ビールの買い出しの帰り道に、まさかあんな道のど真ん中に婆さんが突っ立っていたとはな。寸前でかわしたのはよかったけど、お前の彼女が寝っころがってることまで気づかなかったよ…本当に悪かったな、ドニー。何で俺がお前の家に表れたかって?俺はお前でお前は俺だからさ。よくあるだろ殺人者が被害者の亡霊につきまとわれることって。結局俺はお前の自責の念が生み出した妄想なんだけどね。物理の先生が説明してたっけ。お袋さんと妹がのった飛行機から落ちたエンジンが未来と過去を結ぶワームホールを開けちまったのさ、お前の家の真上にな。亡霊ってもんは普通過去のトラウマが原因だったりするんだけど、その“穴”を通って俺は未来からやってきちゃったわけ。28日後にお前の彼女は俺が轢き殺すことになるから、罪滅ぼしじゃないけど、ちゃんとあの日に事をすませることができるよう導きにきたのよ、お前のために。なんたってお前は精神安定剤のスーパージャンキーだからな、心配で心配で。水道管事件や放火事件だって結局はお前が犯人だってバレなかっただろ。そうなることをはじめから解っていたからさ、なんたって俺は未来のお前なんだから。奴が裏で児童ポルノに手を出しているのもニュースを見てもちろん知っていたさ。でもなお前がひよらなかったからこそ、グレッチェンもお前に気を許すようになったんだぜ、そのへんは俺に感謝してもらわないと。えっ、胸から出るモアモア?さあそれはワームホールのせいか、薬のやりすぎのせいかはわからんな。家に居るときしか見えなかったということは、やっぱ“穴”の影響なんじゃね。人間の脳は意識する以前に実は決定を下しているって話知ってっか、ドニー?自由意思なんてもんは実は存在せず、人間は何物かに操られて決定をくだしてるんじゃないかって決定論さ。もしかしたらその“何物”なのかもな、あのモアモア。サイコのマネして俺の右目を潰したろ、あれも未来のお前が俺の右目を撃ったことの予知夢だぜ。よく考えてみればこの映画自体がその決定論の説明にもなってるよな。お前はすでにそうなることを知りながら行動をおこしていたんだから。しかし、最後にお前が28日後に開いたワームホールをたどって過去に遡るとはびっくりドンキーだったよ。あれはさすがに俺の台本にはなかったぜ。お前の勇気っていうか(俺の勇気でもあるんだけど)、大したもんだよ。過去を変えれば未来も変わるってか、それってBTFの見すぎじゃね。愛しのグレッチェンにもすっかり忘れられちまいやがって。お前の母ちゃんも泣いてたぜ。決定論に“穴を開けた”自由意思てか、ったく。
ドニー・ターゴ
監督 リチャード・ケリー(2001年)
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