見出し画像

意思による楽観のための読書日記

神社に秘められた日本史の謎 新谷尚紀 ***

神社とは何なのか。その原型はヤシロとミヤ。ヤシロとは屋代で、神を迎えるための祭壇が置かれた場所に建つ小屋の場所を示し、常設の建物はなく神をオマツリする場だった。ミヤは御屋であり、尊い建物、社殿を示す。神社の原型は聖域とされる場所にある巨岩や大木に神霊を招いて神をお祀りした。そこの場所を常設の祀りの場所として建物を建てたのが神殿、岩や石を積み立て並べた祭り場を磐境(いわさか)と言い、神霊の依り代として祭祀の対象とした岩が磐座(いわくら)である。神社の場所とされた領域では、古墳と同様、木を刈ることも避けられたので、樹木が育ち、森、つまり杜と呼ばれるような場所となる。

古代から神という概念はあったようだが、神道という概念は平安時代中期まででてこない。仏教との対立概念として日本古来の宗教として神道の概念が生み出されたのではないか。神社は神道の信仰の中核的場所だった。御神体には滝、巨石、巨木、山という自然や、御幣、鏡、剣、玉という象徴を設け、祭神としては氏神、勧請された氏神、人神がある。行われる祭祀の代表格は五穀豊穣を祈る祈年祭と収穫を祝う新嘗祭。記録が残る最古の神社は日本書紀に記された出雲大社で斉明天皇5年の659年で、それ以前に建てられたとする古事記の伊勢神宮や出雲大社の記述は伝説色が濃い。

神社は、中国では最古の詩集である詩経に記述があり、王族の始祖を祀る場所を神宮と呼んでいた。朝鮮半島の新羅では初代王を祀る場所を5世紀には神宮と呼び、神社の古い呼び方である「かむこそ」は古代朝鮮語という説がある。朝鮮半島には「堂(たん)」があり、日本列島における神社と同様のを指していた。大和言葉である「カミノミヤ」を中国大陸から来た漢字の神宮にあてて、神の宮とよんだのかもしれない。

神殿のルーツは古代の倉庫、宮殿。伊勢神宮の神明造りは食料倉庫、出雲大社の大社造りは王族の館を原型にしている。古代豪族は氏神を持ち、以下の通り。
物部氏:石上神社、蘇我氏:蘇我都比古神社、藤原氏:春日神社、安曇氏:穂高神社、阿蘇氏:阿蘇神社、多氏:多神社、大伴氏:住吉大伴神社、佐伯氏:雄山神社、秦氏:松尾神社、宗像氏:宗像神社、、、

奈良時代中盤になると、租庸調という律令税の管理主体としての神社機能が弱体化し、徴税強化のため、仏教との習合により神宮寺が建てられる。本地垂迹思想がそれを支え、明治維新の廃仏毀釈運動まで継続する。十世紀になると神となり現れた仏は権現と呼ばれ、白山権現、熊野権現という称号は山岳修行の聖地とされた。稲荷神社は氏神であり秦氏創建の稲作神であるが、空海が東寺を建てたときに稲荷神を供養したとされ、狐信仰の民間信仰、荼吉尼天や宇賀神とも習合した。北野天満宮は菅原道真公を祀る御霊信仰であるが、雷神、学問などをも習合した天神社となった。弁財天は宗像三女神と習合されたため、厳島神社、竹生島神社、江ノ島神社は日本三大弁天と呼ばれるようになる。弁財天は北インドの水神であったため水神の宗像三女神と習合、さらに武神、知恵神、音楽神とも呼ばれ、蛇身人頭の宇賀神とも習合した。同様の習合は全国で行われ、吉祥天、荼吉尼天という仏尊なども複雑に神と習合した。

神武天皇の祭政一致を目指した明治維新政府は王政復古の号令により、神道から仏教の影響を排除する指令を出す。江戸時代に仏教に抑圧され逆らえなかった民衆はこの司令を「廃仏毀釈運動」へとつなげ、このとき、今でも現存する国宝、重文の2倍の数の仏像、仏具などが廃棄されたという。同時に、神社の祭神が変更され、祇園感神院は八坂神社となり、祭神の牛頭天王は素戔嗚命とされた。同様に、宮崎の仁王護国寺は鵜戸神宮となり、鳥取の大山寺は大神山神社奥宮、金毘羅大権現は金毘羅神宮、白山本宮は白山姫神社となった。この流れは昭和の第二次大戦時代の国家神道まで連なり、神社神道と皇室神道が結合されて国教的な神道とされ軍部に利用されたとして、国家神道はGHQに禁止されるに至る。幕末の志士たちの御霊を祀る場所として京都に創設された招魂社が、その後の東京遷都に伴い、官軍の戦死者たちを祀る場所として東京招魂社が建てられた。明治12年、天皇の誓旨により、国を安らかにする靖国神社となるが、軍部による国家神道の流れの中で、その運営に陸軍省と海軍省が関わったことが靖国神社の特殊な性格を形作ったと言える。

現在では多くの神社が全国にあるが、多数ある主な神社の種類は以下の通り。
八幡信仰の八幡宮、伊勢信仰の神明社、天神信仰の天満宮、稲荷信仰の稲荷社、熊野信仰の熊野社、諏訪信仰の諏訪神社、祇園信仰の天王社、白山信仰の白山神社日吉信仰の日枝神社、春日信仰の春日神社、浅間信仰の浅間社、氷川信仰の氷川神社など。本書内容は以上。

稲作伝来時代の宗像三女神やヤマト政権成立時代の出雲大社、律令時代の伊勢神社など、神話時代以降の古代史と神社の関係は興味深い。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事