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山下達郎一押しの邦画それがこの山中貞雄監督の遺作『人情紙風船』だという。ジャパン・ポップスのレジェンドがなんでまたこんな戦前の映画をと思ったりもしたのだが、教訓を押し付けない点が魅力だとかたっていた山下。山中は本作品封切日に赤紙をもらいそのまま戦地中国で腸チフスに罹患し病没、帰らぬ人となる。28才だった。
江戸時代末期潘をリストラされた浪人の自殺で始まり、心中で終わる物語ではあるが暗さはほとんど感じないだろう。むしろ、葬式を肴に飲めや歌えのドンチャン騒ぎをする長屋住人のたくましさが強調された作品なのだ。同時に、格好ばかりで甲斐性のない武士の弱さが露呈している1本ともいえるだろう。
サイレントからトーキーへの移行時期、役者の方はほぼ全員、歌舞伎役者に見切りをつけた(滑舌のよろしい)“前進座”の皆さんだったそうで、旧態依然の権威に反旗を翻す判官贔屓な役どころがなにせはまっている。後に共産主義に深く関わっていく二人、河原崎長十郎と中村翫右衛門のキャスティングは当初逆を予定していたのを山中がひっくり返したらしい。
半ば上司のストーカーと化し権力者におもねる海野(河原崎)を敗者、ヤクザにおどされようが決して闇賭博をやめようとしないどころか逆にヤクザを脅迫する度胸満点の新三(中村)をヒーローとして描いた本作は、成る程思想的にはかなり左寄りなのかもしれない。
が、商業的に成功をおさめたミュージシャン山下達郎としては映画の別の面を見ていたのかもしれない。武士としてのかたっ苦しい面子(芸術性)よりも実利にこだわった新三の生き方に、より共感を覚えたのではないだろうか。しかし、武士の魂のおそらくメタファーであろう紙風船が三途の川をながれていく映画のラストシーンは「チトサビシイ」のだが…
人情紙風船
監督 山中貞雄(1937年)
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