かご分を収穫した。
 汗だくの作業後、日陰でビールとノンアルコールビールで乾杯。取れたて野菜入りの焼きそばをみんなでこしらえ、お隣さんにもらったかわいいメロンをわいわいと味わった。
 「ここに人が集まったのは久しぶりよのぉ」。マッチョ大家さんが、日に焼けた顔で焼きそばを頬張りながらうれしそうに言う。先月からは隊員が暮らすこのおうち。実は大家さんのお母さんが生前、都市部の子どもを田んぼに招いて米作り体験会などをしていた。家の壁には、大勢の子どもが田植えをしている写真が数枚、飾られたままだ。
 隊員は引っ越し前にそれを知り、勝手に強い縁を感じてコーフンした。「まずはここで農園つくるぞ。つくれっておぼしめしだぜ」
 いつものクセで発作的に人を巻き込んでやった土起こし。時間設定、段取り、準備物、交通手段、呼びかけの方法―。「うわ、失敗」「これ、しんどっ」って改善すべき点、たくさんありました、はい。夜、作りすぎた焼きそばの余りを頬張りながら、ひとり反省する。
 子ども農園構想は試行錯誤、五里霧中、前途多難だけど、なにはさておき、急なむちゃぶりに応じてくれた3人に感謝! 山里にひょっこり転がり込んできた身として、人の温かさが身にしみた。



こわもてドクターの転身

2019-09-07 01:07:08 | 日記
 人から見ると人生の大きな転換でも、当の本人にとってはごく自然な流れ―。そんなことは、珍しくないのかもしれない。今日仕事で会った広島県内の男性医師も、泌尿器科医から精神科医へという転換を経て今、田舎町の地域医療と向き合っていた。
 大学の医学部を卒業後、いくつかの総合病院で経験を積みながらバリバリと働いていたドクター。30歳を過ぎたころ、心の病から体調を崩した。激務と人間関係のストレスが原因だった。たくさんの人を治してきた医師の立場から一転。ひとりの患者として医療に関わる中で、人の心と向き合う医師になりたいとの思いが芽生えたという。
 体調を取り戻した後、新たな「師匠」の医師の下で学びながら精神科の専門医資格を取った。数値や画像に基づいて治療法をほぼパターン化できたそれまでと違い、心や精神の病は原因がなかなか目に見えない。「患者さんと時間をかけて話し、その人の人生を知らないと、表面的なケアや間違った治療につながってしまうんだと痛感しました」
 再び長年の「修行」を積みながら、精神科の入院病棟や「看取り」を扱う介護事業所などを持つ医療法人のトップとなったドクター。全国的に相談・支援の機会が限られている高校生以上の発達障害の専門外来を設けるなど、独自のチャレンジを続けている。
 自分の心の声に気付いたとき、新たな一歩を踏み出すかどうか。そこが一番難しい。たいていの声は、常識や生活を理由に「踏み出さない」ことの言い訳に変わり、居酒屋でぶちまけられて消化されるのかもしれない。
 「まあ理想に向けていろいろやってますけど、現実はなかなか厳しいですよ」。こわもてに茶パツの風貌で、地域医療をめぐる現実もとつとつと語ったドクターの目は、なかなかかっこよかった。