本作の脚本家エフティミス・フィリップは、ヨルゴス・ランティモス監督『ロブスター』の脚本を共作した人らしい。若きギリシャ人鬼才監督の名前につられてつい見てしまったのだが、内容はイマイチ。『ロブスター』の映画冒頭に登場したおっかない女に射殺される🐴さんがどこでどうつながるのか、最後まで予想だにできなかった『ロブスター』に比べると、本作の結末は映画序盤ですでにバレバレだったのではないだろうか。
主人公の飼い犬ボーダーコリーのクッキーが一匹?気をはいていたが、ランティモス作品の雰囲気だけをパクったような本作にあっては実にもったいない。いっそのこと、クッキー目線の動物映画にしてしまうぐらいの思いきった演出が欲しかったところ。ギリシャ危機以来EUに搾取されっぱなしのギリシャにおいて、そんな奇抜なアイデアさえ浮かばないほど映画関係者のダメージは予想以上なのかもしれない。
美人の奥さんが暴漢に襲われて意識不明の重体。息子と二人で不自由な生活を強いられるようになった弁護士は、隣室の住人から手作りのオレンジケーキを差し入れされたり、行きつけのクリーニング屋に優しくされたりしているうちに、すっかり悲劇のヒーロー役が癖になってしまうのだ。自己憐憫が快感に変わってしまった男の物語は、日本の小説家太宰治と比べればわりと想像しやすいのではないだろうか。
喪失感に打ちのめされ悲しみに酔うことになれてしまった弁護士、奥さんの意識が奇跡的に戻ったことを隠しとうそうとしたがために、ご近所から冷たい視線が....男は今一度あの歪んだ悦びを再び手に入れようと、ある計画を実行に移すのである。ここから先は皆さんの予想通りことが運んでいく。愛犬クッキーのブルブルこそ予想外だったが、ああやっぱりこうなった、という想定内のオチにランティモス作品との差を痛感してしまったのである。
何がダメなのかと具体的に問われるならば、事件発生前の日常生活で、この金持弁護士が近所中から嫌われているシークエンスをいれるべきだったのだ。そうすると、何気ないご近所さんの親切が全て屈折した笑いのネタに変わっていったはずなのである。そして、名犬クッキーの扱いがこれまたもったいない。奥さんや親父の◯◯を土の中から掘り返して男の企みがすべて露見するようなラストにもっていかなければ、この映画オチるにオチていない気がするのだが、どうだろう。
PITY ある不幸な男
監督 バビス・マクリディス(2018年)
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