高遠で起きた一家失踪事件を追うのはフリーライターで離婚歴のある栗山冴子、冴子は18年前にも父が失踪、行方不明になっている。冴子は小さい頃から父に、論理的思考、物理の原理、数学的考え方を教えこまれてきた。離婚した理由はそこにもあったのかもしれない。事件を追ううちに、テレビ編集者の羽柴と知り合う。羽柴は妻子ある身ではあるが、一風変わった冴子に惹かれる。
高遠での失踪事件を追ううちに、同じような失踪事件が糸魚川でも起きていることを知り、その取材に向かう冴子、そこでは見知らぬ3人の男女が同じコンビニエンスストア近辺でいなくなっていたのである。失踪事件が起きた場所を地図にプロットしていって気がついたこと、それは地質断層の上だということ。サンアンドレアス断層、糸魚川静岡構造線、断層と失踪事件につながりはあるのか。
そして、高遠の藤村一家4人の失踪事件現場で発見したのは、冴子の父が使っていた手帳なのだった。「なぜこれがここに」冴子の疑問は大きくなるばかりだった。そこには一家の主人孝太の兄だという精二がいた。冴子には嫌悪感しかもたらさない印象の精二。しかしなぜ兄が精二で弟が孝太なのか、違和感があった。
失踪事件は続いた、そして失踪規模が大きくなっていった。霊能者は、「自分の手には負えない」と匙を投げる事態だった。物理学者は世界を支えている理論が崩れだしていると言い出した。πの値を計算する大型計算機の結果が狂い出したというのだ。そしてリーマン予想も崩れ出したという。それがどうした、と考えるのは文化系思考の羽柴であったが、冴子はそこに世界の異変があるかもしれないと考えるようになった。18年前、自分の父はどうしていなくなったのか、その接点は父が失踪直前に旅行していた南米のボリビアとペルーにあるのか、藤村孝太の妻である晴子の18年前の行動を調べてみると、なんと南米を一人で旅行していたことを突き止める。父と藤村家の晴子の接点があった。
父はなぜ失踪したのか、そのきっかけは冴子にあった。父は、相転移の予想をして、その予兆である人の失踪や事件、事故を調査していた。そして、なんと藤村晴子と高遠の地にきていたのだ。冴子を救うために父がとった手段とは。
相転移とは何か。水が相転移すると個体である氷から液体である水になり、100度以上では蒸発して気体となる。宇宙が相転移するということはどうなるのか。その予兆が、人々の失踪になるという考えが冴子のなかで広がっていった。
構想の大きさは宇宙規模、鈴木光司の今までの著作、リングやらせんなどと比べると少々違うテーストであるが、SFという要素とサスペンスが入り混じった物語は共通する。面白いので一気に読めるが、その物語が示す死を超える「消失」の恐怖は、読んでみて味わってほしい。
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