意思による楽観のための読書日記

裸者と裸者(上・下) 打海文三 ***

先に続編の「愚者と愚者」を読んでいたので、順序は逆であるが佐々木海人の生立ち、月田姉妹との出会いが語られてこれも面白い本の読み方である。

佐々木海人は6歳の時に両親と死別してしまった。妹の恵は2歳、弟の隆は7ヶ月だった。応化2年、舞台は日本、金融システム崩壊と経済恐慌と財政破綻により社会的弱者と出稼ぎ外国人などが路上に放り出された。中国では政権が倒れ軍閥が覇を競うか、チベットと新疆ウイグル自治区が独立を宣言、ロシアでも極東シベリアが独立、大動乱時代となった。日本では救国を掲げる佐官グループが反乱を起こし、救国臨時政府を樹立した。政府軍の常陸軍と水戸軍、反政府軍の仙台、宇都宮、信州などの各勢力が争った。

海人は小さい妹弟を守りなんとか生き延びるための方策を考えた。そしてこうした兄弟を支える大人もいた。アパート経営で食堂も経営する竹内里里奈は家の軒先を小さな兄弟たちに提供し食事も与えて彼らが生き残ることを手伝った。街では孤児を集めて兵士とするための孤児狩りがあり、政府も15歳になる子供たちを徴兵した。海人はある時、武装勢力の孤児狩りに会い、連れ去られた。幼い恵と隆のことで頭がいっぱいになったが逃亡は銃殺を意味した。訓練を受け戦闘に参加した海人はすきを見て脱走、そこで月田姉妹と出会った。海人は桜子、椿子の双子を兵士の手から救い、恵と隆が待つ家に戻ってきた。

ロシア系のマフィアボス、ファン・バレンティンは孤児の海人がしっかり者であり、小さい妹と弟を守っていることを知り手助けをしてやる。海人はバレンティンの手引きで生きる糧を手に入れた。常陸でのマフィアである常陸TCのボスの息子に恵と隆は目をつけられる。その結果、里里菜に借りた軒先の家は焼き払われてしまう。月田姉妹と恵、隆を別の場所に匿い、海人は軍隊に入ることを決意する。この時代に収入を得て幼い妹弟を養う方法は他にはなかった。

軍隊で頭角を表した海人は軍曹になり孤児部隊の小隊長を任せられるようになった。また、密売ドラッグの輸送を遅って巨額のカネを手に入れ、恵と隆を安全な場所にかくまってもらえるように軍隊の外人部隊司令官イリイチ大尉に取り計らってもらう。孤児部隊の司令官は白川如月中尉。孤児部隊ではその後も一緒に戦うことになる多くの友人を得る。孤児部隊は女性や弱者の立場を擁護する「ンガルンガニ」と共闘する。ンガルンガニの幹部は森まり、そして月田姉妹もこの戦争を集結したいとの思いから女の子たちによる戦闘集団「パンプキンガールズ」を結成する。

上巻は海人の生い立ちと成長、下巻は月田姉妹の戦いでパンプキンガールズ結成を描く。無益とも思える戦闘が続き、多くの犠牲者が出る。誰が誰と何のために戦っているのかわからない中、東京最大のマフィア東京UFと連携した富士師団が「2月運動」とも連携して海人の孤児部隊を中心にした常陸軍に攻撃を仕掛けてくる。戦闘場所は貧民たちが集まる人種の坩堝でもある九竜シティ、激しい戦いで常陸軍とパンプキンガールズの連合軍が勝利を収めるが、テロに巻き込まれて月田姉妹の桜子と森まりは戦死する。

テーマは女性や外国人、子供たちなどの社会的弱者や性的マイノリティなどに同じ権利を与えるという勢力、そして日本人、男などの力を誇示したいグループとの価値観戦争である。そのためにこんなに多くの人達が死ななくてはならないのかという疑問がある。しかし、これらは平成以降に日本社会を覆うようになった自由競争、効率主義、成果主義、市場至上主義、強欲資本主義の現代社会を少々極端化した世界である。こんな世界にしてしまったらドウシヨウもないではないかという作者の問い掛けである。
裸者と裸者〈上〉孤児部隊の世界永久戦争
裸者と裸者〈下〉邪悪な許しがたい異端の
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↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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