主人公は信州上田出身で富島平太という大学卒業後4年目の若者、つきあっているのが同じ年で銀行に入社した野村萌。平太は中堅のゼネコン、一松組に入社、工事現場が自分に合っていると感じ始めていた矢先、突然に業務部に異動を命ぜられる。なぜ自分が本社の「談合課」とも言われる部署に異動するのかがわからない。
萌の勤める銀行が一松組のメインバンクで、平太は萌を通して、一松組の経済的不安定さや談合の問題、談合を取り調べている検察の動きまで知ることになる。萌は平太が好きだが、サラリーマンとして談合に加担する平太を不甲斐なく世間知らずで頼りなく感じる。その時、銀行のエリートで先輩の園田に声をかけられ平太に黙ったまま付き合うようになる。園田は談合の問題点や一松組について客観的に萌に教える。そして園田は萌に素敵なレストランやワインなどを美味しく楽しく味わう喜びを教えた。萌は今まで知らなかった世界を園田に教わり、どんどん気持ちが傾いていく。一方の平太は大きな地下鉄工事で、業界を仕切っているという三橋に紹介される。三橋は佐久は臼田出身でなんと、平太の母の幼馴染だった。異動も担当替えもふくめて、これはすべて平太の家族との関係と業界のドンとの関わりを知った上での会社上部のオペレーションであったことを悟る平太。そこまでして会社は受注したいのか、と平太は考えるが、2000億円を超える受注を単独でとれればと考えれば、これは中堅のゼネコンにとっては会社を上げての一大イベントなのだった。
読者は平太と萌を通して建設業者と金融機関の関係を知り、三橋と平太の会話で談合がなくならない背景を知る。談合を本当に裏で操っているのは政治家がいるのだが、その政治家への金の流れがポイント。何社もの会社取引に潜り込ませる形でお金が流れ、そして最後は競走馬を育てる北海道の畜産ファームが馬の購入代金として数百万円を受け取る。競走馬の価格に相場はない。いい血筋の馬には数百万円も惜しくはない。筆者のアイデアなのか、よくある手筋なのか。さらに、最後の入札で談合破りとも言えるやり方をあえて行う一松組の役員、そこまで読んで覚悟の上での入札なのかと平太は呆れるやら、感心するやら、自分の与えられた重要な役割に最後にしてようやく気づく。
謎解き、どんでん返しへのプロットなど、600Pを超える小説だが飽きることなく一気に読めて大いに楽しめる、さすが直木賞作家。「鉄の骨」というより、筆者のもともとのタイトル案「走れ平太」の方がしっくり来ると思う。
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