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ハンフリー・ボガートがフランス領カサブランカで経営するクラブの名前は確か『カフェ・アメリカン』だった。白いタキシードに身を包んだボギーの前に偶然現れた昔の恋人(イングリッド・バーグマン)。本作は、すでに結婚している昔の恋人をどうしても忘れることができない男の哀愁をうたった不朽の名作『カサブランカ』をウディ流にアレンジしている、2人の男の間で揺れ動く“女”と2人の女の間で揺れ動く“男”のラブストーリーだ。
日本版パンフレットはクシシュトフ・キェシロフスキ監督『ふたりのベロニカ』を想起させるデザインになってはいるが、それはウディ・アレンのミスリードにまんまとのっかってしまった広報のミステイク。ジェシー・アイゼンバーグ演じる主人公のボビー(≒ボギー)がNYのクラブ経営者として成功し、そこに昔の恋人ヴォニー(クリステン・スチュアート)が夫のフィル(スティーブ・カレル)を連れだってあらわれる。白いタキシードを着込んだボビーが変わり果てたヴォニーの姿に目を白黒させるシーンは、まさに『カサブランカ』の(毒のある)焼き直しだ。
無常な時の流れを憂う登場人物たちが主人公ボビーの周りにやたらと多く配置されていた理由については、『カサブランカ』のあまりにも有名なテーマソング『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』を使って安易なネタバレを起こさせないための配慮、ウディならではの(意地の悪い)センスといってもいいだろう。ヴォニーと比べてもう一人のヴェロニカ(ブレイク・ライブリー)の扱いがあまりにも低すぎ、かつ女2人の接点がなさすぎる。映画ラスト、NYとハリウッドという離れた場所で行われるパーティで、ドッペルゲンガー的テレパシーで通じ合うのは“ふたりのベロニカ”ではなく、むしろボギーとバーグマンを仮託したボビーとヴォニーの方である。
過去のウディ・アレン作品の中にも、昔の恋人(ダイアン・キートン)への想いを引きずっている男を主人公にした映画が何本もあるので、本作をそれらのセルフ・オマージュと勘違いされた方も多かったことだろう。ボビーの叔父でハリウッドのフィクサーであるフィルと恋人のヴォニーが密会する店に『カフェ・アメリカン』風のヤシの葉陰をさりげなく配置、ユダヤ教からキリスト教に改宗し死刑宣告を受け入れる兄ベン(コリー・ストール)の姿はどこか、ナチスに反旗を翻し恋人のため殺人まで犯すボギーの分身のようにも思える。そして何よりも、『ソーシャル・ネットワーク』なみの早口で台詞を矢継早に繰り出す愛すべきユダヤ人ジェシー・アイゼンバーグに、何かというとNYにすぐ戻りたがるハリウッド嫌いなウディ・アレンの姿が重なる1本。さて次回作ではどんな名作のアレンジを見せてくれるのか今から楽しみである。
カフェ・ソサイエティ
監督 ウディ・アレン(2017年)
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