1997-1999年に毎日新聞夕刊に連載された内容に加筆され2001年出版された、カナダ人翻訳家による日本語愛にあふれるエッセイ。
ストレートに表現しない日本語にイライラする話。書道を習い始めたときに「線をもう少し細く書かれたほうが良いんじゃないですか」
と言われたという。日本人なら「そうか、少し細くね」と思うところだが、イアンは書道の生徒、言ったのは先生、なぜ先生が生徒に疑問形で聞くのだと思う。「日本語、XXで合っていますか?」と日本人に聞くと、「良いんじゃあないでしょうか」と答えるという。なぜに疑問文。現菅総理のお得意の回答である。しかし、イアンとしてはさらに考察する。日本人は話している相手の気持ちや立場を慮って、意見を押し付けるのではなく自分でも納得できる機会と時間を与え配慮しているのだと。「私はあなたが好きです」という代わりに「今日の月は美しい」と言うように。
「採算がとれる」という言い方がある。採算という単語は、それ自体で期待する利益を獲得しているのだから「採算が合う」という必要がある。「未然に防ぐ」も重複している気がするし、「傘を持っていってね、雨が降るといけないから」といわれても、傘を持っていっても雨が降るときは降るだろ、という気もすうる。へそ曲がりなのだ。
夫婦選択別姓問題。なんだそれ、日本だって昔から別姓だったじゃないか。北条政子は頼朝に嫁いでも源政子なんて言わなかったし。日野富子だって足利姓は名乗っていない。別姓にしたところで、「家族の絆」問題など生じないと思う。源氏や足利家の滅亡は、もっと別の原因があったはず。芸能人でテリー伊藤とかジェームス三木なんていう人の家庭はどうなっているのか。それより、イアンとしては日本の名前に興味津々なのだ。正親町三条なんてイカスじゃないか。ゴミ袋の「おなまえ」という場所に今度書いてみよう。
日本の会社での挨拶はどれも同じ。次のような文例を散りばめて組み立てれば出来上がる。「社員が一丸となって」「XX元年」「XX業界を取り巻く環境が変革期を迎え」「競争が激化しておりますます厳しい時代になってきています」「グローバル化が進む近年」「ユーザの立場に立った」「より良い取り組みと対応策を検討し」「XXを通して社会に貢献する努力を惜しんではなりません」「透明性を持ち、地球環境に優しい」「地域ナンバーワンの企業となるべく」「全身全霊を賭けて」「使命をまっとうする所存です」株式会社の四半期報告のまえがきもだいたいこんなところ。
とにかく、日本語は面白く、楽しい。