この映画は多分コメディだ。しかもダイバーシティの影響で注目をあびているフェミニズムに対抗したマスキュリズム作品だろう。ユング心理学へのレファレンスを監督さん自ら公言しており、同性愛ゲイ術家サシャ・シュナイダー(目からビーム光線シーン)やゲイ文学としても有名なハーマン・メルヴィル作『白鯨』への言及等々...本作は間違いなく、自分がゲイであることを認められず逆ギレしてしまうある若い灯台守のお話だ。
映画ライターの皆さんがこぞって指摘している(同性愛には比較的寛容な)ギリシャ神話からの引用(おそらくプレスシートにそのまま書かれていることの丸写し)プロテウス→ウィレム・デフォーとプロメテウス→ロバート・パティンソンがモーホーだったのかは知らないが、本作のベースになっている殺人事件は、まだ世間的に同性愛が認められていない19世紀に実際起こったらしいのである。それゆえのモノクロ映像だったわけなのである。
イングマール・ベルイマン信者とかたるロバート・エガースは、島と閉鎖空間という本作の舞台設定には、やはり巨匠の作品と同じ意匠(モノクロ&スタンダード)がふさわしいと思ったようだ。劇中の台詞「すべてが嘘で出来ている」は、ベルイマンのユング心理学作品『仮面/ペルソナ』のレファレンス。さらに、びっこの足を引きずりながら斧をかついで追走するシーンはキューブリックの『シャイニング』からの引用だろう。灯台に閉じ込められて精神異常を来す2人と、ホテルに閉じ籠り悪霊がのり移るジャック・ニコルソンの姿が見事に重なるのである。
そんな登場人物の閉塞感と岩の上にそそり立つ灯台の勃起感を計算した上でのアスペクト比、その灯台に白いペンキ(精液?)を無理やり塗らされるパディンソン。先輩灯台守デフォーにいいようにこき使われながらも反発できない自分にイライラが募っていく。そして嵐が....密室に閉じ込められた2人は地中に隠してあった酒を掘り出しどんちゃん騒ぎ。あびるほど酒を飲んだパティンソンは、実際パンツにおもらし(おしっこ)&マジゲロまで吐いてしまい、撮影現場はかなりの修羅場だったとか。
酔った勢いでデフォーにある秘密を語り、二人の関係が何やら怪しい方向へと傾いていくのである。「俺のロブスター?おいしかっただろ」「うん」....俺はゲイなんかじゃない。灯油で作った酒を煽りまくり、人魚人形片手に激しくマスをかくパディンソン。どうしてもデフォーが入れてくれなかった灯室に入るため、精神に異常をきたし幻覚まで見るようになったパディンソンは、ついに老人をその手にかけてしまうのである。
かくして、老人の死体から鍵をはぎとり念願のライトハウスに侵入したパディンソンが見たものは.....それはめくるめくゲロいなゲイの世界、『ベニスに死す』のアッシェンバッハが死に際に見た桃源郷と同じ景色だったのではないだろうか。神から火を盗んだ罪により地獄へと突き落とされたプロメテウスことパディンソンは、カモメのジョナサンに腸を引きちぎられながら、前任灯台守の生霊となったカモメと同じく片目を潰された挙げ句、ゲイとして差別されながら生きる(死ぬ)罰を背負うのであった。
ライトハウス
監督 ロバート・エガース(2019年)
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