国内で「天安門事件」以来の大権力闘争、反腐敗闘争が起きている
中国天津での爆発事件は、中国国内の権力闘争から、派閥間の闘争激化が予測される。
その規模は、天安門を超えたともみられる。
石油の備蓄などの港湾である天津の破壊は、中国経済に物言う圧力を加える。
中国当局がネット規制など事態収拾に向かう姿勢が、垣間見える。
石油価格は更に低下するとも見られる。この事は生産企業には朗報であるが、米国のシエールオイルには打撃である.OPECの増産体制がこの事態を生んでいると考えられる。この主体はサウジアラビアと見られている。OPECは、シエールオイルを潰すつもりである。
石油価格は直接に、石油戦争の事態を告げている。
天津の事件より、石油戦争のほうが規模も、影響も大きいと考えなければならない。
天津大爆発でさらに強まる原油価格の下押し圧力
米国では大型シェール企業の倒産が秒読み
2015.08.21(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44583

中国北部・天津で起きた大規模な爆発の現場から立ち上る煙。IMAGINECHINA提供(2015年8月13日撮影)。(c)IMAGINECHINA/ZHI YUE〔AFPBB News〕
8月12日夜、中国・天津市の港湾地区にある倉庫で大規模な爆発が起きた。
北京の南東約160キロメートルにある天津港の2014年の貨物取扱量は世界4位を誇る。全体の貨物取扱量は前年比10%増の4億4580万トン。内訳は金属鉱物1億1050万トン、石炭8890万トン、原油1870万トン(日量37.5万バレル相当)である。
習近平政権は2015年に天津港を自由貿易試験区に指定するなど、中国経済の成長の起爆剤として大きな期待を寄せてきた。同地域には約800社の 日本企業が拠点を構える。トヨタ自動車が天津工場の一時操業停止を決めるなど事故への影響が広がっており、今後大きな損失が発生することが懸念される。
天津市当局は「天津港は危険物を載せた船舶の通航は依然としてできない」としており、今回の爆発事故で原油タンカーなどの港への出入りは当分の間できなくなるだろう。
原油を受け入れられなくなる天津の備蓄基地
原油価格の動向をウオッチしている筆者は、天津港に中国の戦略的石油備蓄の拠点の1つが存在することに注目している。
中国政府は21世紀に入り、3期計画で備蓄原油の増強に努めてきている。第1期の基地として大連など4カ所で整備し、2008年末に建設作業は終了した。
4カ所の総容量は1億300万バレルで、現在その9割に当たる9100万バレルの原油が備蓄されている。この備蓄量は中国の原油輸入量の15日間 分に相当する。ただし、国際エネルギー機関(IEA)が基準とする90日分にはほど遠い。ちなみに米国の備蓄量は7億バレルを超えており、日本も3億バレ ル以上を備蓄している(原油輸入量の70日分に相当)。
中国政府は天津市をはじめ国内各地に2020年までに備蓄基地を拡大する方針で、作業を急ピッチで進めている。第2期、第3期の施設が完成すれば3億4000万バレルの原油の貯蔵が可能となり、原油輸入量の90日分が確保できることになる。
世界の原油市場関係者の間で、中国の原油輸入量に関心が高まっている。中国では民間需要の伸びが低迷しているが、政府の備蓄用需要がこれを補うことから原油輸入量は引き続き増加するとの見方が多い。
天津市の備蓄基地はすでに完成し、原油の注入が始まっているが、今回の事故でその注入作業は中断を余儀なくされる。そうなれば中国の原油輸入量が今月以降日量30万バレル以上減少することになり、原油価格への下押し圧力になるだろう。
中国経済に関するリスクは異次元の段階に?
さて、爆発の起きた倉庫には40種類以上の危険化学物資が3000トン保管されていることが判明し、倉庫を保管する企業と、杜撰な危険物管理を見逃した地元当局の癒着疑惑が浮上している。しかし直接の事故原因は依然不明のままである。
8月14日付の米華字ニュースサイト「博訊網」は、「起爆装置を仕掛けたトラックが危険物倉庫を発火・爆発させた」としている。さらに、「爆発が 起きた倉庫を有する『瑞海国際物流有限公司』の実質的な責任者は中国共産党・序列7位の張高麗副首相の親戚で、軍部にも密接な関係を持っている」と伝えて いる。張高麗副首相は江沢民の強い推薦で党中央政治局常務委員に選出されたと言われており、直前の5年間は天津市のトップを務めていた。
また 8月18日付ニュースサイト「大紀元」は、「今回の爆発事故が江沢民派によるものとの報告を受けた習近平国家主席は、一時的に江沢民と息子の身柄を押さ え、同時に江沢民グループの中心人物である曾慶紅・元国家副主席を自宅に軟禁した」と報じている。さらに8月19日付大紀元は「党中央規律検査委員会の取 り調べを受けている国家安全生産監督管理層局のトップ楊棟梁氏は張高麗副首相と親密な関係があり、楊氏の失脚で天津の政界で激震が起きる」とも報じてい る。
これらの報道の真偽は定かではない。だが、中国では例年、爆発事故が起きた時期に、中国共産党の重要会議「北戴河会議」が開かれる。爆発と会議の開催になんらかの関連があることは間違いないと見られている。
北戴河会議では、党中央政治局常務委員に加えて長老(江沢民もメンバーの1人)たちも発言権があるとされている。反腐敗闘争に抵抗する江沢民派が 攻勢に転じる絶好の機会となることから、江沢民潰しに本気になっている習近平主席が今年は北戴河会議の開催を見送った。そこで、「反撃の機会を失った江沢 民一派が死に物狂いの抵抗をするのではないか」という噂が中国国内で流れていたのだ。
いずれにせよ、今回の爆発事故は、9月3日に北京で抗日戦争戦勝70周年記念軍事パレードを挙行しようとしていた習主席にとって大打撃となったのは確実である。
中国経済は、8月10日の週の人民元切り下げ措置の悪影響が尾を引いている。8月17日にゴールドマンサックスが「人民元は今後1年間に1ド ル=6.60元にまで下落する(現在は1ドル=約6.4元)」との見方を示したように、多くの投資家も「人民銀行が人民元の下支えで介入することに伴い、 同国の外貨準備高は月間約400億ドルのペースで減少する」と見込んでいる(8月18日付ブルームバーグ)。
人民銀行は資本流出を懸念して人民元の下支えに必死だが、「人民元のさらなる下落に備える機関投資家は『今は売れ、考えるのは後でいい』とばかりに人民元資産の投げ売りを行いつつある」(8月18日付フィナンシャルタイムズ)。
おまけに今回の爆発事故である。中国メデイアは「爆発事故を契機に、中国の人件費や生産コスト高騰に悩まされていた日本企業が中国から撤退する可 能性がある」と報じ始めている。18日の上海株式市場は、今回の爆発事故の影響で国有企業など優良株の売りが売りを呼ぶ展開となり、6%超の暴落となっ た。
中国経済に対する見方が冷え込んでいる上に、国内で「天安門事件」以来の大権力闘争が起きているとなれば、中国経済に関するリスクは異次元のものになる。
米国で原油の輸出増加の動き
世界の原油市場の軟調基調も相変わらずである。
8月17日からのニューヨーク商業取引所のWTI原油先物価格は1バレル=41~42ドル台で低迷している。日本の第2四半期のGDP速報値が3 四半期ぶりのマイナス成長になったことや中国経済の減速で、世界的な原油需要が伸び悩むとの見方が広がる一方、OPEC諸国の増産が続きや米国の原油在庫 が減少しないとの観測が相場を押し下げる要因となっている。19日のWTI原油価格は米原油在庫が予想に反して増加したため、40ドル割れ寸前まで急落し たため、米シテイは原油価格は2008年に付けた32.4ドルにまで下落する可能性を指摘した。
8月16日、イランの政府関係者は「イラン制裁解除のOPECの原油生産量は日量3300万バレルに達する可能性がある」と発言したが、その生産 量は既に14カ月連続で生産目標である同3000万バレルを上回っている。OPECの7月の原油生産量は同3210万バレルとなっているため、リーマン ショック直前の2008年7月に記録した過去最高(同3280万バレル)を更新するのは確実だろう。
米国の原油生産もなかなか減少しない。8月14日ベーカーフューズは米国の掘削リグ稼働数は前週に比べて2基増加で4週連続で増加となった。一方、石油の消費量も需要の7割を占める輸送用が減少しており2005年をピークに減少傾向にある。
米国ではシェール革命により軽油中心に原油の生産量が急増したが、国内の製油所は中東産の重質油を精製することを前提に設計されたものが多いため、軽質油が供給過多となっている。在庫能力も限界に近づいているため、余剰原油を輸出しようとする動きが活発化している。
8月14日付ロイターは「米国政府がメキシコに対する原油輸出を月内にも承認する」と報じた。米国は第1次石油危機後の1975年に「エネルギー 政策・保存法」(EPCA)を制定し、原油輸出を原則禁止した。それが2014年初め頃から、米議会では原油輸出を解禁する法案の議論が始まっている。今 年7月30日には上院エネルギー天然資源委員会が法案を僅差で可決した。
だがその一方で、「輸出解禁でシェールオイルの生産・消費が増えると地球温暖化につながる」として民主党内には慎重論が強いため、上院本会議での可決の目途は立っていない。オバマ大統領も、EPCAの改正を伴う全面解禁に踏み切る可能性は低いと見られている。
そこで、板挟みになっている米国政府は苦肉の策を講じ始めている。EPCAはガソリンやディーゼルなどの石油製品(精製品)の輸出を認めているため、その範囲を拡大しようとしているのだ。
2014年6月には、シェールガスに由来する超軽質油(コンデンセート)を「精製品」と認定して輸出を許可した(日本にも2014年10月約30万 バレルのコンデンセートが輸入された)。今回の特例はさらに一歩進めて、シェールオイルについても、メキシコから同量の重質油を輸入することを条件に輸出 が許可される見通しである(日量10万バレル規模)。今回のバーター取引はメキシコ政府が8カ月前に行った要請に応えるものだ。このほか10カ国以上から 米国産原油の輸入申請が来ているという(8月17日付ブルームバーグ)。
石油製品に限ってみると米国は2011年に純輸出国に転じている。原油の輸出についても、例外的に認められたカナダに対して昨年末から日量平均 50万バレル以上輸出されており、輸出の規模は1920年以降で最高水準に達している(一部の原油は欧州に向かったとの報道もある)。
今回の措置の国際原油市場への影響は当面は限定的と見られている。しかし今後なし崩し的に国際市場へ米国からの原油供給が増加すれば、需給緩和状態がさらに進み、原油価格の下押し要因となるだろう。
シェール企業「サムソン・リソーシズ」が破産手続きへ
最後にシェール企業の動向だが、いよいよ大型倒産が発生しそうである。米投資会社KKRが投資した「サムソン・リソーシズ」が9月15日までに破産手続きに入る準備を進めている(8月19日付ブルームバーグ)。
サムソン・リソーシズには伊藤忠商事も2011年に10億4000万ドルを出資したが、同社の業績が悪化したため今年6月保有株式を同社に1ドル で売却し、多額の減損損失を計上している。サムソン・リソーシズは41億5000万ドルに及ぶ債務の再編に向けて債権者と協議してきた。しかし、不調に終 わったことから連邦破産法11条の適用を申請する構えだ。
2015年1月、WBHエナジーが連邦破産法11条の適用を申請した際の負債総額は数千万ドルだった。それに比べると、サムソン・リソーシズの負債総額は桁違いに大きい。
多くのシェール企業は原油価格下落から彼らを守ってきた盾(ヘッジ契約)を9月から失うことになる。その運命やいかに。
中国天津での爆発事件は、中国国内の権力闘争から、派閥間の闘争激化が予測される。
その規模は、天安門を超えたともみられる。
石油の備蓄などの港湾である天津の破壊は、中国経済に物言う圧力を加える。
中国当局がネット規制など事態収拾に向かう姿勢が、垣間見える。
石油価格は更に低下するとも見られる。この事は生産企業には朗報であるが、米国のシエールオイルには打撃である.OPECの増産体制がこの事態を生んでいると考えられる。この主体はサウジアラビアと見られている。OPECは、シエールオイルを潰すつもりである。
石油価格は直接に、石油戦争の事態を告げている。
天津の事件より、石油戦争のほうが規模も、影響も大きいと考えなければならない。
天津大爆発でさらに強まる原油価格の下押し圧力
米国では大型シェール企業の倒産が秒読み
2015.08.21(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44583

中国北部・天津で起きた大規模な爆発の現場から立ち上る煙。IMAGINECHINA提供(2015年8月13日撮影)。(c)IMAGINECHINA/ZHI YUE〔AFPBB News〕
8月12日夜、中国・天津市の港湾地区にある倉庫で大規模な爆発が起きた。
北京の南東約160キロメートルにある天津港の2014年の貨物取扱量は世界4位を誇る。全体の貨物取扱量は前年比10%増の4億4580万トン。内訳は金属鉱物1億1050万トン、石炭8890万トン、原油1870万トン(日量37.5万バレル相当)である。
習近平政権は2015年に天津港を自由貿易試験区に指定するなど、中国経済の成長の起爆剤として大きな期待を寄せてきた。同地域には約800社の 日本企業が拠点を構える。トヨタ自動車が天津工場の一時操業停止を決めるなど事故への影響が広がっており、今後大きな損失が発生することが懸念される。
天津市当局は「天津港は危険物を載せた船舶の通航は依然としてできない」としており、今回の爆発事故で原油タンカーなどの港への出入りは当分の間できなくなるだろう。
原油を受け入れられなくなる天津の備蓄基地
原油価格の動向をウオッチしている筆者は、天津港に中国の戦略的石油備蓄の拠点の1つが存在することに注目している。
中国政府は21世紀に入り、3期計画で備蓄原油の増強に努めてきている。第1期の基地として大連など4カ所で整備し、2008年末に建設作業は終了した。
4カ所の総容量は1億300万バレルで、現在その9割に当たる9100万バレルの原油が備蓄されている。この備蓄量は中国の原油輸入量の15日間 分に相当する。ただし、国際エネルギー機関(IEA)が基準とする90日分にはほど遠い。ちなみに米国の備蓄量は7億バレルを超えており、日本も3億バレ ル以上を備蓄している(原油輸入量の70日分に相当)。
中国政府は天津市をはじめ国内各地に2020年までに備蓄基地を拡大する方針で、作業を急ピッチで進めている。第2期、第3期の施設が完成すれば3億4000万バレルの原油の貯蔵が可能となり、原油輸入量の90日分が確保できることになる。
世界の原油市場関係者の間で、中国の原油輸入量に関心が高まっている。中国では民間需要の伸びが低迷しているが、政府の備蓄用需要がこれを補うことから原油輸入量は引き続き増加するとの見方が多い。
天津市の備蓄基地はすでに完成し、原油の注入が始まっているが、今回の事故でその注入作業は中断を余儀なくされる。そうなれば中国の原油輸入量が今月以降日量30万バレル以上減少することになり、原油価格への下押し圧力になるだろう。
中国経済に関するリスクは異次元の段階に?
さて、爆発の起きた倉庫には40種類以上の危険化学物資が3000トン保管されていることが判明し、倉庫を保管する企業と、杜撰な危険物管理を見逃した地元当局の癒着疑惑が浮上している。しかし直接の事故原因は依然不明のままである。
8月14日付の米華字ニュースサイト「博訊網」は、「起爆装置を仕掛けたトラックが危険物倉庫を発火・爆発させた」としている。さらに、「爆発が 起きた倉庫を有する『瑞海国際物流有限公司』の実質的な責任者は中国共産党・序列7位の張高麗副首相の親戚で、軍部にも密接な関係を持っている」と伝えて いる。張高麗副首相は江沢民の強い推薦で党中央政治局常務委員に選出されたと言われており、直前の5年間は天津市のトップを務めていた。
また 8月18日付ニュースサイト「大紀元」は、「今回の爆発事故が江沢民派によるものとの報告を受けた習近平国家主席は、一時的に江沢民と息子の身柄を押さ え、同時に江沢民グループの中心人物である曾慶紅・元国家副主席を自宅に軟禁した」と報じている。さらに8月19日付大紀元は「党中央規律検査委員会の取 り調べを受けている国家安全生産監督管理層局のトップ楊棟梁氏は張高麗副首相と親密な関係があり、楊氏の失脚で天津の政界で激震が起きる」とも報じてい る。
これらの報道の真偽は定かではない。だが、中国では例年、爆発事故が起きた時期に、中国共産党の重要会議「北戴河会議」が開かれる。爆発と会議の開催になんらかの関連があることは間違いないと見られている。
北戴河会議では、党中央政治局常務委員に加えて長老(江沢民もメンバーの1人)たちも発言権があるとされている。反腐敗闘争に抵抗する江沢民派が 攻勢に転じる絶好の機会となることから、江沢民潰しに本気になっている習近平主席が今年は北戴河会議の開催を見送った。そこで、「反撃の機会を失った江沢 民一派が死に物狂いの抵抗をするのではないか」という噂が中国国内で流れていたのだ。
いずれにせよ、今回の爆発事故は、9月3日に北京で抗日戦争戦勝70周年記念軍事パレードを挙行しようとしていた習主席にとって大打撃となったのは確実である。
中国経済は、8月10日の週の人民元切り下げ措置の悪影響が尾を引いている。8月17日にゴールドマンサックスが「人民元は今後1年間に1ド ル=6.60元にまで下落する(現在は1ドル=約6.4元)」との見方を示したように、多くの投資家も「人民銀行が人民元の下支えで介入することに伴い、 同国の外貨準備高は月間約400億ドルのペースで減少する」と見込んでいる(8月18日付ブルームバーグ)。
人民銀行は資本流出を懸念して人民元の下支えに必死だが、「人民元のさらなる下落に備える機関投資家は『今は売れ、考えるのは後でいい』とばかりに人民元資産の投げ売りを行いつつある」(8月18日付フィナンシャルタイムズ)。
おまけに今回の爆発事故である。中国メデイアは「爆発事故を契機に、中国の人件費や生産コスト高騰に悩まされていた日本企業が中国から撤退する可 能性がある」と報じ始めている。18日の上海株式市場は、今回の爆発事故の影響で国有企業など優良株の売りが売りを呼ぶ展開となり、6%超の暴落となっ た。
中国経済に対する見方が冷え込んでいる上に、国内で「天安門事件」以来の大権力闘争が起きているとなれば、中国経済に関するリスクは異次元のものになる。
米国で原油の輸出増加の動き
世界の原油市場の軟調基調も相変わらずである。
8月17日からのニューヨーク商業取引所のWTI原油先物価格は1バレル=41~42ドル台で低迷している。日本の第2四半期のGDP速報値が3 四半期ぶりのマイナス成長になったことや中国経済の減速で、世界的な原油需要が伸び悩むとの見方が広がる一方、OPEC諸国の増産が続きや米国の原油在庫 が減少しないとの観測が相場を押し下げる要因となっている。19日のWTI原油価格は米原油在庫が予想に反して増加したため、40ドル割れ寸前まで急落し たため、米シテイは原油価格は2008年に付けた32.4ドルにまで下落する可能性を指摘した。
8月16日、イランの政府関係者は「イラン制裁解除のOPECの原油生産量は日量3300万バレルに達する可能性がある」と発言したが、その生産 量は既に14カ月連続で生産目標である同3000万バレルを上回っている。OPECの7月の原油生産量は同3210万バレルとなっているため、リーマン ショック直前の2008年7月に記録した過去最高(同3280万バレル)を更新するのは確実だろう。
米国の原油生産もなかなか減少しない。8月14日ベーカーフューズは米国の掘削リグ稼働数は前週に比べて2基増加で4週連続で増加となった。一方、石油の消費量も需要の7割を占める輸送用が減少しており2005年をピークに減少傾向にある。
米国ではシェール革命により軽油中心に原油の生産量が急増したが、国内の製油所は中東産の重質油を精製することを前提に設計されたものが多いため、軽質油が供給過多となっている。在庫能力も限界に近づいているため、余剰原油を輸出しようとする動きが活発化している。
8月14日付ロイターは「米国政府がメキシコに対する原油輸出を月内にも承認する」と報じた。米国は第1次石油危機後の1975年に「エネルギー 政策・保存法」(EPCA)を制定し、原油輸出を原則禁止した。それが2014年初め頃から、米議会では原油輸出を解禁する法案の議論が始まっている。今 年7月30日には上院エネルギー天然資源委員会が法案を僅差で可決した。
だがその一方で、「輸出解禁でシェールオイルの生産・消費が増えると地球温暖化につながる」として民主党内には慎重論が強いため、上院本会議での可決の目途は立っていない。オバマ大統領も、EPCAの改正を伴う全面解禁に踏み切る可能性は低いと見られている。
そこで、板挟みになっている米国政府は苦肉の策を講じ始めている。EPCAはガソリンやディーゼルなどの石油製品(精製品)の輸出を認めているため、その範囲を拡大しようとしているのだ。
2014年6月には、シェールガスに由来する超軽質油(コンデンセート)を「精製品」と認定して輸出を許可した(日本にも2014年10月約30万 バレルのコンデンセートが輸入された)。今回の特例はさらに一歩進めて、シェールオイルについても、メキシコから同量の重質油を輸入することを条件に輸出 が許可される見通しである(日量10万バレル規模)。今回のバーター取引はメキシコ政府が8カ月前に行った要請に応えるものだ。このほか10カ国以上から 米国産原油の輸入申請が来ているという(8月17日付ブルームバーグ)。
石油製品に限ってみると米国は2011年に純輸出国に転じている。原油の輸出についても、例外的に認められたカナダに対して昨年末から日量平均 50万バレル以上輸出されており、輸出の規模は1920年以降で最高水準に達している(一部の原油は欧州に向かったとの報道もある)。
今回の措置の国際原油市場への影響は当面は限定的と見られている。しかし今後なし崩し的に国際市場へ米国からの原油供給が増加すれば、需給緩和状態がさらに進み、原油価格の下押し要因となるだろう。
シェール企業「サムソン・リソーシズ」が破産手続きへ
最後にシェール企業の動向だが、いよいよ大型倒産が発生しそうである。米投資会社KKRが投資した「サムソン・リソーシズ」が9月15日までに破産手続きに入る準備を進めている(8月19日付ブルームバーグ)。
サムソン・リソーシズには伊藤忠商事も2011年に10億4000万ドルを出資したが、同社の業績が悪化したため今年6月保有株式を同社に1ドル で売却し、多額の減損損失を計上している。サムソン・リソーシズは41億5000万ドルに及ぶ債務の再編に向けて債権者と協議してきた。しかし、不調に終 わったことから連邦破産法11条の適用を申請する構えだ。
2015年1月、WBHエナジーが連邦破産法11条の適用を申請した際の負債総額は数千万ドルだった。それに比べると、サムソン・リソーシズの負債総額は桁違いに大きい。
多くのシェール企業は原油価格下落から彼らを守ってきた盾(ヘッジ契約)を9月から失うことになる。その運命やいかに。