もしかしたらデカプリオに念願のオスカー主演男優賞を授賞させるためにイニャリトゥが撮らされたプログラムピクチャーではないだろうか。見返りはもちろん、監督が本気で撮ったと思われる前作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のアカデミー4冠であろう。
西部開拓時代、北米の森林で毛皮猟をする一団の案内人を務めるグラスをレオナルド・デカプリオが演じているのだが、巨大CG熊に襲われ瀕死の重傷、先住民との間に生まれた一人息子を目の前で殺した猟師に足手まといにされたあげく、生きたまま森の中に一人放置されてしまう。息子の仇をとるために壮絶なサバイバルを開始するグラスだったが…
両足骨折のため移動する手段はほふく前進と凍死覚悟の川下り?のみ。草をはみ、ハイエナ(こんな寒い場所に生息してたっけ?)の食い残しをあさりながら命をつなぐグラス。川の浅瀬に罠をしかけてとった生魚を食いちぎるデカプリオの演技に、いつも以上の力がこもっているように感じたのは気のせいだろうか。先住民から分けてもらったトナカイの生肉を頬張り思わず✨してしまったデカプリオ、喉の傷のせいにして誤魔化したアドリブからも、役者の本作にかける意気込みがひしひしと伝わってくるのである。
ついデカプリオ渾身の演技に目がいってしまう本作ではあるが、アカデミー会員のお眼鏡にかなうようシナリオにはちゃんとホワイトセイバー加工がほどこされている。フランス人同業者軍団に脅迫されグラスを追ってくる者以外けっして先住民に銃口を向けない主人公。むしろそんな先住民を邪険に扱う白人たちから彼らを解放する役目をになっているのがデカプリオ演じるグラスなのだ。息子を殺したフィッツジェラルド(トム・ハーディー)への復讐劇も、最終的な判断を神=先住民に託すという念の入れようだ。
近年、本作のグラスのような究極の汚れ役や力石徹(古)なみの過酷なダイエットが、どうもオスカー男優賞の必要最低条件になっているような気がする。根性試しとしては間違っていないのかもしれないが、CG全盛のこの時代にこんなにガチなデ・ニーロ的アプローチがどれほどの意味を持っているのかはなはだ疑問なのである。むしろ、普段は贅沢三昧の生活をしていても、一度カメラが回れば一瞬にして浮浪者にみえてしまう、そんな役者にこそふさわしい賞のように思えるのだがどうだろう。
レヴェナント:蘇りし者
監督 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(2015年)
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