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広島大学名誉教授
藤井 博信
◎この講座についての私の予備知識 … こんなことからこの日の講義に期待しました。
私は、リタイヤした老人を対象にした「地域デビュー講座」を受講していますが、教室は高見が丘地域センター又は東広島市総合福祉センターで開かれています。この日は、東広島市総合福祉センターにおいて、市内に在住の元広島大学教授藤井氏が講師でした。
水素は宇宙で最も豊富にある元素で、宇宙の質量の4分の3を占め、総量数比では全原子の 90 % 以上となるそうです。また、地球表面には元素数で酸素・珪素に次いで3番目に多い元素だそうです。この水素という元素は身近に有るというだけではなく、生産活動において様々な用途に使われており、代表的な用途は、
① 原料 - アンモニアの製造など多方面に利用
② 還元剤 - 金属鉱石の還元など様々
③ 燃料 - 燃やしても水以外の排出物、例えば、粒子状物質や二酸化炭素などの排気ガスを出さないことから、代替エネルギーとして期待
に区分できますが、今回のお話は「エネルギーの歴史と水素の贈り物」と題されていることから、どうやら③の燃料についてのようです。
◎先生のお話しの前置きのところ
私はすでにリタイヤした立場なので、公式な要請による講演などはお断りしていますが、今日は地域の勉強会ということで喜んで講師を勤めたい。
今日は、最後に実験などをして、楽しく水素のことなどをお話ししようと思っています。
◎講座内容 本題(この部分については、配布資料に基づいて書いています。)
20世紀後半から始まった二酸化炭素ガス(CO2)の排出に伴う地球温暖化問題や化石燃料の枯渇に対処するため、水素をエネルギー媒体とする新しいクリーン・エネルギー・システムが提案されています。ここでは、水素エネルギーを将来どのように利用出来るのか皆様とともに考えてみましょう。
(1) はじめに
私達は、日常生活におけるエネルギー源として、主に石油・石炭、天然ガスなどの化石燃料を使用しています。その量は一次エネルギーの8割に相当します。現在、それらの大量使用によって大気中のCO2 濃度が増大し、地球温暖化に伴う地球規模の深刻な気候変動(ゲリラ豪雨、大型台風、砂漠化など)が発生しています。
一方、化石燃料も無尽蔵にあるわけではなく、60~80 年先には化石燃料が枯渇してしまうエネルギー危機が迫っているのです。中でも、わが国はエネルギーの多くを輸入に頼っており、原子力を除くエネルギーの自給率はわずか4%にすぎません。産油国の政変・戦乱やアジア諸国の経済変動によって、将来、エネルギーの入手が困難になることも予想されます。
原子力エネルギーも東北関東大震災において発生した福島原子力発電所の放射能もれに見られるように、安全性に課題を抱えています。わが国のエネルギーの安全保障は、まさに危機的な状況にあると言えそうです。
こうした中、地球温暖化問題に端を発し、近年、低炭素社会の実現を目指して再生可能エネルギーである太陽光発電、風力発電、小電力水力発電などの利用技術が急速な進歩を遂げています。日本では、現在、再生可能エネルギーの利用は全消費エネルギーの数%にしか達していませんが、2020 年までに10%までの利用拡大を目標としています。ヨーロッパ共同体(EU)では、2020 年までに全消費エネルギーの20%を再生可能エネルギーで賄うことが計画されています。日本もこれからの努力が必要となってきました。
同時に、これら再生可能エネルギーより得た電力を系統電力に取り込むためのスマートグリッド構築のための研究や電力貯蔵のための高容量高機能二次電池(バッテリー)や大容量キャパシターなどの電気エネルギー貯蔵技術の開発研究が盛んに行われています。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車の普及は電力貯蔵技術の開発の成否にかかっていると言っても過言ではありません。
(2)水素エネルギーの位置付け
一方、水素は、様々な一次エネルギー(化石燃料や原子力など再生不能エネルギー、太陽光や水力、風力など再生可能エネルギーなど)から比較的容易に製造できる便利なクリーンエネルギーです(図1参照)。
水素はまた電力との互換性に優れたエネルギーの運び屋(エネルギー・キャリアー)でもあります。そのため、電力に加えて水素を組み込んだ二次エネルギーシステムの構築が世界的な注目を集めているのです(図2 参照)。つまり、化石燃料、核燃料など(再生不能な1次エネルギー源)や太陽エネルギー、風力、水力など自然エネルギー(再生可能な1次エネルギー源)から2次エネルギーである電力または水素を作り、電力は鉄道などの大量輸送用の動力や通信照明、冷暖房用として主に利用し、水素は自動車などの分散型輸送のための動力や熱利用としての燃料、工業用原料などとして使用し、有機的なエネルギー利用に結び付けていくシステムを構築しようと言うのです。
電力と水素とは極めて高い効率でエネルギーの形を相互に変換できます。電力は水の電気分解によって水素へ、また、水素は電気分解の逆反応を利用した燃料電池によって、あるいは水素燃焼タービンによって再び電気に変換し、利用できるのです。特に、太陽光発電や風力発電などによって得た電力は間欠性があり時間的変動が大きいため、これらの電力を安定して供給するためにはバッテリーに蓄電するか水素に変換して貯蔵することが重要となります。
(3) 水素エネルギーの利用
水素を利用する際のキーとなる技術が燃料電池です。なぜなら、燃料電池は、水素の持っている化学的エネルギーを効率よく電気的エネルギーに変換できるからです。このエネルギー変換効率(投入したエネルギーの内、利用しやすいエネルギーへ変換できる割合)は、理論的には60%程度まで期待出来るのです。現状でも40%から50%程度の変換効率を達成できています。変換した残りのエネルギーの40%は熱として排出されます。そこで、熱まで有効活用(コジェネレーション化)出来れば、その利用効率は80%を越すことが可能です。
家庭用燃料電池(1kW 級)は熱までも有効利用するコジェネレーション化によって水素の持っているエネルギーを80%以上の効率で利用できる点から今後の普及が期待されているのです。さらにこのことによってCO2 排出量を40%以上も削減することが可能となります。
日本では平成21 年度から世界に先駆けて家庭用燃料電池エネファームの販売(図3参照)が開始され、普及が始まりました。これは、都市ガスまたはLP ガスを改質して水素を生成し、その水素と空気中の酸素とで燃料電池(0.7kW)を働かせ、それによって得た電力は家庭用電力として照明・通信・冷房用に用い、熱は給湯・暖房用に用いるコジェネシステムで、余った電力は電力会社へ売るのです。平成22 年度末で、約2 万台の家庭用燃料電池エネファームが販売され、使用されています。その結果削減できたCO2 排出量は、ニューヨークのセントラルパークを森林に変えて1年間に吸収されるCO2 量に相当します。
一方、大出力を必要とする自動車用燃料電池(20kW 級以上)の開発は、日本・カナダ・ドイツ・米国が中心となって進められてきました。燃料電池車は電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)に代わる、CO2 を全く排出しない究極のゼロエミッションカーとして登場することが期待されています。電気自動車は同じゼロエミッションカーですが、1充電で走行距離が150km 程度と限られ、かつフル充電に6 時間程度かかります。一方、燃料電池車は35MPa の高圧水素タンクを搭載することによって600km 以上の走行距離が得られ、かつ、水素充填時間も3~4 分と短く、究極のゼロエミッションカーと位置付けられているのです(図4参照)。
しかし、燃料電池車の普及のためには水素ステーションのインフラ整備を必要とするなどの課題もあります。現在、全国主要都市圏を中心に2015 年までに100 カ所、2020 年には1000 か所の水素ステーションの建設が計画されています。現在では耐久性の向上や低価格化などの課題も徐々に解決され、もはや、燃料電池電気自動車の出現は夢ではなくなってきました。因みに、現在の燃料電池車は、~1 億円と言われていますが、2015 年には、その1/20 まで価格の値下げが可能であると見込まれています。
マツダが開発している水素エンジン自動車は、水素を燃焼させて発生する熱を利用して車を動かすエンジン車です。そのためエネルギー効率は20~40%と燃料電池車に比べて低いものの、純度の低い水素が利用できる点(副生水素をそのまま利用可能)や価格が安い点などを加味すると、エネルギー多様化の過渡期においては、十分な普及が期待できるゼロエミッションカーと位置付けられると考えられます。さらに、携帯電話やノートパソコンなど携帯情報端末機器への小型燃料電池(1~50W)の利用は、すでに技術的な課題を克服し、平成22 年度から市場へ登場してきています。
徐々にではありますが、着実に“低炭素社会を目指した”水素エネルギーの利用が進みつつあるのです。私は、今後も水素エネルギーを含む次世代エネルギーの普及にむけた啓発活動を続けていきたいと考えています。
◎ 燃料電池自動車の実験
水H2O(下付きの2の書き方が、わかりません。ゴメンなさい。)を洗面所から汲んできて、おもちゃの車の2つの透明容器に入れました。
先生が電池で電気分解を開始したら、黒(写真左、青く見える)の水素側2に対して赤の酸素側1の割合で気泡が発生した。
電池を外し、車のスイッチを入れたら、水素ガス発電により車が動き出した。
これはオマケです。水素は使いません。窒素ガスで冷やしてリニアモーターカーの実験も披露していただきました。本当に浮かんで走ります。
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