次作『ライトハウス』同様、なりたくないものになぜかなってしまう皮肉な運命を背負った主人公の物語。新鋭ロバート・エガースによる本処女作は、出資が決定するまで4年の歳月を要したという。その間魔女関係の資料を読みあさったというだけあって、ウィッカ(欧州古代の多神教崇拝)や ウィッチクラフト(魔女の魔術)描写はかなり信憑性の高いものに仕上がっている。映画エリートとはとても言えない出自だけに、「なんじゃこりゃ」と観客を惑わせるへんてこりんな作風が持ち味の監督さんだ。
より質素厳格な信仰を求め、イギリスからアメリカのニューイングランドに渡ったピューリタンの集団がいた。その村人の信仰のあり方に疑問を抱いたウィリアム(ラルフ・アイネソン)は、家族と共に集団から追放されてしまう。魔女が住むという森との境界に家を構えたケンプ一家だったが、育てた農作物は枯れ、末っ子の赤ん坊サムが神隠しに。この後一家を次々と襲う厄災の原因を、悪魔と契約した魔女が家族の中にいるせいと疑いはじめるのだが.....
なんだやっぱりそうだったんだ全然オチてないじゃんと、予想通りの結末を見せられてガックシされた方も多かったのではないだろうか。🐰さんや黒🐐さんのアップや、飛行軟膏を全身にぬりつけたり、長男をたぶらかす魔女を不気味に見せるシーンなどに天性のセンスを感じるものの、ことシナリオの出来栄えについては大いに???が残る。出資金をもらえるまで4年もかかってしまったのも、もしかしたらシナリオの手直しを何度も求められたからなのかもしない。
『セイント・モード』や『コクソン』にみられるような強烈なオチのあるシナリオをおそらく書けない人なのである、ロバート・エガースは。いわゆる映像に奉仕するデヴィッド・フィンチャー型映画監督さんのような気がするのだ。キリスト教における7つの大罪やセイラム裁判、魔女と悪魔の契約、グリム童話なんかのミスリードを仕込んでおけば、後は勝手にわかったふりをする輩が持ち上げてくれるさ、なーんてゴダール的な傲慢さをそこはかとなく感じられる人でもあるのだ。
次作『ライトハウス』では、実弟マックスのヘルプを受けてシナリオを仕上げたというエガースだが、映画の真意(ホモフォビアの男が自分がホモであることを自覚するお話)を隠す技術は処女作に比べ格段に良くなっていた気がする。映像センスは元々抜群なだけに、ロバート・エガースが今後映画監督として飛翔?できるかは、優れた脚本に巡り会えるかどうかで決まると思うのだが、どうだろう。
ウィッチ
監督 ロバート・エガース(2015年)
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